暗部の一夏君   作:猫林13世

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帰るより日本にいた方が訓練できますし


海外組の予定

 冬休みが近づき浮かれているのは、刀奈たち更識勢だけではない。年末年始をどう過ごすのかで盛り上がるのは、他の専用機持ちたちも同じであった。

 

「セシリアたちは母国に帰るの?」

 

「今年は日本に残る予定ですわ」

 

「私も、軍に戻っても学園ほど楽しいとは思えないだろうし、年末年始は日本で過ごす予定だ」

 

「そういうシャルはどうなのよ? 仕事とか無いの?」

 

「一夏の方も無いようだし、僕の方も無いかな。でも、フランスに戻っても何もないし、僕も日本で過ごす予定だよ」

 

 

 セシリア、ラウラ、シャルは日本に残ると聞いて、鈴は少しほっとした表情を浮かべた。

 

「そう言えば鈴さんは、小学生時代からのお友達と過ごしたりしませんの?」

 

「アイツら二人の相手は疲れるのよね。せめて一夏がいてくれれば別だけど、更識先輩たちと過ごすみたいだし、三が日過ぎてからかしらね、遊ぶとしたら」

 

「一夏もたまには家族サービスしなきゃいけないみたいだしね」

 

「何だか疲れ切ったサラリーマンみたいな過ごし方だな、お兄ちゃんは」

 

 

 実際下手なサラリーマンより働いているので、一夏は疲れ切っていても不思議ではない。だがそれでも若さと人外的な体力のお陰で普通に生活しているのだ。

 

「じゃあ寮でカウントダウンでもしましょうか。どうせ他にも残ってる子なんているだろうし」

 

 

 そこにタイミングよくティナが通りかかり、鈴は彼女をカウントダウンに誘った。

 

「ここで? 織斑姉妹とかに怒られたりしないかしら」

 

「ちゃんと申請しておけば大丈夫よ、きっと。まぁ、一夏に頼めば大抵大丈夫だろうけどね」

 

「そんなことが出来る鈴が羨ましいわよ。私たちが更識君に頼もうとしても、簡単には通らないだろうし」

 

「あたしだって簡単に通るとは思ってないけど、織斑姉妹に頼むよりは現実的だと思うだけよ」

 

「そう言えば静寐さんたちも寮に残るみたいなことを言っていましたから、大勢での年越しになりそうですわね」

 

「そこにお兄ちゃんがいてくれたら最高なのだが、大勢での年越しも楽しそうだな」

 

 

 既に浮かれ始めているラウラに、シャルは微笑ましげな表情を浮かべていた。

 

「最近、ラウラの事を慈しむ時間が長くなってきたような気がするんだけど」

 

「シャルロットさんとラウラさんは仲がよろしいですからね。姉妹のようですわ」

 

「まぁ、一夏がマドカやマナカに向けてる気持ちと同じなんだと思うけどさ……僕とラウラは同い年なんだよね」

 

 

 向こうは正真正銘兄と妹だから不思議ではないが、同級生に抱く感情では無いとシャルは思っていた。だが実際、ラウラの事を妹のように思っているクラスメイトは少なくないので、シャルの感情はある意味仕方ないものだといえよう。

 

「ところでティナはこれからどこかに行くの?」

 

「ちょっと更識君の部屋にね。移籍先をある程度絞ってくれたらしいから、その詳細データを貰いに行くのよ」

 

「希望とかはあるのか?」

 

「うーん……色々とよくない噂があるロシアや韓国は避けようかなって思ってるけど、そうなるとイスラエルやカナダになるのよね……他の国も更識君が調べてくれたらしいから、最終候補がどれくらいあるのか今から確認しに行くのよ」

 

「何処の国の候補生になっても、あたしたちのライバルって事ね」

 

「さすがに被る国は避けてくれてるらしいからね」

 

「ペアの候補ならともかく、ティナさんはソロでの候補生ですからね」

 

「そもそも、この学園にいる候補生で、ペアなのは更識さんと四月一日さんだけでしょ」

 

「そう言われればそうね……」

 

 

 ティナの指摘に、全員が腕を組んで考え込んだ。ソロで実力を発揮するメンバーが多い中、更識勢はペアでも十分に実力を発揮出来ているのだ。それが一夏の指導の賜物なのか、それとも天性の物なのかは分からないが、そこでも自分たちとの実力差を感じさせられたのだった。

 

「まぁ、ティナならどこの国でも十分やっていけるでしょうし、早いところアメリカから移籍しないと、そのまま代表にされちゃうものね」

 

「専用機も、ましてやコアも無いのに代表になってもね……じゃあ、私は行くわね」

 

 

 そう告げてティナは一夏の部屋へと向かっていき、鈴たちはそれを見送った。

 

「一夏さんの部屋に入れるなんて羨ましいですわね」

 

「でも、近づいただけで命の危険があるから、普通は羨ましいと思うより怖いって思うと思うけど」

 

「正式に招かれたわけですし、それでしたら命の危険は無いと思いますわ」

 

「まぁ、織斑姉妹の他にも、今は篠ノ之さんもいるし、少し離れたところには元亡国機業の二人がいるわけだしね。普通は近づきたくないと思うよね」

 

「教官たちの部屋に近づけるのは、極限られた人のみだと、前にお兄ちゃんが言っていたがな」

 

 

 それは別の意味で近づけないのだろうと知っているメンバーは、どう反応すればいいのかに困ってしまった。

 

「とにかく、後で一夏にメールしておくわね。年越しカウントダウンをここでやっていいか聞かなきゃだし」

 

「お願いしますわね。私たちは参加者の希望を募っておきますので」

 

「今年は楽しい年越しになりそうだな!」

 

 

 やはり一人だけズレた感想のラウラではあったが、三人は微笑まし気にラウラを眺めたのだった。




ラウラのズレは治るのだろうか……

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