暗部の一夏君   作:猫林13世

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高校生なんですけどね……


仕事納め

 終業式も終わり、生徒会の業務も仕事納めとなり、刀奈は身体を伸ばして一夏の淹れてくれたお茶を飲み干した。

 

「これで明日からの旅行に専念できるわね。一夏君も虚ちゃんもお疲れ様」

 

「お嬢様も、何時もこれくらい働いてくれるとありがたいのですがね」

 

「今日くらいはお小言は勘弁してくれない? 明日から楽しい旅行なんだし、今日で仕事納めなんだからさ」

 

「まぁ、確かに今日は刀奈さんも一生懸命でしたし、お小言はまた今度にしましょう」

 

 

 一夏にそう言われ、虚も渋々刀奈への小言を呑み込み、代わりにため息を吐いたのだった。

 

「一夏さんはお嬢様に甘すぎです」

 

「そんなこと無いと思いますが」

 

「そうよそうよ! 一夏君も虚ちゃんも厳しいくらいよ!」

 

「文句があるのでしたら、刀奈さんだけ留守番でも良いんですよ?」

 

「ゴメンなさい。一夏君も虚ちゃんもとってもとっても優しい人です」

 

 

 一夏に脅され、刀奈はすぐに手のひらを返して頭を下げた。本当に置いていかれることは無いだろうと分かってはいるのだが、万が一という事が一夏にはあるのだ。

 

「それじゃあ、部屋に戻りますか。生徒会室もしっかりと戸締りしておかないと」

 

「年明けまでこの部屋に来ることは無いのね。はぁ、疲れた」

 

「お嬢様がきちんと働いたのは今日くらいですよ」

 

 

 最後まで小言を言われた刀奈ではあったが、これで旅行に専念出来ると楽しそうに生徒会室に鍵を掛けたのだった。

 

「はい、これで今年の生徒会業務は終了ね。お疲れ様でした」

 

「「お疲れ様でした」」

 

 

 刀奈の言葉に、一夏と虚も声を揃えて頭を下げる。

 

「一夏君は更識の仕事も終わったんだよね?」

 

「急ぎ目を通さなければいけないものは無いですね。尊さんで処理出来るものはお願いしましたし、何処も年末で重要な案件は既に済ませてますから」

 

「来年は虚ちゃんが卒業して、私も最終学年か」

 

「モンド・グロッソもありますから、お嬢様は大変な一年になりそうですね」

 

 

 部屋に戻る途中にそのような話題で盛り上がり、分かれ道に差し掛かり一夏は二人に頭を下げた。

 

「お疲れ様でした。また明日」

 

「うん、また明日ね一夏君」

 

「お疲れ様でした、一夏さん」

 

 

 刀奈と虚と別れ、一夏は自分の部屋に戻ろうとして、途中で織斑姉妹に遭遇した。

 

「一夏! 明日から旅行らしいな。何故お姉ちゃんを誘わない!」

 

「わたしたちも一夏と旅行したいぞ!」

 

「貴女たちはまだ仕事が残ってますし、寮長としての責任をしっかりと果たしてください」

 

「じゃあ何故マドカとマナカは一緒に行けるんだ」

 

「あの二人は寮長でも何でもないですし、卒業後は更識で働いてもらう事が決まってますので」

 

 

 同じ血縁でありながら、妹二人は一緒に旅行出来るのが羨ましいのか。千冬と千夏は駄々をこね始めた。

 

「ズルいぞ! お姉ちゃんたちも一緒に行きたい!」

 

「篠ノ之や亡国機業の連中の監視など、真耶にでも任せておけばいいのだ!」

 

「でしたら、来年からのお二人の給料はダウンで良いですね? 寮長も解任で、何処か他所で生活してもらう事になりますが」

 

 

 一夏の脅しに、姉二人は戦慄し慌てて弁明をし始める。

 

「じょ、冗談だ一夏! 一緒に旅行出来ないのは残念だが、楽しんで来いよ」

 

「本気で真耶に押し付けるわけないだろ! アイツは既に帰省してるんだから」

 

 

 言い訳を言って二人は寮長室に逃げて行ったのを見送り、一夏は盛大にため息を吐いた。

 

「相変わらずだな、あの二人は……」

 

「まったくですね。あの二人と一夏さんが血縁だという事が、今でも信じられませんよ」

 

「碧さん……」

 

「気を抜き過ぎですよ、一夏さん」

 

 

 護衛として陰から見守っていた碧が声を掛けると、一夏は少し驚いた反応を見せたので、碧は笑いながら注意をしたのだった。

 

「とりあえず、オータムやスコールも大人しくしてますし、年末という事でVTSルームの使用制限も一時解除したので、大人しくなると思いますよ」

 

「アリーナの使用許可も下りやすくなるでしょうし、訓練相手に事欠かないでしょうしね」

 

「まぁ、行き過ぎた訓練は出来ないよう、一夏さんが専用機に制限を掛けていますからね。我々がいなくても問題は起こらないでしょう」

 

 

 亡国機業の見張りも織斑姉妹に任せてあるので、最悪の事態にはならないだろうと一夏も碧も思っている。いくらあの二人でも、行き過ぎた行動をすればさすがに止めに入るだろうと確信しているので、二人に訓練を許可したのだ。

 

「静寐さんたちもいますし、暴れても取り押さえられるのがオチでしょうからね」

 

「何故候補生たちではなく静寐の名前を?」

 

「深い意味はありませんが、彼女が一番冷静に物事に対処出来るからでしょうか」

 

「確かにセシリアたちより静寐の方が冷静に対処しそうですね」

 

 

 一夏も苦笑いを浮かべながら、碧の考えを肯定した。下手な候補生より冷静な判断が出来る静寐は、一夏としても是非更識の中枢に欲しいと考えているくらいなのだ。

 

「とりあえず、私も明日の用意をしますので、今日はここで失礼します」

 

「お疲れ様でした」

 

 

 部屋の前まで護衛して、碧も自分の部屋へと戻っていった。碧を見送った一夏も、部屋に入り明日の用意をするのだった。




平和な旅行になるだろうか……

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