暗部の一夏君   作:猫林13世

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悪戯を思いついた人が若干名……


謎の気配

 何時もより早く寝たので、刀奈は妙な時間に目を覚ました。寮ではない天井を見て、一夏たちと泊りがけで旅行に出たのだと思い出し、ちょっとした悪戯を思いついたのだった。

 

「(まだみんな寝てるだろうし、今のうちに一夏君の寝顔を写真に収めちゃいましょう)」

 

 

 謎の病気、一夏分欠乏症を避けるために、一夏の写真は必須アイテムなのだが、寝顔ともなればその効果は絶大だろうと刀奈は思っていた。

 

「(来年はモンド・グロッソもあるし、一夏君の側を離れなきゃいけない時間も増えて来るだろうし、新しい一夏君の写真はどうしても欲しかったのよね)」

 

 

 寮だと一夏が寝ている時間だろうと部屋に近づけば織斑姉妹が飛んできてしまうし、頼んだからと言って寝顔を撮らせてくれるとは思えない。だから刀奈はこの機会に一夏の寝顔写真をゲットしようと動き出したのだった。

 

「(えっと、一夏君のお布団は確か……)」

 

 

 一番遠い場所に布団を敷いたため、他の人を踏まないように細心の注意を払いながら一夏の布団を目指す刀奈。そしてあと少しで一夏の布団に到着するというタイミングで、誰かの視線を感じ辺りを見回したのだった。

 

「(誰? 人の気配はしないんだけどな……)」

 

 

 碧も一夏も布団にいるはずなので、誰かの視線を感じるなんて事は無いはずだと刀奈は思っている。だから気のせいだろうと考え再び一夏の布団を目指そうとすると、背後から何者かの気配を感じたのだった。

 

「誰っ!」

 

 

 他の人は寝ているという事を忘れ大声を出してしまった刀奈だったが、運良く誰も目を覚ますことは無かった。

 

「やっぱり誰もいない……気のせいなのかな?」

 

 

 振り返ってもやはり誰もいなかったので、刀奈は首を傾げながらも一夏の布団に近づき、やはり背後になにかいるような気配を感じ取った。

 

「いったい誰なのよ……」

 

 

 まさか人ならざる者がいるとは思えないしと、刀奈はゆっくりと背後を確認する。すると今度は何やら靄のようなものを見た気がして、刀奈は震えあがり一夏の布団に飛び込んだ。

 

「ん……何かあったんですか?」

 

「一夏君……お化け」

 

「お化け?」

 

 

 何を言っているんだと一夏は気配察知をし、とある人物の気配を感じ取りため息を吐いた。

 

「何やってるんですか、束さん」

 

「これでも気づかれちゃうか~。そこの巨乳は誤魔化せたんだけどな~。てか、いっくんの布団に飛び込むなんてうらやまけしからんことをするなんて予想外だよ」

 

「建造物不法侵入の罪で警察の厄介になりたいんですか?」

 

「そんなことは無いよ。ただいっくんの寝顔写真が欲しかっただけだよ」

 

「……そんなもの、何に使うんですか」

 

「それはもちろんストレス発散に……というのは冗談だから、その殺気をしまってくれないかな?」

 

「では、何に使うんですか?」

 

「当然一夏分補給に使うんだよ。本当は本物に触れ合って補給したいところだけど、ちーちゃんやなっちゃんの監視が厳しくてね。なかなか会いに来れなからさ」

 

「だから、その『一夏分』ってなんなんですか?」

 

「でも、そこの巨乳も同じ目的でいっくんの布団を目指してたようだし、お説教はそっちのもしなきゃ不公平だよ」

 

 

 束の告白に、刀奈は一夏の布団の中でビクンと身体を跳ねさせた。怒られるかもしれないとは最初から分かってはいたが、まさか束に証言されるとは思ってなかったので予想外の反応をしてしまったのだ。

 

「そもそも、貴女は宇宙規模のストーカーなのですから、こうしてこの場に来る必要は無かったんですよね? 刀奈さんを驚かして楽しんでたんですか?」

 

「そんなことは無いよ? いっくんにこのステルスが通用するか試そうとして、そこの巨乳がいっくんの布団を目指し始めたからちょっと悪戯してやろうかなって思っただけだよ」

 

「ますます性質が悪いじゃないですか。とにかく、大人しく帰ってください。そして、そのステルス迷彩の性能でも上げる努力をしてください」

 

「まぁ、更識の血族は誤魔化せるって分かっただけでも収穫かな。それじゃあいっくん、最後にハグしようじゃないか!」

 

「帰れ」

 

 

 とびかかってくる束に軽くチョップをして、一夏は束を部屋の窓から中庭へと放り出した。

 

「冷たい……でも、そんないっくんが好き」

 

「……怒られないと帰らないならそう言ってくださいよ」

 

「か、帰ります!」

 

 

 一夏が満面の笑みを浮かべたのを見て、束は大慌てで自身のラボへと帰っていった。束が帰ったのを確認してから、一夏は自分の布団に潜り込んでいる刀奈に声を掛けた。

 

「お化け退治は終わったので、そろそろ自分の布団に戻られてはどうですか?」

 

「もうちょっとだけ……本当に怖かったんだから」

 

「そもそも、何で刀奈さんまで俺の寝顔を撮ろうとしたんですか?」

 

「だって、モンド・グロッソとかで一夏君の側を離れる機会が増えそうだったから、最高の一枚を撮りたかったのよ……」

 

「だったら、後で一緒に写真を撮ればいいだけじゃないですか。刀奈さんなら断りませんよ」

 

「そうなの? だったら、こんな怖い思いしないで良かったじゃないの……」

 

 

 安心したのか、刀奈は急に睡魔に襲われ、そのまま一夏の布団で寝てしまった。

 

「やれやれ……」

 

 

 眠ってしまった刀奈をそっと抱きかかえ、刀奈自身の布団へ運んだのだった。




また一夏の気苦労が増えた気がするな……

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