暗部の一夏君   作:猫林13世

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世界の憧れの実体は……


代表選考

 何時までも代表不在ではマズイという事で、日本政府は早急に空いた一枠を決めるように動き始めた。候補生の中でも、実力差は多かれ少なから存在しているので、データだけでは判断出来ないという事で、候補生全員を集めて模擬戦をさせ、最後まで勝ち残った人間を代表とすると決めた。その事に不満の声は上がらず、日程は一週間後と発表になった。

 

「まさかこんなにも早く代表を決める事になるなんてね。私はまだ候補生になったばっかりなのに」

 

「そんな事関係ないですよ。更識さんは私たちより強いんですから。機体もですが、更識さん自身も」

 

「そんな事言われましても、実家があの『更識』ですからね。候補生になる前から実家で経験は積めましたし、碧さんに指導もしてもらいましたから」

 

「羨ましいですよねー。織斑姉妹と並んで全世界の憧れである小鳥遊碧さんに直接指導してもらえるんですから」

 

 

 無傷でモンド・グロッソを制した織斑姉妹と碧は、全世界のIS乗りを志す少女の憧れの的となっている。それとおなじように同じように、更識製のISを持つ事も少女たちの夢となっていた。

 

「(まさか全世界の憧れである織斑姉妹が、家事無能者で重度のブラコン、そして碧さんは極度の方向音痴。更に憧れの更識製のISを造ってるのが男の子だなんて……言えない事が多すぎるわよ……)」

 

 

 身内だからこそ知っている事実を、刀奈は必死に隠している。一夏の事以外は知られてもそれ程問題は無いのだが、織斑姉妹の事情をばらしたらどうなるか。それが怖くて必死に隠しているのだ。

 

「てか、更識さん以外専用機を持ってる人がいないので、普通に戦えば更識さんが代表に確定だと思いますよ」

 

「専用機が無い? でも日本が所有してるコアはありますよね?」

 

「コアがあっても、ISを造り上げる事が出来る技術者がいないんですよ……更識さんの御実家、更識企業があるから日本はIS先進国と言われていますが、それ以外の企業は未だに安定したISを製造する事が出来てませんし……」

 

「倉持技研が成功した、とニュースで見ましたけど」

 

「あれはあくまでもISを造る事に、です。実用に耐えうるレベルでの話ではありませんよ」

 

「そうだったんですか……(この人、見た目に反して情報を集めるのに長けてるわね)」

 

 

 自分より年上(当たり前だが)の真耶に失礼な事を思いながらも、その情報収集能力の高さに感心していた。刀奈は一夏が基準となりつつあるので世間とズレてしまっているのであって、日本のIS開発力は、他国と比べても低い部類に位置しているのだ。

 

「とりあえず、一週間は実家に戻れるので、私もこれで失礼しますね」

 

「あ、はい。私も帰って準備しますので」

 

 

 見た目だけなら同級生と言えなくもなさそうな真耶と別れ、刀奈は迎えの車に乗り込み、更識の屋敷へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間というものはあっという間に流れていき、緊張したまま代表を決める模擬戦を行う当日になってしまった。刀奈は朝から挙動不審な行動を繰り返していた。それを見て一夏が呆れて彼女を落ち着かせる為に動いたのだった。

 

「大丈夫ですよ。昨日蛟の調整はシッカリとしましたし、刀奈さんの動きにフィットするはずです。後は刀奈さんが自分の力を信じるだけです」

 

「うん……そうだよね。一夏君が私の動きにシッカリ合うように再調整してくれたんだから、後は私が結果を出すだけ……お父さんに胸を張って報告する為にも、絶対に負けられないんだから……」

 

「……難しいかもしれませんが、楯無さんの事は考えない方がいいと思いますよ。下手に力んでしまう原因になりかねませんから、今の刀奈さんだと」

 

「そう、かもしれないわね……力を抜いて挑まなきゃいけないもの……」

 

 

 まだがちがちの刀奈に、一夏はため息を吐きそうになるのを堪えて更に近づいて行った。

 

「あの、一夏君……何だか近くないかな?」

 

「大丈夫です。刀奈さんなら、きっと勝ちぬく事が出来ますから」

 

「あっ……うん」

 

 

 刀奈を安心させるために一夏が取った行動、それは刀奈を抱きしめ、そして頭を撫でる事だった。

 

「でも、私が代表になったら、一夏君大変よ? 遠征とか有るだろうし、その都度調整してもらわなきゃいけないわけだし」

 

「別に遠征から帰ってきたらそのまま屋敷に戻ってきてもらえば良いだけですよ。その都度蛟は調整出来ますし、それほど大変ってわけじゃ……」

 

「それと、私が候補生から代表になったら、また新たな候補生を探す事になるわよ。そうなると簪ちゃんや美紀ちゃんも応募するでしょうし、その二人が候補生に選ばれたらまた一夏君が専用機を造るのよ? 大丈夫なの?」

 

 

 上げればまだまだ出てきそうな一夏の苦労に、刀奈の方が顔を青ざめ始める。一方で張本人である一夏は涼しい顔をしていた。

 

「専用機の事は問題ないですよ。生前楯無さんに預けたコアが有りますし、それを少し改良してから造るとしても……そうですね、一人三日くらいあれば完成するでしょうし」

 

「三日っ!? どれだけ慣れてるのよ……」

 

「それに、虚さんだって遠征やら何やらで飛び回ってるんですから、刀奈さんも同じ事になるだけですよね? だから問題はありませんよ」

 

「そういえば、最近虚ちゃんと会わないわね……」

 

「屋敷にいる時は、基本的に研究所でISの勉強をしてますからね」

 

 

 更識の企業代表として、そして表向きの社長である『楯無』の護衛も兼ねて、虚もあちこち飛び回る日々を送っていた。だからではないが、一夏は刀奈が飛び回る日々になっても慌てる必要は無いと考えていたのだった。

 

「とにかく、選考会頑張ってください」

 

「一夏君の凄さに呆れ過ぎて、選考会だってこと忘れてたわよ……」

 

 

 緊張も何処かに吹き飛んだようで、刀奈は何時も通りな感じで合宿所に向かう事が出来たのだった。




常識の範囲外の実力者が大勢いるな……一夏もだけど……

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