じゃんけんの結果、一夏の両隣は碧と虚が勝ち取った。珍しく年上組みが一夏の隣という事で、一夏も少し意外そうな表情を浮かべた。
「珍しい組み合わせですね」
「そう言えばそうですね。普段は刀奈ちゃんが甘えるから、私や虚ちゃんはあまり一夏さんに甘えたりはしませんし」
「甘えるんですか?」
「せっかく隣で寝るわけですから、少しくらいお喋りに付き合ってもらいましょうかね」
「それくらいでしたらいいですよ」
碧と虚なら行き過ぎた甘えもないだろうと一夏は思っているし、普段から自分が甘えている部分があるので、それくらいなら喜んで付き合うつもりだった。
「いいな~、私も夜通しお兄ちゃんとお喋りしたいな」
「夜通しではないと思いますけど」
「でも、お兄ちゃんとお喋りしたい事はいっぱいあるから、一日じゃ終わらないかもしれない」
「最早夜通しですらなくなってますよ」
マナカのボケなのか本気なのか分からない提案に、マドカが呆れながらもツッコミを入れる。はじめはぎこちなかった姉妹の関係は良好といえるくらいにまでになっているようで、一夏は微笑まし気に二人を見つめた。
「一夏君もやっぱりお兄ちゃんなんだなって思うわよね、あの表情を見ると」
「たまに刀奈お姉ちゃんや本音の事もあんな感じで見ていますけどね」
「えっ、私って本音やマドカちゃんたちと同列なの!?」
「まぁ、お姉ちゃんって甘えたりして妹みたいだしね」
簪の一言に、刀奈は大げさに崩れ落ちウソ泣きを始めた。
「よよよ……まさかこの私が妹扱いなんて……」
「ウソ泣きは通用しないってさっき言ったよね」
「えへ、まぁね。一夏君からしたら私も妹みたいに思えちゃうんだろうね。でも、本音と同列視されているのは少し考えないといけないわよね」
「そう思うのでしたら、お嬢様ももう少し頑張られては如何でしょう。先ほどの会話ではありませんが、生徒会長として立派に勤め上げてから一夏さんに会長の座を譲る方がよろしいと思いますよ」
「でも、一夏君が最強じゃない? 私たちは、一夏君より確かにIS戦闘では強いけど、一夏君に命じられたら逆らえないし」
「そう言う問題ではないと思うのですが……」
確かに一夏に命じられたら逆らうことは無いだろうと虚も思ったが、最強の意味はそう言う事ではなく純粋な武力ではなかったと改めて考えてしまったのだった。
「とにかく、お嬢様はもう少しご自分の仕事はご自分で片づけられるようにならないといけませんね」
「分かってるわよ……」
不貞腐れながら自分の布団を用意する刀奈を見て、一夏と碧は微笑ましい気分になったのだった。
周りは全員寝たようだと、一夏は気配察知で理解した。こうして大広間で雑魚寝するのも久しぶりだと感慨深げに思っていると、隣から声を掛けられた。
「一夏さんはまだ寝ないのですか?」
「夜更かしに慣れていますから、この時間じゃまだ眠くないのですよ。碧さんこそ、普段忙しいのですからこういう時くらいは早く寝たらどうです?」
「私もこの時間じゃまだ眠くないのですよ」
そろそろ日付が変わる時間だというのに、一夏も碧も全く眠気が訪れずにいるのだ。普段からこの時間まで起きている事が多いのもあるが、今日はそれほど忙しくもなかったので、疲れていないのが主な原因だと二人は考えている。
「刀奈さんは兎も角、虚さんも寝てしまいましたしね」
「虚ちゃんも普段から働きすぎですからね。疲れていても不思議はありませんよ」
「碧さんだって、織斑姉妹の相手や、山田先生や五月七日先生のフォローだったり、大変なのではありませんか?」
「一夏さんほどではありませんよ。本音ちゃんやマドカちゃん、マナカちゃんの相手や刀奈ちゃんのフォローだったり専用機の調整、織斑姉妹へのお説教など、気の休まる時間の方が圧倒的に少ないと思いますが」
「言いたくありませんが、慣れてしまいましたから」
「私もです」
互いに苦笑いを浮かべ、一夏は寝ている他の人に視線を向け、柔らかい笑みを浮かべた。
「皆が楽しそうでよかったです」
「一夏さんも楽しまなければ意味はないんですよ?」
「俺もちゃんと楽しんでますよ。正直に言えば、マナカがここまで打ち解けられるとは思ってなかったので」
「本音ちゃんの特技とも言えますね。誰とでも仲良くなれて、周りに同化させるというのは」
「本人は無自覚ですけどね」
本音がいたからマナカもここまで打ち解けたのだろうと認めている反面、それくらいしか本音は役に立たないとも思っているのか、一夏は苦笑いを浮かべた。
「篠ノ之さんもクラスに溶け込めたようですし、やはり本音ちゃんの特技は凄いですね」
「まぁ、篠ノ之の事はまだ要観察ですがね」
「今のところは問題なさそうですが」
「今のところは、ですからね。これが恒久的に続けば問題ないですが」
「やはりご当主様はいろいろと大変そうですね」
「皆さんが手伝ってくれるので、それほどでもないですけどね」
それでも一夏が多忙であることは碧は重々理解しているので、もう少し手伝えたらと思ってしまった。
「碧さんが気にする事じゃないですよ。こればっかりは本家の中でも上位の人間がする事ですから」
「早く一夏さんと結婚して上位に進出してお手伝いしたいです」
「……そう言う事をはっきりと言わないでください。照れます」
「ふふ、こういうところは可愛いですよね」
照れる一夏を見て、碧は微笑ましく思いながらも、いずれは手伝えるようにならなくてはと心に決めたのだった。
本音より役に立つのにな……