暗部の一夏君   作:猫林13世

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ある意味いつも通り……


年越しの瞬間

 年越しまであと一時間を切った頃、IS学園の食堂では主に一年生が騒ぎ、盛り上がっていた。

 

「よく許可が下りたわよね、こんな騒ぎに」

 

「鈴さんが一夏さんに直接連絡をして許可を貰ったようですわ」

 

「あぁ、更識君の許可なら織斑姉妹も大人しく従うわよね」

 

「そうですわよ。それにしても、ウェルキンは国に帰るのかと思ってましたわ」

 

「今の私はギリシャ代表だもの。家族のいるイギリスに帰っても気まずいだけだわ」

 

 

 セシリアと話しているサラは、亡国機業に身を落としたフォルテ・サファイアの代わりにギリシャ代表の座に収まり、一人ギリシャで生活していくと決めたため、国には帰らずにIS学園で年越しの瞬間を待っているのだ。

 

「オルコットも次期代表筆頭と言われるまでになったんだから、この一年で互いに成長したわね」

 

「それもこれも一夏さんのお陰ですわ」

 

「そう言えば、オルコットは一学期の頭の方で、更識勢に喧嘩を売ったんだっけ?」

 

「わ、忘れてくださいませ、その事は!」

 

 

 セシリアの中で、最早黒歴史になりつつあるあの事件は、彼女の人生を大きく変えたと言っても過言ではない。もしあのまま高飛車な性格だったら、今の人間関係も無かっただろうし、ここまで成長するチャンスも無かったかもしれないのだ。

 

「自国を自慢したいってのは分からなくないけど、喧嘩を売る相手は選んだ方が良いわよ。天下の更識企業を敵に回したら、イギリスって国が無くなるかもしれないもの」

 

「今ではその事を痛感して、しっかりと反省してるのですから、これ以上過去を思い出させるのは止めてくださいませ」

 

「まっ、オルコットの無謀な勝負のお陰で、私も更識君と浅からぬ縁が出来て、こうしてギリシャ代表になったんだから、感謝してるわよ」

 

「感謝されても嬉しくありませんわよ!」

 

「さっきから何を叫んでいるのだ?」

 

「な、何でもありませんわ! ところで、ラウラさんはこの後ドイツに帰られるのですか?」

 

「いや、このパーティーが終わり、軽く寝たら教官たちに指導してもらおうと思っている」

 

 

 ラウラが言う教官とは、もちろん織斑姉妹であり、その二人に指導してもらいたいと思っているラウラに、二人は苦笑いを禁じ得なかった。

 

「ラウラさんの織斑姉妹信奉は相変わらずなのですね」

 

「多少だらしないところがあるようだが、指導力と実績は間違いないからな! あの人たちのような指導力を身につけ、ドイツ軍を立て直すのが私の目標だからな」

 

「モンド・グロッソに出場とかではないのですか?」

 

「あまり興味は無いが、出られるなら出てみたい。そして、本気の更識刀奈と戦ってみたい」

 

「一夏さんにお願いすれば出来るのでは?」

 

「大舞台で無ければ彼女は本気を出さないだろうし、お兄ちゃんに頼りっきりなのも考え物だからな」

 

 

 意外と考えているラウラに、セシリアは彼女に対する評価を改めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分たちがそんな風に噂されているなどと思いもせずに、刀奈たちは年越しの瞬間を待っていた。

 

「後一時間も無いのね」

 

「来年はしっかりと働いてもらいますからね」

 

「わ、分かってるわよ……」

 

 

 虚が卒業したら、その分自分がしっかりしなければいけないというのは刀奈も重々理解しているので、虚に釘を刺されなくても仕事はしっかりしようと考えている。だがそれでも、虚は刀奈がサボるのではないかと心配で、こうして念入りに釘を刺しているのだ。

 

「一夏、来年は無理しちゃ駄目だからね」

 

「別に無理をした覚えは無いんだが」

 

「無理も無茶も無謀もほとんど一緒です。一夏さんはいろいろと私たちを心配させすぎなのですから、少しは反省して改善してください」

 

「あ、あぁ……分かった」

 

 

 美紀に強く迫られ、一夏はそう答えるしかなかった。実際無謀な事も無茶な事もしてきた覚えがあるので、素直に頭を下げるしかなかったのだ。

 

「お兄ちゃんもいろいろとやって来たんだね」

 

「その殆どが私やマナカ相手の所為なのですがね」

 

「……反省します」

 

 

 一夏が無謀無策に突っ込んだ事件の原因は、マナカのISが制御不能に陥り、ビルに突っ込みかけた時だけであり、あの大怪我が無ければもう少し平和な一年だったと言えたかもしれないのだ。

 

「まぁ、一夏君が無謀にもマナカちゃんを庇ったお陰で、こうして家族が増えたわけだしね」

 

「良い事風に言ってますが、あの時一番顔面蒼白だったのは刀奈ちゃんじゃないのよ」

 

「お姉ちゃん、一夏が死んじゃうかもって泣いてたもんね」

 

「か、簪ちゃんだって泣いてたじゃないの!」

 

「私はお姉ちゃんほど泣いてないし、一夏なら私たちを残して死ぬなんてことは無いって信じてたから」

 

「あれ~? かんちゃんも大泣きして『一夏がいなくなったらどうしよう』って言ってなかったけ~?」

 

「本音っ!」

 

 

 普段必要な事は忘れているのに、どうでも良い事ばかり覚えている本音に、簪は語気を強くして詰め寄った。

 

「わ~、かんちゃんが怒った~!」

 

「待ちなさい!」

 

「最後まで騒がしいわね」

 

「お嬢様がそれを言いますか」

 

 

 ドタバタとはしゃぐメンバーを眺めながら、一夏は時計に目をやり、そしてため息を吐いた。

 

「気付いたら年、明けてるし」

 

「まぁ、刀奈ちゃんたちらしいじゃないですか」

 

「……そうですね」

 

 

 碧の纏めに、一夏は少し複雑な表情を浮かべたが、すぐに頭を左右に振って頷いたのだった。




騒がしいのは何処にいても同じですね

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