暗部の一夏君   作:猫林13世

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年末の話が長いな……


大晦日の朝

 二日目は特にお風呂で逆上せたり、刀奈が布団に忍び込んだりという事件も無く無事に皆就寝し、何時も通りの時間に一夏が目を覚まし布団を抜け出す。ちなみに昨日の結果は、簪とマドカが一夏の隣で寝たのだが、二人とも寝相は良く、また一夏を困らせたくないという考えの持ち主なので、一夏の睡眠を邪魔する事はしなかったようだ。

 

「大晦日か……もう一年も終わりか」

 

「高校生がそんなことを思うのはおかしいですよ」

 

「そうですかね? あっという間だと感じているのですから、別におかしくは無いと思いますが」

 

 

 背後から掛けられた声に、驚きもせず返答する一夏に、碧は苦笑いを浮かべながら隣に腰を下ろした。

 

「まぁ、一夏さんは学生と同時に大企業のトップなわけですから、そう思っても仕方ないのかもしれませんけど」

 

「今日の夜は刀奈さんや本音が騒ぎそうだなとか考えた方が良いですかね?」

 

「どうでしょう。まぁ、刀奈ちゃんも本音ちゃんも騒ぐかもしれませんね。何せクリスマスはいろいろあってそれほど騒げなかったわけですし」

 

「あれで騒いでなかったとか言うなら、織斑姉妹に怒られますよ」

 

「そうかもしれませんね」

 

 

 一夏からしてみれば十分騒がしく、また碧も十分刀奈たちが騒いでいたように思えていたのだが、どうやら本人たちは自重していたらしいのだ。だからではないが、更識の息がかかったこの旅館なら、多少騒がしく年越しをしても怒られないだろうと考えている可能性は大いにあるのである。

 

「まぁ、年越しくらいは付き合いますけどね」

 

「今日も特にどこかに出かける予定はありませんし、刀奈ちゃんたちも反省したのか、一夏さんを休ませようとしてましたしね」

 

「昨日の風呂ですか?」

 

 

 慰安旅行に来て疲れを増やしている一夏に気付いたのか、昨日は一夏に「風呂に入れ」とは言わずに、刀奈たちだけで楽しんできたのだ。

 

「風呂に入って疲れるなんて、一夏さんも変わってますよね」

 

「そうですかね? 苦手な人は結構いると思うんですけど」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、一夏は立ち上がり自販機でコーヒーを購入し、視線で碧に何がいいかを尋ねる。

 

「同じもので構いません」

 

 

 碧の答えに頷き、一夏は自分と同じものを購入し碧に手渡した。

 

「いくらですか?」

 

「気にしないでください。これくらいなんともないですので」

 

「さすがにご当主様に奢っていただくわけにはいきませんから」

 

「そんなこと気にしなくていいです」

 

「じゃあ、生徒に奢ってもらうわけにはいきません」

 

「碧さんは護衛としての報酬を貰っていないと聞いていますので、これくらいはさせてください」

 

「一夏さんの側にいられるだけで、十分報酬は貰えてますから」

 

 

 碧の返答に、一夏はたっぷり一秒以上固まってしまい、そして咳込んだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「真顔でそう言う事を言うのは反則だと思うんですけど。たまに美紀もやって来ますが、俺を驚かせて面白いんですか?」

 

「事実ですし、一夏さんを驚かそうともしてませんよ」

 

「……光栄ですね、碧さんにそう思っていただけているのは」

 

 

 今は何を言っても勝てないと理解した一夏は、それだけ言ってコーヒーを一気に飲み干した。

 

「そもそも、美紀ちゃんだって護衛の報酬は受け取ってないんですから、私だっていりませんよ」

 

「そうなんですか? 本音はちゃっかり貰ってると簪から聞きましたが、美紀も貰ってないんですね」

 

「本音ちゃんは護衛の報酬というよりかはお小遣いですけどね」

 

「俺からも最低限はやってるんですが、二重取りしてるんですか、あいつ?」

 

「まぁ、訓練の後皆さんで楽しく騒いでる時に使ってるのかもしれませんし、必要経費なのかもしれませんね」

 

「本音が奢るとは思えないんですがね……そう言うことにしておきましょう」

 

 

 マドカやマナカにも小遣いをあげているので、別に本音に渡しても気にしてなかったのだが、報酬を貰っているのなら考えなければなと、一夏は本音に対しての小遣いの事を頭の隅に置いておくことにした。

 

「そろそろ虚さんや美紀が目を覚ます頃ですし、部屋に戻りますか」

 

「そうですね。ところで、今日は何故ここに?」

 

「目が覚めて布団に留まるのはどうにも居心地が悪くてですね……普段は軽く運動したり、ISの整備などをして時間を潰すのですけど、ここではそれも出来ませんしね」

 

「そもそも整備を必要とするISがここにはありませんからね」

 

 

 運動くらいなら出来るが、学園内ではないのでどうしても護衛は必要になってしまう。そうなると碧も運動する事になるのだが、碧が本気になると一夏でもついて行くことがやっとになってしまい、余計な疲労を溜め込むことになるのだ。だから一夏はこのロビーでまったりする事を選んだのだった。

 

「それにしても一夏さん、私だって加減くらい出来るんですけど?」

 

「余計な仕事を増やさない為ですよ。碧さんが加減出来るのは知っていますが、興が乗ると大変ですからね」

 

「織斑姉妹程ではないですよ?」

 

「そこと比べるのはおかしいですし、そもそも比べられたくないですよね?」

 

 

 一夏の問いかけに、碧はニッコリと笑みを浮かべながら、力強く頷いたのだった。




織斑姉妹と比べられるのは……

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