暗部の一夏君   作:猫林13世

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一年で事件起きすぎ……


苦労の総括

 思わぬ形でゲーム大会になったのを、少し離れた場所から見ていた碧の隣に、一夏が腰を下ろした。

 

「いいんですか? 簪ちゃんたちと一緒にいなくて」

 

「俺がいない方が楽しそうですからね。俺はこっちでゆっくりさせてもらいます」

 

「一夏さんがいた方が楽しそうだと思いますけど?」

 

「俺が相手だと、どうしても勝ちたいって思いが強くなってるような気がするので。純粋にゲームで遊ぶなら、勝ち負け関係なく遊んだほうが楽しいでしょうし」

 

「達観してますね」

 

 

 とても高校生らしからぬ考え方に、碧は思わずそんなことを呟いた。その呟きに対して、一夏は苦笑いを浮かべ、自分で淹れたお茶を一口啜った。

 

「子供の頃から大人の世界で生きてきた弊害かもしれませんね」

 

「一夏さんは特にそうでしたからね。普通に生活する事も、ISの所為で出来なくなってしまいましたから」

 

「ISの所為ではなく、駄姉・駄ウサギの所為ですけどね」

 

「それもそうですね」

 

 

 あっさりと自分の意見を取り下げた碧に、一夏はもう一度苦笑いを浮かべた。

 

「そう言えば一夏さん、篠ノ之博士へのお説教はあの程度で良かったのですか?」

 

「あまり大声を出すと、他の人が起きちゃいましたし、どうせまた忍び込んでくるでしょうし、その時にまとめて説教すればいいだけですから」

 

「来ますかね?」

 

「この旅行中かは兎も角として、絶対に来ると思いますよ」

 

 

 ある種確信めいたものがある一夏は、束のラボがあるであろう方角に視線を向け、今度はため息を吐いたのだった。

 

「それなりに思考が読めるってのも面倒ですね」

 

「一夏さんの場合は、思考を読んでいるといよりも、彼女たちの行動パターンが読めるってが原因だと思いますけど」

 

「……あながち否定出来ませんね」

 

 

 ガックリと肩を落とした一夏に、碧は楽しそうな笑みを浮かべる。普段弱っているところを見せる事が無い一夏が、自分の前ではこうして弱っている姿を見せてくれるのが、彼女は嬉しく、また楽しいのだ。

 

「刀奈ちゃんたちには悪いけど、これだけは譲れないわね」

 

「何のことです?」

 

「いえ、私個人のことですので」

 

 

 笑ってごまかした碧に、一夏は首を捻ったが、追及しても答えてくれないというのが分かっているのか、それ以上尋ねて来ることは無かった。

 

「それにしても、色々あった一年でしたね」

 

「いきなりどうしました? 今年はまだ後一日ありますが」

 

「いえ、ここ数年で一番濃い一年を過ごしたなと、改めて思いまして」

 

「まぁ、激動の一年だったと言えるでしょうしね」

 

「まさかこれほど頻繁に国家代表や、代表候補生が変更になるとは思いませんでしたし」

 

「まぁ、それも仕方のない事ですがね」

 

 

 一夏の言う通り、色々と仕方のない事情で変更になったので、文句は言わないがそれなりに苦労したのは否めないので、二人は苦々しい表情を浮かべた。

 

「篠ノ之さんの国際問題に発展するほどの勘違いにも巻き込まれましたし」

 

「確かにあれは勘違いでしたが、巻き込まれた側からしたら、勘違いで済まされるのは遺憾でしょうね」

 

「ですが、結局は勘違いなのですから、それ以上の説明は出来ませんよ」

 

「しかも、その篠ノ之は死に、新たに生まれ変わってしまったので、誰にも説明は出来ない状況ですしね」

 

 

 一夏たちも巻き込まれた側なので、詳しい説明を求められても困る立場なのだ。唯一説明出来たであろう箒も、束の薬により過去の記憶を一切失ってしまったため、説明する事は不可能である。

 

「相変わらずだったのは、織斑姉妹の一夏さんに対する変態行動への対処ですかね」

 

「あれはもう、一回死なないと治らないかもしれません」

 

「いえ、恐らくですが、死んでも治らないと思います」

 

「そう思いますか? 実は俺もそう思ってます……」

 

 

 苦々しいのを通り越して、嫌気まで伺わせる笑みを浮かべる一夏に、碧は同情した。記憶を失ったからといって、血縁関係を清算出来るわけではないので、一夏はこれからも織斑姉妹の事で悩まされることが多々あるのだろうと思うと、思わず同情したくなったのだろう。

 

「後は、そうですね……これほどまでに候補生の指導をすることになるとは思ってませんでしたね。元日本代表ですから、刀奈ちゃんや簪ちゃん、美紀ちゃんの指導はするだろうと思っていましたけど、まさか他国の候補生の指導までするとは夢にも思いませんでした」

 

「教師ですから、それも仕方のない事だと思いますよ。IS学園は敷地こそ日本にありますが、何処の国家にも属さないというのが原則ですから。他国の候補生だろうと平等に指導しないとクレームがきますからね」

 

「殆ど建前上でしか意味をなさない条文ですけどね……日本政府がどれだけ学園運営に首を突っ込んできたか分かりませんよ」

 

「その分、更識から日本政府に抗議文書を送りましたし、これ以上介入するなら、他国からのクレーム処理は政府で行ってくれと警告したお陰で、とりあえずは収まりましたからね」

 

「ですけど、一夏さんの苦労は続いていますよね?」

 

「まぁ、精神的苦労は大分解消されましたけどね」

 

 

 再び苦笑いを浮かべた一夏に、碧はお茶のおかわりを用意するのだった。




普通に考えたらありえないですよね、こんな事件ばっかり……

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