暗部の一夏君   作:猫林13世

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忙しすぎでしょ……


二学期の総括

 旅館に到着し、部屋に案内された一夏たちは、とりあえず荷物を置いてゆっくりする事にしたのだった。

 

「一夏君、お茶淹れてくれる?」

 

「構いませんよ。他の人も飲むでしょうし」

 

「あっ、そういうのは私が――」

 

「虚さんも寛いでください。こういうのは俺が得意ですから」

 

 

 部屋に用意されていた急須とポットを使い人数分のお茶を淹れた一夏に、刀奈と本音はのんびりした雰囲気でお礼を言う。

 

「ありがとう、一夏君」

 

「いっちーが淹れてくれた日本茶は世界で一番美味しいよ~」

 

「大袈裟な……」

 

 

 

 本音の大袈裟な賛辞をまともに取り合う事もせず、一夏もお茶を飲んで寛ぐことにした。

 

「思えばいろいろあった二学期だったな……」

 

「一夏、お爺ちゃんみたい」

 

「そうか? でも、かなりの事件があっただろ?」

 

「一夏君の誕生日に襲撃されたり、文化祭が襲撃されたり、修学旅行が襲撃されたり、マナカちゃんが亡国機業のリーダーだったりと、確かに大変だったわね。その後も、一夏君とマナカちゃんが大怪我を負ったり、箒ちゃんを捕まえて更生させたり、中止になった文化祭の出し物の代わりに大会を開いたり、簪ちゃんと美紀ちゃんが代表に内定したりと、実に濃い二学期だったわね」

 

「お嬢様が宅配便で京都に行ったりもしましたしね」

 

「それはもう謝ったでしょ!」

 

 

 虚に嫌味を言われ、刀奈は勢いよく立ち上がり虚に頭を下げこれ以上いうのは止めてくれと頼み込んだ。

 

「まぁ、刀奈さんが京都にいたお陰で、俺たちもスムーズに動けたとも考えられますので、虚さんもこれくらいで勘弁してあげてください」

 

「一夏さんがそう言うのでしたら……お嬢様、もう二度とあのような事はしないでくださいね」

 

「はい、反省してます……」

 

 

 形だけではなく本気で反省しているようなので、虚もあの件はこれで許すことにしたのだった。

 

「そう言えば一夏さん、ハミルトンさんの移籍先は決まったのですか?」

 

「イスラエルかカナダで悩んでるようでしたね。年明けには決めると言っていましたので、俺は年明けまで手伝えることは無いですね」

 

「ティナも代表になったら、IS学園在籍の代表がまた増えるね」

 

「刀奈お姉ちゃんにサラ先輩、セシリアさんもほぼ内定してますし、私と簪ちゃんも年明けには正式に代表昇格ですしね」

 

「後はリンリンが代表になれるかもなんだよね~?」

 

「次のモンド・グロッソには間に合わないだろうけど、それで中国の代表の人が引退するみたいだから、第四回には鈴も参加出来るかもね」

 

「兄さまの周りには国家代表や代表候補生が多いですからね。エイミィも次の大会には代表になれるかもしれないのですよね?」

 

「そう言う話があるというのは聞いたが、代表を決めるのは国だからな、どうなることか」

 

 

 しみじみと呟いた一夏に、全員が呆れた視線を向ける。何故呆れられたのか理解出来ない一夏は、首を傾げながら全員に視線を向けた。

 

「一夏が『お願い』すれば、大抵の国はいう事を聞くじゃない」

 

「他国の人事にまで口出しするつもりは無い」

 

「お兄ちゃんならそれくらい出来るでしょって意味だよ」

 

「まぁ、移籍の際にはいろいろと手伝ったりはしてるが」

 

「ティナちゃんの移籍の時にも手は貸すんだし、もう一夏君が代表を決めても良い時代なのかもね」

 

「どんな時代ですか……ところで、さっきから本音が大人しいんですが」

 

 

 一夏にいわれ、全員は本音に視線を向ける。すると本音は、お茶を飲みながら寝ていたのだった。

 

「相変わらず器用な奴だな……」

 

「ほら本音、お茶はさすがに危ないから起きなさい」

 

「ほえ? 私寝てた?」

 

「思いっきり寝てたよ……本音は本当に何処でも、何時でも寝ちゃうんだから」

 

「えへへ~、それほどでも~」

 

「褒めてないから。少しは改善するようにしなさい」

 

 

 虚に怒られ、本音は形ばかりの反省の言葉を述べ、再び舟を漕ぎ出した。

 

「コイツは……」

 

「放っておきましょう。それより一夏君、お風呂に入りましょうよ」

 

「風呂は嫌いなんですが……」

 

「せっかく温泉旅館に来てるのに、入らないなんて言わないわよね?」

 

「出来る事なら入りたくないのですが……」

 

 

 そこで一夏は、全員から入らないのは許さないというオーラが出ているのを感じ取り、抵抗しても無駄だろうと察して白旗を上げた。

 

「あまり長時間は入れませんからね?」

 

「分かってるわよ。一夏君が逆上せたら、私たちが介抱してあげるから」

 

「お兄ちゃんの事は私たちがしっかりと面倒見てあげるから」

 

「はいはい、皆テンション上げるのは良いけど、そろそろ止めておかないとただの変態になっちゃうわよ?」

 

 

 碧が手を打って全員を正気に戻し、怯えかけていた一夏に視線を向け頷く。

 

「皆だって一夏さんに怖がられたりするのは嫌でしょうし、一夏さんだって皆に怖いって感情を抱きたくないでしょうから、ほどほどにしてくださいね」

 

「さすが碧さん、引率として正常に機能してますね」

 

「これが姉さまたちだったら……」

 

「お兄ちゃんのトラウマが発動してただろうね」

 

 

 全員が同じ光景を想像したのか、全員が同時にため息を吐いた。そのため息が原因かは分からないが、ようやく本音が目を覚まし、そそくさとお風呂の準備を済ませたのだった。

 

「ほらほら、皆行くよ~!」

 

「何で本音が先頭なのよ……」

 

 

 さすがの刀奈も呆れたようで、もう一度ため息を吐いてから、一夏の手を引いて家族風呂へと向かうのだった。




旅行中くらいは平穏に過ごせそう……かな?

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