暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼女が一番下だというのはおかしい……


更識内の序列

 旅行に出かける前に、一夏は千冬と千夏に箒とオータムの事をしっかり見張るように念を押してから、先に門に向かった刀奈たちを追いかけた。

 

「一夏君、こっちこっち」

 

「すみません、お待たせしました」

 

 

 既に浮かれ気分の刀奈に急かされ、一夏は一応頭を下げてから車に乗り込んだ。

 

「さぁ、一夏君も来たことだし、さっそく出発よ!」

 

「運転するのは碧さんだけどね」

 

 

 簪にツッコまれても気にせず話を進める刀奈に、一夏と簪は目を合わせてため息を吐いた。

 

「お姉ちゃん、少し浮かれ過ぎじゃない?」

 

「だって、ようやく一夏君と旅行が出来るのよ? これが浮かれずにいられますか」

 

「お嬢様は修学旅行先に勝手に向かわれて、一夏さんと旅行したじゃないですか」

 

「ずっと部屋で大人しくしてたわよ……あれは旅行じゃないわよ」

 

 

 修学旅行はそもそも、亡国機業に襲われたせいでまともに観光は出来ていないので、刀奈が部屋で反省させられてなくとも、まともな旅行とはいかなかっただろう。

 

「それで刀奈お姉ちゃん、今日行く場所はゆっくり出来るんですよね?」

 

「もちろん! 更識の系列の旅館だから、いざという時もその場で対応出来るし、途中で一夏君が帰っちゃうなんて事にはならないわよ」

 

「それにしても家族旅行なんて久しぶりですね~」

 

「まだ一夏が更識に来る前だから、十年くらい経ってるのかな?」

 

「まだお父さんもいて、立場なんて気にせずに遊べてた時以来ね」

 

「お嬢様は今でも気にしていないようですがね」

 

 

 虚のツッコミに、刀奈は勢いよく虚の方に振り返り、そして反論した。

 

「これでも国家代表としての立場は気にしてるのよ!」

 

「そちらではなく、生徒会長としてのお立場の事です。堂々とサボったり、廊下を走ったりと」

 

「細かい事は良いじゃないの。せっかくの旅行なんだから、学園とか代表とかいろいろとわきに置いておいて楽しみましょう」

 

「刀奈のそういうところ、羨ましいと思うわ」

 

「私たちはそう簡単に切り替えられませんからね」

 

 

 マナカとマドカの言い分に、運転席の碧も頷いて同意した。

 

「私はこの中では引率の意味合いが強いですし、更識内で考えれば一番下ですからね」

 

「碧さんはそろそろ出世しても良いと思うのよね。一夏君、どうかしら?」

 

「人事は俺一人ではどうしようもないですからね……とりあえず、何処か傘下企業の社長でもやってみますか?」

 

 

 簡単に尋ねて来る一夏に、碧は少し呆れ顔で答えた。

 

「社長なんてそう簡単に出来るものではありませんし、私はIS学園の教師ですから」

 

「そうですか。それじゃあ、当主の側付きということで」

 

「それでも一番下ですけどね」

 

 

 虚は企業代表であり護衛される側、本音は前当主の娘の護衛兼現当主の護衛としての地位をだいぶ前から確立しているため、出世しても碧の方が地位的には下になるのだ。

 

「本音が碧さんより地位が上っていうのも変な話よね」

 

「だらだらしてまともに働いてないのに、地位だけは高いからね」

 

「まぁ、本音には給料払ってないし」

 

「本音に大金を渡したら、すぐに使ってしまいますからね」

 

「いや~それほどでも~」

 

 

 褒められていないのに褒められたような反応を見せた本音に、全員が揃ってため息を吐いた。

 

「ほえ? みんなどうかしたの~?」

 

「本音のバカさ加減に呆れたのよ」

 

「そんなこと気にしてたら楽しくないよ~? みんな今日は楽しむために出かけるんだから~」

 

「まぁ、本音の言ってる事も正しいから、今は気にしないでおきましょう」

 

 

 切り替えの早い刀奈は、本音の事は気にしないで盛り上がることにしたのだった。

 

「ところで一夏、篠ノ之さんのデータは揃ったの?」

 

「実機のデータはさすがにまだだが、VTSでのなら十分揃ったな。これをサイレント・ゼフィルスに反映させて実機データを取れば、前とは違う調整も出来るだろう」

 

「一夏さん、前の篠ノ之さんのデータはあるんですよね? 今のところどう違うんですか?」

 

 

 美紀の問いかけに、一夏はバッグの中からタブレットを取り出し箒のデータを呼び出した。

 

「明らかに違うのは、ISを労わっている事だな。前の篠ノ之はISを機械だと割り切って、多少乱暴に扱っても問題ないと思っていたからな……」

 

「だからISから嫌われて、動かなくなっちゃったんだよね?」

 

「マナカも前のような乗り方をしてたら動いてくれなくなるぞ?」

 

「反省してる……」

 

 

 乱暴に扱ったツケが溜まり、制御不能に陥りあのような事故につながったのだと、マナカは酷く反省しそれ以来ISは訓練機を使っていた。

 

「そう言えばお兄ちゃん、私の専用機って今何処にあるの?」

 

「束さんが回収して修理するって言ってたから、俺は知らない」

 

「まぁ、あの状態の兄さまが回収したとしても、修理までは時間がかかったでしょうからね」

 

 

 マドカの言葉に、マナカは身を縮込ませた。専用機が壊れたのも、一夏が大怪我を負ったのも自分の所為だと自覚しているからであり、マドカにマナカを責めた自覚は無かったので、何故妹が小さくなっているのか理解出来なかった。

 

「とにかく、ISの事も忘れて楽しみましょう! 碧さん、あとどのくらいで到着しますか?」

 

「もうすぐですよ」

 

 

 碧の返事に、刀奈と本音は表情を綻ばせ、今から暴れそうな勢いになったので簪と虚が止めたのだった。




最下位は本音だろ……

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