暗部の一夏君   作:猫林13世

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会長職ではありません


刀奈の後任

 特にすることも無く、簪たちに混ざってゲームを楽しむという気分にもなれなかった一夏と、最初から離れたところでのんびりしていた碧の事を思い出した刀奈たちは、二人を誘ってトランプをすることにしたのだった。

 

「これだったら、簪ちゃんの一人勝ちって展開にはならないでしょうしね」

 

「ですが、記憶系のゲームですと、兄さまが圧倒的に有利ではないでしょうか?」

 

「間違っても神経衰弱はやらないから大丈夫よ」

 

「普通に休むという概念はないのですか? 一応慰安旅行だと聞いていたんですけど」

 

「高校生が慰安旅行なんて普通無いですけどね」

 

 

 碧の言葉に、全員が――ただし本音は除く――苦笑いを浮かべた。それだけ自分たちの生活が高校生らしくないという事なのと、学校から任される仕事の量が多いという事なのだ。特に一夏は、それ以外にも様々な仕事を抱えているので、この旅行くらいはゆっくりしたいと願っていてもおかしくは無いのだ。

 

「仕方ないわね。午後はまったり過ごしましょうか」

 

「午後って言っても、既に十五時を過ぎてるんだけど?」

 

「まぁ、細かい事は置いておいて、一夏君を休ませるための旅行なんだから、無理強いは駄目よね」

 

「お嬢様がそれを言いますか。トイレに行き忘れたお嬢様が」

 

「ちゃんと行ったもん!」

 

 

 未だにその事で弄られるのかと、刀奈はちょっと一夏を恨んだが、かといって本当の事を言えば、弄られるではなく怒られるになってしまうので、刀奈としても複雑な思いで耐えているのだった。

 

「そう言えばお兄ちゃん、あの二人の行動はどうなったの?」

 

「あの二人? あぁ、あの駄姉たちか。とりあえずは大人しくなってるらしいな。静寐からなんの連絡もないということは、そういうことだろうし」

 

「姉さまたちが何かしたのですか?」

 

「篠ノ之を完全に疑ってる目で監視している所為で、自分たちも疑われているみたいで困る、というメールが着たんだ。それで、少しマイルドにするよう注意して、様子見をしてたんだよ」

 

「そうだったのですか」

 

 

 一夏の説明に納得したマドカが頻りに頷き、あの二人ならありえそうだなと苦笑いを浮かべたのだった。

 

「織斑姉妹も、指導力は十分だし、観察眼もさすがなものを持ってるんだけど、加減を知らないのよね……」

 

「指導方法も、教師としてというよりかは教官のような感じですからね……学校で教鞭を振るうより、軍隊で軍人を鍛え上げる方が合ってるのかもしれませんね」

 

「まぁ、ラウラのようにズレた考えの持ち主が増えられるのは困りますけどね」

 

「あれは、ラウラが特殊な生まれだからでしょ?」

 

「周りの人間の影響も多分に含まれてると思うがな」

 

 

 出生の秘密を知っているメンバーなので、特に気にした様子もなく話が進んだが、ラウラの出自を知っているのはIS学園の中でもそう多くは無いのだ。

 

「そう言えば虚ちゃん。卒業後は学園に残るの? それとも更識企業の企業代表として各国を飛び回るの?」

 

「何ですか、いきなり」

 

「ほら、来年には卒業じゃない? だから、虚ちゃんの進路を聞いておこうかなって」

 

「教師として残らないかという打診は受けていますが、私には一夏さんの仕事を手伝うという使命がありますので」

 

「本音に変わってもいいですよ? どうせまともに護衛として働いていないので、そっちで働いてもらえれば人材の無駄を省けますし。それに、虚さんに残っていただければ、その分織斑姉妹を追い出す算段が付きますし」

 

 

 一夏がさらりと黒い事を言うのも、このメンバーなら慣れっこなので特に驚いたり、戦いたりはしない。それでも苦笑いを浮かべてしまうのは、それだけ織斑姉妹の言動・行動に問題があるからである。

 

「一夏君が織斑姉妹を更生させようとしてるのは知ってるけど、簡単に治るとは思えないのよね。それこそ、箒ちゃんみたいに劇薬でも使わない限り……」

 

「いっそのこと飲ませてみますか? まぁ、代わりの教師の目途が立ってからの方が楽でしょうけど」

 

「そうなると虚ちゃん一人じゃ足りないわよね……」

 

「何を考えてるのかはだいたい分かりましたが、刀奈さんじゃあまり織斑姉妹と変わりませんからね」

 

「それって酷くないっ!?」

 

 

 つまり刀奈が教師になったとしても、面倒事は減らないという事なのだと言われ、刀奈は頬を膨らませて一夏に抗議する。

 

「私だってやれば出来るんだから、あそこまで酷い事にはならないわよ! きっと……」

 

「何故自信なさげなのかは置いておくとして、刀奈さんは国家代表としてまだまだ出来ると思いますよ」

 

「でもね、次の大会で簪ちゃんたちと揃って頂点に立ったら、もう目標とかなくなっちゃうのよね……」

 

「ですが、刀奈さんの後任はまだ当分必要ないだろうと、日本政府も本気で鍛える事はしてないようですし、簡単に引退出来るとは思えませんが」

 

「そこは、一夏君に口添えしてもらえれば一発でしょ。それに、静寐ちゃんや香澄ちゃんといった優秀な人材はIS学園にいるんだし、そこから代表を選べばいいじゃないの」

 

「あの二人は卒業後に更識で働いてもらう予定なので、国家代表とかに就かれると困るんですが」

 

「まぁ、まだ決まったわけじゃないし、今から悩む必要は無いわよ」

 

 

 本気で後任を考えだしそうになった一夏に、刀奈はそうツッコミを入れて思いとどまらせたのだった。




身体は休んでも頭を休ませない一夏……

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