暗部の一夏君   作:猫林13世

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ブタも煽てりゃ――みたいな感じなのか?


煽てられた鈴

 トーナメントは結局、鈴がラウラを下して優勝した。だが、鈴もラウラもちょっとしたミスがあったら他の人に負けていた可能性がある、それくらい今回参加したメンバーの実力に差は無いのだと見学していた箒には感じられた。

 

「やっぱり更識製の専用機を相手にするのは面倒ね。特に香澄の未来視の能力は勘弁願いたいわね」

 

「この能力を使っても攻撃が当てられないのは、更識所属以外では鈴さんくらいですよ。後は多少なりとも当てる事は出来るんですがね」

 

「つまり鈴も、本音と同じで野生の勘が鋭いって事かしらね」

 

「それって全然嬉しくないんだけど?」

 

 

 静寐の茶々に鈴が形だけの文句を言い、ピットへと戻ってきたのを、シャルと箒は出迎えたのだ。

 

「お疲れ様。みんなやっぱり凄いね」

 

「シャルロットさんも、これくらいは出来るのではなくて?」

 

「それは買い被り過ぎだよ。僕はもう候補生としての実力も無いよ」

 

「そんなことは無いだろう。お前が陰で努力しているのは知っている。謙遜はあまりするものじゃないぞ」

 

 

 ラウラの忠告に、シャルは苦笑いを浮かべながら真実を告げる事にした。

 

「実を言うと、一夏からなるべく実力は隠せって言われてるんだよね」

 

「そうだったのですか? ですが、何故ですか? シャルロットさんが元代表候補生であることは知られているはずですのに」

 

「うん。でもあれは会社の力でなったと思われているらしいから、その勘違いを逆に利用しようって一夏が。万が一襲撃の標的になっても、僕の実力が知られていたらその組織を潰せない、だが勘違いしたままなら襲ってくるかもしれないってさ」

 

「つまり、シャルを餌にして組織を潰すって事? 一夏にしては考え方が荒いような気もするけど」

 

「もちろん更識の人たちがいるから、社員や周辺に危害が加えられる事は無いよ。でも、僕の実力次第では他の場所が狙われてIS業界の発展の妨げになる。それだったら更識傘下の企業を狙われた方が対処しやすいって」

 

「なるほど、そう言う事ね……まったく、高校生らしからぬ考え方なんだから」

 

 

 ため息を吐きながら納得した鈴に対し、ラウラはまだ納得していない様子だった。

 

「だが、シャルロットの実力を知らしめた方が良いのではないか? そうすれば他企業から救援要請が来易く、その事件に介入しやすくなるのではないだろうか?」

 

「例え要請が来たとしても、それは事件が起こってからだし、貴重な人材を失いたくないんだと思うよ。まぁ、僕に一夏の考えが全て分かるはずも無いし、知りたいのなら一夏から直接聞いた方が良いよ」

 

「いや、お兄ちゃんには私などには考え付かないような考えがあるのだろうという事はわかったから問題ない」

 

「そっか。それじゃあ、そろそろアリーナの使用時間も終わっちゃうから、部屋に戻ろうか」

 

「そうですわね。シャワーを浴びて着替えたら、鈴さんの奢りで食堂でお茶しましょう」

 

「なんであたしの奢りなのよ!」

 

「強い人が弱い人に奢るのは当然ですわ」

 

「……まさか、手ごたえが無かったのは」

 

「さぁ? どうでしょうね」

 

 

 セシリアの他にも、にやにやと笑っているメンバーがいるのを見て、鈴は勝たされていたのかと落胆したが、事情を聞かされていないラウラは首を傾げた。

 

「上官が下のものに奢るのは当然のことだろ? 鈴は何を怒っているのだ?」

 

「ラウラ、普通の世界では、敗者が勝者に奢るのが普通なんだよ」

 

「そうなのか。だが、今回は鈴が奢ってくれるんだな? 実に楽しみだ」

 

「それじゃあ、三十分後に食堂に集合って事で」

 

 

 静寐がそうまとめて解散となり、箒も部屋に戻ろうとして、後からついてくる織斑姉妹に質問する。

 

「先生たちから見て、オルコットさんたちは手を抜いていたと思いますか? 少なくとも、私の目には全員本気だと映ったのですが」

 

「手は抜いていなかったが、本気で勝ちに行っていたかどうかと問われれば否だな」

 

「凰にも危ない瞬間は何度もあったが、そのタイミングで他のメンバーは攻撃せず距離を取ったりしていたからな。本気で防御はしていたが、本気で勝ちに行ってはいなかったのだろう」

 

「それは、手抜きとどう違うのでしょうか?」

 

「だいたい一緒ではあるが、本当に手を抜いていたら凰の奴も試合中に気付くだろうし、怪我を負わせていた可能性もある。だから本気で守り、適度に攻撃する事で勝つ気が無い事を隠し、凰を調子に乗せたのだろう」

 

「一夏であったらその程度の事は見通せるだろうし、更識所属の連中も同じだろう。だが凰は戦闘中に冷静さを欠く傾向があるからな。それを上手く利用させたのだろう」

 

「守りの訓練をしていたという事ですか?」

 

「それも少し違うだろうが、何かしら課題を持って取り組んでいたのは確かだろう。でなければ我々が制裁を加えていたからな」

 

 

 今日のメンバーだったら、専用機無しでも止める事が可能な織斑姉妹の言葉に、箒は寒気を覚えた。訓練であろうと手を抜けば織斑姉妹の制裁が加えられると知り、もし自分が参加出来るようになったら本気で取り組もう、そう決意したのだった。




哀れ、鈴……

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