暗部の一夏君   作:猫林13世

492 / 594
彼女の周りにも、いい人が揃ってるな……


スコールのアドバイス

 昼過ぎまで寝ていた箒は、自分が知らずの内に疲れていたのだという事を実感し、その原因に対してため息を吐いた。IS学園で生活するようになって一週間弱、その間ずっと監視されており、気の休まる時間など殆ど無いのが原因である。

 

「過去の私がしてきたことを考えれば当然ですが、やはり更識の方の監視と織斑姉妹の監視では、大きな差があるのですよね……」

 

 

 更識の監視は、監視している事を気づかせない程の実力と、全力で疑っているわけではないのでそれほど鋭い視線も感じさせない。だが織斑姉妹の監視は、一夏の注意で多少改善されてはいるが、それでも疑いの目を向け続けられるのは精神的に来るものがあるのだ。

 

「鷹月さんたちは特に気にした様子は無く私と接してくれてますが、日下部さんたちはまだ距離を感じますし、VTS以外で私が動かせるISが無いのも事実……中身が変わっていても私は『篠ノ之箒』であることには変わりはないという事ですね……」

 

 

 自分に過去の記憶は無い。だが周りには過去の自分が何をしてきたのか、どんな悪事を働いたのかが知られているので、静寐たちのように普通に接してくれる方が稀なのだ。

 

「上級生からは、あからさまな敵意を感じますし、噂では私が篠ノ之束の妹だから助けられたとも言われているようですし……」

 

 

 実際は一夏が最後のチャンスとして柳韻に預け、更生しなければ処断する予定だったのだが、束の新薬により記憶を失い、一から育て直す事が可能になっただけなのだ。決して束の妹だからとか、そういった類の酌量措置があったわけではない。

 

「とりあえず朝食を――いえ、もう昼食ですかね。とにかく食堂に行きますか」

 

 

 寝間着から着替え、顔を洗ってスッキリしたところで、箒は自分を監視する視線に気付き、思わずため息を吐いてしまった。

 

「仕方ないと割り切っていても、こればっかりは堪えますね……」

 

 

 あからさまに疑っている視線、それに加えてすれ違う人からはまるでゴミでも見るかのような視線を向けられ、すれ違った後に陰口を叩かれる。一夏たち更識の人間が学園にいる時はこのような事は無かったのだが、やはり更識の人間がいなければ箒の扱いなどこれが普通なのだ。

 

「自分がしてきたことを考えれば、当然と言えば当然なのですよね……他の人にとって、過去の私も今の私も同じ『篠ノ之箒』なのですから……」

 

 

 ISを動かせないと考えた時も思ったことをもう一度呟き、今度は無性に悲しくなってしまった箒は、自分でも気づかない内に涙を流していた。

 

「箒、アンタなんで泣いてるの?」

 

「えっ?」

 

 

 食堂にいた鈴に指摘され、ようやく箒は自分が泣いていた事に気が付き、慌てて涙を拭った。

 

「先ほど起きたばかりで、欠伸をしたからでしょう」

 

「そんな感じじゃないと思うんだけど……もしかして、アンタが――いや、過去の箒がしたことを気にしてるんじゃないでしょうね?」

 

「そう言うわけでは……」

 

「確かに前の箒がしてきたことは許されることじゃないし、記憶を失ったからと言って全て無かったことにはならないわよ。だからと言って、反省して何とかしようとしてるアンタを必要以上に責める権利なんて、誰にもないわよ。それこそ、一夏にだって無い」

 

「ですが、私が『篠ノ之箒』である以上、過去は付きまわってくるのです」

 

「それがどうかして、SH?」

 

 

 背後から声を掛けられ、箒は振り返り相手の顔を見た。

 

「えっと……確か、スコール・ミューゼルさん?」

 

「私やオータム、レインは貴女と同じ亡国機業に属していた犯罪者。だけど一夏は私たちを更識企業で面倒見てくれると言ってくれているわ。それは貴女も同じ事よ」

 

「ですが、私はたくさんの罪を犯し、それを認めずに人の所為にしていたのですよ?」

 

「私たちだって、破壊工作や人攫い、窃盗に傷害、殺傷だってしてきたわよ。それでも一夏は、更生の機会をくれた。だから、貴女も必要以上に悩む必要なんてないわよ。監視されているっていっても、手を出されるわけじゃないんだし、必要以上にビクビクしてたら、考えがマイナスな事ばかりになって不健康よ」

 

「おいスコール。何時まで喋ってるんだよ。一夏に頼まれた仕事をしねぇと、また監禁されるぜ」

 

「はいはい、今行くわよ。SH、貴女には貴女を認めてくれる友人がいるようだし、一人で考え込まないことね」

 

 

 そう言い残して、スコールはオータムと二人でどこかに消えてしまった。呆気に取れらた箒ではあったが、スコールのお陰で少し気が楽になっている事に気が付いたのだった。

 

「あの人って確か、一夏が捕まえた元亡国機業の人よね? 良い事言うんだ」

 

「そうですね……同じ立場だからこそのアドバイスだったのでしょうね」

 

「とにかく、箒も手伝いなさいよ。年越しパーティーまで時間が無いんだから」

 

「はい」

 

 

 鈴に誘われるがままにパーティーの準備を手伝おうとした箒ではあったが、自分が何も食べていない事に気が付き、一言詫びを入れてから食事をすることにした。

 

「一人じゃ寂しいでしょ? 食べ終わるまで一緒にいてあげるわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「気にしない、気にしない。アタシたち、友達なんだから」

 

 

 鈴に一言に、箒は先ほどとは違う涙を流したのだが、それを拭う事はしなかったのだった。




これで何でひねくれたのか……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。