暗部の一夏君   作:猫林13世

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嫉妬深いですからね……


簪の嫉妬

 飛び出していった刀奈と、夜風に当たりに行った一夏が一緒に戻ってきたのを見て、簪は二人に何かあったのではないかと勘ぐった。

 

「お姉ちゃん、一夏と何かしたんじゃない?」

 

「何もしてないわよ。精々お喋りくらいよ」

 

「何の話をしたの?」

 

「普通の話しかしてないわよ。来年の生徒会の事を相談したり、一夏君に生徒会長をお願いしたいなーとかよ。ね、一夏君?」

 

「そうですね。特に実のある話をしたわけじゃないから、簪もそこまで気にする必要は無いぞ」

 

 

 一夏の言い分に少し不満げな表情を浮かべた刀奈ではあったが、確かに実のある話をしたわけでもないので、すぐさま表情を改め、簪に笑いかけた。

 

「まったく、簪ちゃんは心配性なんだから」

 

「だって、お姉ちゃんなら抜け駆けくらいするだろうし、一夏も何だかんだでお姉ちゃんに甘いから、その場の空気に流されちゃうかもしれないと思ったから」

 

「酷いわね!? 簪ちゃんはお姉ちゃんの事を信用してないの?」

 

「うん」

 

 

 即答されて、刀奈は冗談抜きで泣きそうになり、一夏の胸に飛び込んだ。

 

「一夏君、これが反抗期なの? 簪ちゃんがお姉ちゃんの事を嫌いになっちゃった!」

 

「別に嫌いだとは言ってなかったと思いますが」

 

「でも、昔はもう少しお姉ちゃんの事を信じてくれたのに……」

 

「お姉ちゃん、一夏から離れて! ウソ泣きで一夏に同情してもらおうなんてズルいんだから!」

 

「ウソ泣きじゃないもん! 本気泣きだもん! 簪ちゃんに嫌われるということは、お姉ちゃんにとってそれくらいショックなんだよ」

 

 

 さらに一夏に顔を押し付ける刀奈の頭を、一夏が優しく撫でる。一夏も刀奈がウソ泣きではなく本気で泣いている事はわかっているので、ここで引きはがすようなことはしなかった。

 

「とにかく、お姉ちゃんは一夏に甘えすぎだから、少しは自分で何とかするようにしなさい! 一夏も、お姉ちゃんにもう少し厳しくするように」

 

「今でも十分厳しくしてるつもりなんだがな……虚さんはどう思います?」

 

「確かに、簪お嬢様が仰るように一夏さんはお嬢様に甘いような気はしますが、簪お嬢様が思っているよりも一夏さんはお嬢様を甘やかしたりはしていませんよ? しっかりとお嬢様の分の仕事は残していますし」

 

「そんなの当然だよ! お姉ちゃんは生徒会長としてもっと働くべきだと思うんです! 何でもかんでも虚さんと一夏に任せて、本人は遊んでるなんておかしいじゃないですか!」

 

 

 簪の言い分に、一夏と虚は思わず頷いて考え込んだ。確かに生徒会長でありながら遊びほうけている刀奈にはもう少し仕事を任した方が良いのではないかと思ったが、任せたところで自分たちで処理した方が早いし確実だと思ってしまうだろうと苦笑いを浮かべた。

 

「とにかく、お姉ちゃんは一夏から離れて!」

 

「まぁまぁ簪ちゃん。せっかくの旅行なんだから、そんなにイライラしないで」

 

「でも! 美紀は羨ましくないの? さっきからお姉ちゃんは一夏にしがみついてるんだよ!」

 

「簪ちゃんが大声で刀奈お姉ちゃんを責めるから、刀奈お姉ちゃんが更に一夏さんにしがみついてるんだと思うんだけど」

 

 

 美紀の指摘に、簪はハッとした表情を浮かべた。確かに自分が責めているから刀奈が泣き、一夏にしがみついているのだと思い至ったようで、簪はとりあえず冷静さを取り戻したのだった。

 

「ゴメン、お姉ちゃん……でも、一夏に甘えられるなんて羨ましいって思ってるのは本当だから」

 

「ぐすん……私もゴメンなさい。でも、簪ちゃんだって一夏君に甘えたりするでしょ?」

 

「私は、お姉ちゃんや本音のように気楽に甘えたりが出来ないもん」

 

「恥ずかしがっちゃ駄目よ、簪ちゃん。一夏君はしっかりと受け止めてくれるんだから、甘えたいときは思いっきり甘えなきゃ!」

 

「あまり甘えられても困るんですがね」

 

 

 撫でていた手を止め、刀奈を離し苦笑いを浮かべる一夏。泣き止んだのを確認しての行動なので、刀奈も不満そうな顔は見せなかった。

 

「そういえばお嬢様、一夏さんの両隣は誰が寝るのでしょうか? 現地で決めるとは聞いていましたが」

 

「お姉ちゃんは今一夏に抱き着いたから今日は駄目だからね」

 

「何でよ!? そこは平等にしなきゃ駄目でしょ!」

 

 

 驚き反論する刀奈ではあったが、既に一夏に抱き着いて甘えまくった自覚があるので、イマイチ言葉にキレは感じなかった。

 

「とりあえず刀奈ちゃんは離れて寝る事が決まったけど、どうやって決めましょうか?」

 

「碧さんまで……いいもん! 明日は思いっきり甘えてやるんだから!」

 

 

 除け者にされ、一人いじける刀奈を可愛いと思った一夏ではあったが、それを言葉にすることは無かった。

 

「とりあえずじゃんけんで良いんじゃない? それなら、誰かがずば抜けて強いとかも無いし」

 

「あっ、一応言っておくけど、寝相が悪いとか言って一夏君の布団に潜り込むのは禁止だからね!」

 

「そんなこと、お姉ちゃんしかしないってば」

 

 

 刀奈の注意にそう反論して、簪は気合を入れるために目を瞑り集中し始める。他にも本音やマドカ、マナカなどは気合十分の感じだったが、虚、美紀、碧はいつも通りの雰囲気でじゃんけんに臨んだのだった。




刀奈ならありえそうだな……

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