暗部の一夏君   作:猫林13世

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まあ、確定事項ですし……


代表決定

 当主としての仕事を一区切りさせた一夏は、簪たちがいる部屋へとやって来た。普段ならこの時間は書類整理をしているか研究所に篭っているかの二択だったので、こうした時間の使い方は本当に久しぶりだったのだ。

 

「あれ? 一夏、どうしたの?」

 

「どうしたの、とはご挨拶だな。一区切りついたから一緒に遊ぼうと思ったのに、簪は俺と遊ぶつもりは無いのか。仕方ない、本音、美紀、外で遊ぶとするか」

 

「待って! 遊ぶ! いや、遊びたい!!」

 

 

 人の悪い笑みを浮かべながら美紀と本音に声を掛けた一夏に、簪は普段では考えられないくらいの大声で呼び止めた。普段から一夏と遊べない事に不平不満を募らせていた簪は、一夏と遊べる時間が出来た事で興奮しているのだ、と本音と美紀には思えていたのだった。

 

「さて、簪も一緒という事だから外遊びは無しだな。となると、室内で出来る何かだが……何が良い?」

 

「ゲームで良いんじゃない? かんちゃんも美紀ちゃんも得意分野だし、頭を使わなくて良いから私も楽だからね~」

 

「……考え無しで戦ってるから負けてるんじゃないのか?」

 

「ほえ~? ……はっ!?」

 

 

 今まで簪と美紀に勝つ事が出来ないのが当たり前だと思っていた本音に、一夏から指摘が入った。その指摘を受けた本音は、まるで身体に電気が流れたような感覚に陥っていた。

 

「なるほど~。私が勝てなかったのは頭を使って無かったからか~」

 

「いや、俺に言われても知らんぞ。そもそも、何で本音が負けてるのか、俺は見た事も無いんだから」

 

「本音は純粋に実力不足だよ。私や美紀に正面から突っ込んで来るだけだもん」

 

「そりゃ負けるな……」

 

 

 一緒にいる時間こそ少ないが、一夏も簪や美紀のゲームの腕は知っている。だから馬鹿正直に正面から突っ込んでいくだけだと言われた本音に、呆れた視線を向けたのだった。

 

「今日こそはかんちゃんたちに勝つぞ~!」

 

「……聞いちゃいないな」

 

 

 敗因がハッキリとしてるのにそれに気づいていない本音に、三人は生温かい視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 総当たり戦の代表選出も残すところあと一戦となっていた。

 

「やはり、順当だな」

 

「実力もさることながら、専用機の性能の差はやはりデカイな」

 

「だが、真耶がここ迄全勝なのにも驚きだな」

 

「あいつはやる時はやるヤツだからな。ただ、本番になるとプレッシャーで実力を発揮出来ないのが難点だがな」

 

 

 織斑姉妹が勝敗の打ち込まれたデータを見ながら、次の代表の可能性がある二人の事で話しあっていた。

 

「このままいけば、更識が勝つだろうな」

 

「真耶はここ一番に勝てないからな。だが、更識も漸く中学生になったばかりだ。大一番に慣れているとは思えない」

 

「私はこの更識が勝つと思うけどな~」

 

「うむ……なに?」

 

「何故貴様がここにいる……」

 

 

 姉妹で会話をしていたはずなのに、聞き覚えのある声がしてきたので姉妹は揃ってその声がした方へ視線を向けた。そこには、世界的に有名で、指名手配並みの包囲網で行方を捜されているうさ耳マッドの姿があった。

 

「やっほー、ちーちゃん! なっちゃん! ご無沙汰だね~! 元気してた~?」

 

「束……貴様がコアを造る事を止めたせいで大変なんだぞ」

 

「とっとと引き籠りを止め世間に出てこい! そして再びコアを造れ!」

 

「えー! 嫌だよ~! せっかく面白くなってきたところなんだから~!」

 

「貴様が表から引っ込んでから、更識企業がIS業界を牽引している。その所為で日本政府には『更識企業のバックには篠ノ之束がいるのではないか』という抗議の電話が鳴りやまないらしい。その所為でわたしたちに調べろとまで言ってくるんだ」

 

「じゃあその日本政府をブッ潰せばいいんだね~?」

 

「うむ! ……では無くてだな」

 

 

 ついつい本音が飛び出した千冬に、千夏は冷たい視線を向けたが、すぐに束に視線を戻した。

 

「お前は、更識企業が業績を伸ばし続けている理由を知っているんだろ? 教えろ」

 

「ダメだよ~。それは自分たちで調べるか、日本政府のクズ共に調べさせるかしなきゃ」

 

「面倒だ。答えを知ってるヤツがいるのに、何故私たちが調べなければいけない」

 

「相変わらず自己中心的な考えだね~。そんなだからいっくんがちーちゃんとなっちゃんの許からいなくなっちゃったんだよ」

 

 

 愛しの弟の名前が出てきた所為で、千冬と千夏はそれなりのダメージを心に負った。束の言う通り、一夏がいなくなった原因は自分たちの考え方だという事は何となく自覚しているのだ。

 

「……とにかく、お前と更識企業には何のつながりも無いんだな?」

 

「当たり前だよー。いっくんが生活しているだけで、私と更識には何の関係も繋がりも無いんだから。ところで、もう戦闘が始まってるけど、ちーちゃんとなっちゃんは見て無くてよかったの?」

 

「なに?」

 

 

 無邪気に笑いながらモニターを指差した束の言葉に、千冬と千夏は慌てて視線をモニターに移した。モニターには代表選出戦、最終組み合わせ・最終戦。山田真耶VS更識刀奈の戦闘が映し出されていた。

 

「まだ合図を出して無いはずだが……」

 

「暇だから出しちゃった~! ブイブイ」

 

「また貴様か! このダメウサギが!」

 

 

 篠ノ之束と不毛な言い争いをしていた織斑姉妹を他所に、代表選出戦の最終戦は白熱を極めた。実力、そして機体の差で圧倒するかと思われた刀奈だったが、意外な事に苦戦を強いられたのだが、やはり問題視されていた本番に弱いという真耶が、最後の詰めを誤り、結果刀奈がその隙を突いて勝利したのだった。

 

「この結果、日本代表は更識刀奈とする」

 

 

 千冬の宣言により、刀奈は日本代表の座に就いたのだった。




久々に登場の束さん。近いうちに再登場させる予定です

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