暗部の一夏君   作:猫林13世

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誤魔化し方がちょっと……


寝不足の一夏

 一夏からのメールで、箒に対する監視を少し緩める事にした千冬と千夏は、どの程度まで緩めて良いのかを話し合っていた。

 

「とりあえず全面的に疑っているという気持ちは捨てなければならないだろうな」

 

「だが、アイツが何をしでかすか分からない以上、疑うのは当然だと思うのだが」

 

「それは私も分かっている。だが、一夏から注意されてしまった以上、改善せねばご褒美が無くなる可能性だって十分にあるのだ。多少慎重になるのも仕方ないではないか」

 

「それは確かに……あの馬鹿を疑う事を止めるのと、一夏からのご褒美を天秤に掛ければ、どちらを選ぶかは明らかだからな」

 

 

 ちなみに報酬は、マドカ・マナカと食べる一夏の手料理なのだが、ここに一夏が含まれない事に二人は気づいていなかった。

 

「家族団欒など諦めていたが、まさかあの馬鹿を監視するだけでその夢が叶うとはな」

 

「お姉ちゃんとして、恥ずかしくないように振る舞わなければな」

 

 

 非常に今更なのだが、二人は姉としての尊厳を汚さないように振る舞おうと決めているのだ。

 

「とりあえず、あの馬鹿箒が一人で行動している時はしっかりと監視し、他の連中と行動を共にしている時は多少緩める感じでいいのか?」

 

「いや、あの馬鹿が一人で行動している時も、多少なりとも監視の目を緩めないとまた怒られる可能性がある。どうやらあの馬鹿も生まれ変わった事により気配察知のレベルが上がっているようだからな。あまりキツ目の視線を向けると気づいてしまうらしい」

 

「では、一人で行動している時は普段の監視をするような感じで、他に人がいる時は見ているだけという感じで良いのか? だがそれだとわたしたちの職務怠慢だとか言われそうだが」

 

「その辺りは一夏も考慮してくれるだろうし、アイツが何もしなければそれでいいのだからな、したら容赦なく叩き潰せばいい」

 

「それもそうだな。あの馬鹿が大人しく過ごしてくれれば、わたしたちは家族団欒の時を手に出来るのだからな」

 

 

 一夏の料理を姉弟妹揃って食べられる時を夢想し、二人はだらしなく口を開けながらにやにやしていた。重ねて言うが、食事の席に一夏はいないのだが、この二人はその事に気付いていないのでこのようなだらしのない顔になっているのだった。

 

「おっと、あまりの興奮で時を忘れる所だったな」

 

「とりあえず馬鹿箒の監視は体裁を保つ程度という事で良いんだな」

 

「ああ。一夏もその程度で構わないと言っていたしな」

 

 

 最初から言われている事を実行出来ていない時点で姉の威厳も無いのだが、二人は頑張って一夏に褒めてもらおうと今日も監視を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束の乱入騒動の所為で寝不足の一夏は、朝から微妙に眠そうな雰囲気であった。もちろん、付き合いの浅い相手には気づかない程度の変化なのだが、ここにいるのは一夏と深い関係であるメンバーなので、全員が一夏の変化に気付いてしまったのだった。

 

「一夏、良く寝れなかったの?」

 

「一夏さんは環境が変わっても問題なく寝られるはずですよね? 何があったのですか?」

 

 

 簪と美紀に指摘され、一夏ではなく刀奈が少し慌てたような雰囲気を醸し出した。その事に気が付いた虚は、疑いの目を刀奈に向ける。

 

「まさかお嬢様。一夏さんに夜這いを掛けたのではありませんよね?」

 

「そ、そんなことしてないわよ! てか、夜這いって虚ちゃん……」

 

「お嬢様なら十分あり得る事ですので」

 

「それでお兄ちゃん、いったい何があって寝不足なの?」

 

 

 マナカのストレートな質問に、一夏も正直に答える事にしたのだった。

 

「未明に目を覚ました刀奈さんがトイレに行こうとして、おかしな気配を感じ取って俺の布団に潜り込んできて、その気配の正体を探ったら束さんだった」

 

「お姉ちゃん……」

 

「だって! 本当にお化けだと思ったんだもん!」

 

 

 本当はトイレではなく寝顔を撮ろうとしていたのだが、そこは一夏の優しさで変更されていた。万が一寝顔を撮ろうとしたなどと知られれば、この程度では済まなかっただろう。

 

「まぁ、その後いろいろあって寝てないだけで、みんなが気にするようなことは無い」

 

「ですが兄さま。この旅行は日ごろの疲れを癒すためのものですので、あまり無理をせずに寝ては如何でしょうか」

 

「そうだよ。本音だってまだ寝てるんだし、お兄ちゃんももう少し寝たら? なんだったら添い寝してあげるよ」

 

「平気だ。本当に疲れたら寝るが、まだそれほどでもないし、今日は部屋でのんびりするだけだろ? だから多少寝不足でも問題は無い」

 

「そうですね。それに、無理をしていると判断した場合、私が強制的に寝かしつけますので」

 

「碧さん……怖いですよ」

 

「だって、それくらいしないと一夏さんは休もうとしませんでしょ?」

 

「そんなこと――」

 

 

 無いと否定しようとした一夏だったが、周りが碧の言葉に頷いて同意しているのを見て思わず言葉を呑み込んでしまった。

 

「とにかく一夏君、今朝――って言って良いのか分からないけど、ゴメンね?」

 

「いえ、元凶は束さんですので」

 

「お嬢様は寝る前にちゃんとトイレに行かないからそう言う事になるのですよ」

 

「行ってるわよ!」

 

 

 何とか誤魔化す事に成功した一夏は、碧にだけ分かるように苦笑を浮かべ、未だに寝ている本音を起こす為に立ち上がったのだった。




まぁ、本当の事を言えばもっと責められますしね……

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