暗部の一夏君   作:猫林13世

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驚くのも無理はない


珍しい事

 何時も通りの順番に起床していくメンバーだが、珍しく本音が自力で目を覚ましたことに一夏たちは驚いていた。

 

「明日は雨かもしれませんね」

 

「いや、大雪かもしれないよ?」

 

「さすがに槍は降ってこないとは思うけど、本音が自力でこんな時間に起きたんだから、あり得るかもしれないね」

 

「みんな酷いな~。私だって起きようと思えば起きれるんだからね」

 

「なら普段から起きなさい」

 

 

 虚に怒られ、本音は目を擦りながら反論する。

 

「いっちーに起こしてもらった方が、一日を快適に過ごせるんだよ~」

 

「快適に過ごしたいなら、自分で朝早くから目を覚ました方が快適だと思うんだが」

 

 

 一夏のツッコミに、本音以外が頷いて同意を示した。

 

「そもそも本音は私たちより年上なんだから、お兄ちゃんに甘えないで自力で起きた方が良いんじゃない?」

 

「そうですよ。兄さまだって何時までも本音さんの側にいられるわけではないのですから、少しずつ自立していかなければ」

 

「自立って言われても、普段はちゃんとしてるんだからね~」

 

「本音、このメンバー相手に嘘を吐いても意味は無いぞ」

 

「そうよね、普段の本音を知ってるんだから」

 

 

 一夏と刀奈にそうツッコまれ、本音は困ったように笑みを浮かべて何とか誤魔化そうとしたが、あまり意味は無かった。

 

「本音ちゃんはもう少し努力する事。もしかしたら虚ちゃんの後の更識企業の企業代表として世界を飛び回ってもらう事になるかもしれないんだから」

 

「ほえ?」

 

「碧さん、その事はまだ正式に決まったわけではないので」

 

 

 虚がIS学園に教師として残ることを選んだ場合、その後釜として本音を企業代表にという話は、一夏と碧、そして虚しか知らない話だ。だが知られて困るような事ではないので、一夏も本気で碧を窘めるという感じではなく、他のメンバーに対する説明をするためにツッコミを入れた様子だった。

 

「更識としては、優秀な人材を教師として学園にとられるのは避けたいんだが、虚さんがやりたいというなら止められるわけはないからな。その場合は本音に虚さんの代わりを務めてもらうという話がある」

 

「でもいっちー、私はいっちーの護衛としての仕事が――」

 

「殆ど美紀と碧さんの二人に任せっぱなしだろ? だから怠けてる本音にはしっかりと報酬分は働いてもらわないとな」

 

「本音、報酬貰ってたんだ」

 

 

 マナカが驚いたような目を本音に向けると、本音はその視線の意味が分からずに首を傾げた。

 

「働いた分の報酬を貰うのは当然だよね~?」

 

「だって、働いてないんでしょ? だったら貰わないのが当然でしょ?」

 

「私は精神的護衛だから、いるだけで良いんだよ~」

 

 

 本音の訳の分からない開き直りに、一夏、美紀、虚がため息を吐いた。

 

「何が精神的護衛ですか……貴女はただサボってるだけです」

 

「マスコット的扱いなのは認めるけど、一夏さんをそれで守れてるかは別だと思うよ」

 

「そもそも、本音に報酬を払わなければ、別のところにその金を当てる事が出来るんだが」

 

「でもでも~、せっかくくれるって言ってるものを断るのは失礼じゃないかな~?」

 

「碧さんと美紀は護衛の報酬を貰ってないんだが?」

 

 

 一夏の言葉に、さすがに本音が動揺を見せた。自分よりしっかりと護衛として働いている二人が貰っていないのに、自分が貰っている事がおかしいと思えるだけの良識は持ち合わせているようだと、一夏は心の中で本音に対する評価を改めるのだった。

 

「じゃあこれからは、少しはまともに護衛として働くから、報酬はそのまま貰っておくね」

 

「報酬を貰う事は止めないんだな……」

 

「だって~。放課後とかのお茶にお金かかるんだもん」

 

「そもそも本音も生徒会役員なんだから、少しは手伝いなさいよ」

 

「お嬢様も人の事は言えないと思いますが?」

 

「私、ちゃんとやってるもん!」

 

「確かに本音を比べれば、お嬢様は仕事をしているかもしれませんが、本来お嬢様がやらなければならない仕事の大半は私と一夏さんが片づけているのですが、その辺りはどう弁解をするのでしょうか?」

 

 

 虚に責められ、刀奈は引き攣った笑みを浮かべながら一夏の背中に隠れた。

 

「そもそも一夏君と虚ちゃんが優秀だから、そっちに任せた方が良いって考えで動いてるのだから、私だってちゃんと考えてるんだよ! それが分からないなんて、虚ちゃんも落ちぶれたんじゃない?」

 

「ほう……でしたら、次からは落ちぶれた私の代わりにお嬢様が働いてくれるのですね。それは良かったです」

 

「じょ、冗談だから! だからその顔止めてちょうだい!」

 

「刀奈さんの所為で、俺まで怒られてるみたいじゃないですか」

 

 

 一夏の後ろにいる刀奈を睨んでいるので、虚の視線は一夏にも向いているのだ。だが一夏が怒られるとしたら、精々まともに寝なかったとか、そう言う事なのでここまで激しく怒られることは無い。

 

「ゴメンなさい、だから許して?」

 

「……反省したのでしたら、二度とあのような事は言わないでくださいね?」

 

「はい、反省してます……」

 

「まったく」

 

 

 何とか宥める事には成功したが、これからは発言に気を付けようと心に決めた刀奈であった。




怒った虚は怖そうですね……

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