暗部の一夏君   作:猫林13世

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今の彼女は動かせませんからね


箒の憧れ

 ISの勉強という名目で、箒は鈴たちが行っているトーナメント式訓練を見学する事になっていた。もちろん、何か怪しい動きを見せたらすぐに対応出来るよう、見学場所はシャルの隣である。

 

「シャルロットさんは参加しないのですか?」

 

「僕は専用機持ちだけど、ただ持っているだけ。これは一夏がこの子の所有権をフランスから僕個人に変更してくれたからであり、更識企業の力の象徴にもなっているんだよね。まぁ、僕が参加してもまともに相手出来ないっていうのもあるんだけどね」

 

「そうなのですか。映像を見た限りでは、シャルロットさんも他の人に負けず劣らずの技術をお持ちだと思ったのですが」

 

「そう言ってもらえると嬉しいけど、今のみんなとは結構な差がついちゃってるからね。箒が見た映像と今の動きとでは、やっぱり違うんだよ」

 

「そうですか……」

 

 

 ちょっと残念そうな雰囲気を醸し出した箒ではあったが、アリーナに三人出てきたのを見て興奮の方が勝ったようだった。

 

「そんなに楽しみなの?」

 

「実際の戦闘は見たことがありませんので。何時かは体験したいとも思いますが、今は見られるだけでも嬉しいのです」

 

「そんなものなんだね……まぁ、箒の場合は一夏が使用許可を出してくれないとISを使えないもんね」

 

「一夏さんは使ってもいいと言ってくれるかもしれませんが、ISの方が私を信用してくれていないようですので、まだちょっと難しいんですよね」

 

「今の箒の所為じゃないけど、それは仕方ないからね……あれだけISの事をバカにしてたら、反応してくれなくなって当然だしね」

 

 

 シャルは過去の箒がしでかしたことを言ったのだが、箒はシュンと凹んでしまった。

 

「今の箒が悪いんじゃないから、凹むことは無いと思うけど」

 

「いえ……過去の自分を殴ってやりたいのですが、それが出来なくて残念なのです」

 

「あ、あはは……そこらへんは前の箒と同じような考え方なんだね」

 

「そこらへんとは?」

 

「とりあえず武力で解決しようとすること、かな」

 

「殴られても当然の事をしでかしたわけですから、殴りたいと思うのは仕方ないですよ」

 

 

 箒の言い分は最もであると、シャルも分かっていたのでそれ以上ツッコミは入れずに、合図を待っている鈴の視線に気付き、ブザーを鳴らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく目を覚ました本音は、他の人がのんびりしているのを見て首を傾げた。

 

「みんなどうしたの? 今日はのんびりする日なの~?」

 

「一夏が寝不足で疲れてるっぽいから、今日はここでのんびりする事に決まったんだよ。まぁ、本音はずっと寝てたから仕方ないけど」

 

「本音ちゃん、よくこんな時間まで寝てられるよね」

 

「こんな時間って、まだ午前中だよ~?」

 

「一番早く寝てるのに、一番遅くに起きるってどうゆう事よ」

 

「それだけ体力が有り余ってるって事でしょうね。お嬢様、本音の仕事を増やしてはどうでしょうか?」

 

 

 虚の提案に、刀奈は腕を組んで考え込んだ後、一夏に問いかける。

 

「増やしてもいいとは思うけど……一夏君はどう思う?」

 

「本音に任せたところで、どうせまともにやりませんから……結局はこちらで処理する事になるのですから、無駄な事はしないでおきましょう」

 

「ですって。虚ちゃんもそれでいいかな?」

 

「一夏さんの仰ると通りでしょうし、致し方ありませんね」

 

 

 盛大にため息を吐いた虚に、本音は無邪気に話しかける。

 

「おね~ちゃん、そんなにため息ばっか吐いてると幸せが逃げちゃうよ~?」

 

「誰のせいでため息を吐いていると思ってるのですか」

 

「刀奈様だって原因の一人だと思うけど~?」

 

「確かにお嬢様の所為で吐くため息もありますが、大半は貴女の所為です!」

 

 

 まったく悪びれない本音に、虚は思わず怒鳴ってしまい、それでも反省しないのだと思い出してもう一度ため息を吐いた。

 

「虚さんも苦労してるんだね」

 

「本音のお姉さんですし、仕方ないのかもしれないけどね」

 

「でも、一夏は血縁じゃないのに本音の事で頭を悩ませてるんだから、余計に性質が悪いよね」

 

「まぁ、本音だからね……」

 

 

 簪と美紀の言葉にも動じることは無く、本音は再びその場に寝転び、次の瞬間には寝息を立てていた。

 

「まだ寝るの……」

 

「一夏さん、起こした方が良いのでしょうか?」

 

「そうだな……とりあえず耳を塞いでくれ」

 

 

 周りにいる人に耳をふさがせてから、一夏は本音の耳元に待機状態の闇鴉を近づける。

 

「ほえっ!?」

 

「おはようございます、本音さん。いい加減起きないと次はこの程度では済ませませんからね?」

 

「さすがに目覚めたよ~……相変わらず過激な起こし方だよね~」

 

「これくらいしないと、本音さんは目を覚ましませんからね」

 

「いっちーがキスしてくれたら起きると思うけどね~」

 

「何処の白雪姫ですか、貴女は。だいたい一夏さんにキスされたいなどと、贅沢にもほどがあります! 私だってしてもらったことないのに」

 

「いや、お前にはしないからな?」

 

「何故ですか!?」

 

「何故って……当然だろ?」

 

 

 一夏のツッコミに、闇鴉以外の女子は頷いて同意を示す。彼女ではない――もっと言えば人間ではない闇鴉にキスをするなど、他の彼女からしたら許しがたい事なのである。

 

「とりあえずご苦労。もう待機状態に戻っていいぞ」

 

「いえ、せっかくですしこのままのんびりさせていただきます」

 

「何がせっかくなんだか……」

 

 

 闇鴉の言葉にため息を吐きながらも、一夏たちは再びのんびりする事にしたのだった。




のんびりしてるようでしてない……

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