暗部の一夏君   作:猫林13世

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微笑ましいですが……


仲良くお風呂

 刀奈に手を掴まれ、簪と美紀に両脇を固められ、背後を虚に封じられた一夏は、抵抗を諦めて風呂へと向かう。他にも一緒に入るのが楽しみでしょうがないという顔のマドカとマナカや、特に何も考えていないような本音、その光景を見て楽しそうに笑う碧など、この場に一夏の味方は一人もいなかったのも諦めた要因の一つである。

 

「引っ張らなくても入りますって」

 

「そういって逃げられたくないから、一緒にお風呂に入るまで離しません」

 

「お姉ちゃんだけ一夏と手を繋いでズルいけど、逃がさない為にも今は我慢する」

 

「いっちーも往生際が悪いな~って思うから、大人しくしててね~」

 

「逃げようとしたら、私たちが全力で一夏さんを捕まえますからね」

 

「だから逃げませんって……そもそも碧さんから逃げ切れる未来が視えないので」

 

 

 未来予知を使わなくても、一夏は碧から逃げ切れるわけがないと分かっているので、今は大人しく自分の力で歩いているのだが、刀奈はそれでも一夏を開放する事は無かった。

 

「さぁ、脱衣所に到着ね! 一夏君、ここまで来て逃げるのは駄目だからね?」

 

「だから逃げません――? さすがに脱衣所は別ですよね?」

 

「ううん、脱衣所も一緒」

 

 

 全力で逃げ出したい衝動にかられたが、全員の期待に満ちた目を見てさすがに逃げ出すのは可哀想だと思ったのか、一夏は大人しく脱衣所の中へと進んでいった。

 

「目を瞑っていますので、先に入っててください」

 

「そう言って逃げるつもりでしょ? そうはいかないわよ。先に一夏君が脱いで、それで目を瞑ってるならいいわよ」

 

「それじゃあ意味がないじゃないですか!」

 

「あっ、ここの温泉タオルをお湯に浸けるのが禁止だから、結局一夏君は私たちの裸を見るしかないんだからね」

 

「………」

 

 

 何でそんな温泉を選んだんだと、一夏は心の中でツッコミを入れたが、決まりでは仕方ないと諦めたのか、ゆっくりと服を脱ぎだした。

 

「わーい、いっちーとお風呂なんて何年ぶりだろ~ね?」

 

「一夏さんがお風呂に入ったのは小学生の頃ですから、その頃以来じゃない?」

 

「中学の時は無かったっけ?」

 

「無かったと思うけど」

 

 

 特に気にした様子もなく服を脱いでいく女子の事を、一夏はどう見ればいいのか悩んでいた。家族として見たとしても、さすがにこの歳で混浴はしないだろうと思うし、婚約者として見てもおかしいのではないかという気持ちが先に出てきてしまう。ましてや同級生と考えれば、どう見てもおかしいのだ。

 

「そんなに緊張しなくても良いじゃないですか。一夏さんって意外と初心なんですね」

 

「むしろ何でみんなが平気なのかが不思議なのですがね」

 

 

 後ろから優しく抱きしめてきた碧に、一夏はさすがに覚悟を決めて風呂場へと突撃する事にした。

 

「お兄ちゃん、背中流してあげる」

 

「私は頭を洗って差し上げます」

 

 

 さっそく一夏を出迎えたのは、妹双子の献身的なサービスだった。

 

「お前たち、仮にも年頃の異性を前に恥ずかしくないのか?」

 

「お兄ちゃんに見られて恥ずかしいものなんてないもん」

 

「私も、兄さまに見られるのでしたら耐えられますから。他の異性でしたら、一瞬で消し去ってしまうかもしれませんが」

 

「遺伝子的に冗談に聞こえないから止めてくれ」

 

 

 姉があの織斑千冬と千夏なので、マドカが消し去るというと冗談に聞こえないと、一夏は今更ながらに実感したのだった。

 

「一夏くーん、後でお姉さんの背中、流してくれない? もちろん、簪ちゃんや美紀ちゃんたちのもだけど」

 

「拒否権は無いのですよね?」

 

「嫌なら前を洗ってもらうけど?」

 

「謹んで、お背中お流しいたします」

 

 

 刀奈の事だから冗談では済まないのだろうと理解している一夏は、間違っても背中を流すという行為を断ることはしない。少しつまらなそうに表情を歪めながらも、一夏が背中を流してくれるという事で刀奈は上機嫌になったのだった。

 

「それにしても、やっぱり一夏君も鍛えてるだけあって逞しいわね」

 

「美紀はしょっちゅう一緒に寝てるから知ってたんじゃない?」

 

「しょっちゅうじゃないし、さすがにここまで鍛えてるとは思ってなかったよ」

 

「いっち~って普段は頼りなさそうな雰囲気だけど、戦闘でも十分役に立つんじゃない?」

 

「本音には言われたくないと思いますよ。貴女は何処にいても頼りなさげですから」

 

「そんなこと無いと思うんだけどな~?」

 

 

 じろじろと見られているが、不快ではないと思いながらも、気持ちいいものではないなと思いながら、一夏は大人しく妹に頭と背中を洗われている。

 

「それにしても本音、また大きくなってない?」

 

「刀奈様だって、大きくなってますよ~」

 

「美紀ちゃんも成長してるわね」

 

「み、碧さんだって」

 

「私小さくないもん、お姉ちゃんたちが大きすぎるだけだもん」

 

「その通りです、簪お嬢様」

 

 

 何の話をしているのか、見なくても分かってしまった一夏は、盛大にため息を吐いた。そのため息に反応した妹双子ではあったが、一夏の雰囲気を鑑みて声を掛ける事はしなかった。

 

「はい、終わったよお兄ちゃん」

 

「流しますね」

 

 

 洗い終えた二人が一斉にお湯をかけ、一夏は妹二人の頭を撫で、刀奈たちの背中を洗うべく立ち上がったのだった。




妹双子の仲良し感が強まりましたね

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