暗部の一夏君   作:猫林13世

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浮かれ気分ですね


冬休みの予定

 一夏の部屋から食堂に向かうと、既に一夏の隣には刀奈と虚が座っていた。

 

「おはよう、お姉ちゃん、虚さん」

 

「おはよう、簪ちゃん。一夏君の部屋にお泊りした気分はどう?」

 

「そんなこと言われても、寝てたのは美紀のベッドだし、その一夏は部屋にいなかったし」

 

「当然でしょ。そんなことお姉ちゃん許しませんから」

 

 

 冗談なのか本気なのか分かりにくい態度に、簪たちは若干困惑したが、すぐに何時もの冗談なのだろうと考えてまともに相手しなかった。

 

「ところで本音はどうしました?」

 

「まだ寝てたから、美紀が引き摺ってくると思いますよ」

 

「簪ちゃん、重い……」

 

「これでも寝てる本音っていったい……」

 

「兄さま、美紀さんが可哀想ですのでそろそろ本音さんを起こしてください」

 

 

 美紀と本音の体格はほぼ同じ、その美紀が本音を背負えるわけがなく、文字通り引き摺ってきたのを見た一夏は、ため息を吐いて立ち上がり本音を叩き起こした。

 

「ほえっ!?」

 

「あっ、ようやく起きました。さすが兄さまですね」

 

「耳元で大きな音を出せば大抵起きるんだが」

 

「その大きな音を出す術が私たちには無いから」

 

 

 ちゃっかりと一夏が座っていた場所に腰を下ろした簪がそう告げると、ようやく本音が立ち上がり目を擦りながら辺りを見回した。

 

「ほえ? 何で食堂にいるの~?」

 

「ついさっきまで寝てたから、美紀がお前を引き摺ってきたんだ」

 

「そう言えば背中が痛いような気もするよ~」

 

 

 あまり大事だと思ってないようで、本音はそのまま券売機に向かい食事をとりに行った。

 

「我が妹ながら恥ずかしいです……」

 

「本音は昔から起きなかったものね……それにしても一夏君、どうやってあんな音を出したの?」

 

「それは私が出したのですよ」

 

「あっ、なるほど」

 

 

 人の姿になり答えた闇鴉に、一夏はいつも通り呆れた視線を向けるが、まったくもって堪えないのを理解しているのですぐに視線を逸らした。

 

「俺は先に教室に行ってるから、遅刻するなよ」

 

「分かってますよ。織斑姉妹がHRを担当する日に遅刻しようと思う猛者はいませんって」

 

 

 用事があるのか先に教室に向かった一夏を見送り、美紀も腰を下ろした。

 

「それにしてもみんな眠そうね? ちゃんと寝れなかったの?」

 

「目が覚めたらお兄ちゃんのベッドにいたから、ついつい興奮しちゃって」

 

「起きたら一夏のベッドにマナカとマドカがいたから、早朝からお説教してた」

 

「仕方なかったのよね。パーティー終盤でみんな寝ちゃって、起きてた私たちで着替えさせてベッドに運んだんだから」

 

「着替え…ですか? まさか兄さまが!?」

 

「いえ、さすがにそれは私たちがさせませんから」

 

 

 一夏もそこまでは面倒見る気はないだろうし、例えあったとしても刀奈たちが許すはずもないのだ。

 

「かんちゃーん、みきちゃーん、重いよ~」

 

「今日は本音が運ぶ日なんだから、頑張りなさい」

 

「ほえ~!」

 

 

 簪と美紀の分も運んできた本音が、ようやく腰を下ろそうとしたところで、マドカとマナカが本音に食券を渡す。

 

「ま、まとめて言ってよ~!」

 

 

 運べないにしても、まとめて注文しておけばかかる時間は減るのに、あえて今渡してきたマドカとマナカに文句を言いながらも、本音はもう一度列に並び直した。

 

「狙ってたの?」

 

「いえ、単純に渡すの忘れてました」

 

「少しでもお兄ちゃんとお喋りしたかったから、つい……」

 

 

 どうやら反省しているようで、二人は本音のところにむかい、自分たちで交換する事にしたのだった。

 

「あと数日で二学期も終わるのね」

 

「冬休みは特に代表合宿もないし、虚さんも予定は無いんですよね?」

 

「今のところは何もないですね。年明けに本家へご挨拶でもと思ってましたが、お嬢様も一夏さんもここにいますので、わざわざ戻る必要も無いかなと思っています」

 

「問題は一夏君の予定がどうなるかよね」

 

「問題って?」

 

 

 何か計画しているような刀奈に、簪は少しはしゃいでる様子で声を掛ける。

 

「ほら、夏休みはゆっくり出来なかったから、皆で温泉でも行こうかなって計画してるんだけど、一夏君の予定だけがはっきりしないのよ」

 

「まぁ、一夏さんは忙しいですからね」

 

「それに、篠ノ之さんの見張りなどもありますから、あまり長期間学園を離れる事は出来ないと思いますよ」

 

「その辺は織斑姉妹に任せれば大丈夫よ。ちゃんと見張ってくれたら一夏君のご飯でも食べさせてあげるとか言えば、きっとやってくれるから」

 

「あの二人ならありえそうだね……でもお姉ちゃん、一夏が引き受けてくれるかな?」

 

「私たちとの旅行の為だからってお願いすれば、きっと引き受けてくれるわよ」

 

 

 どこからそのような自信が出て来るのか簪には分からなかったが、一夏との旅行は簪もしたいと思っていたので細かい事へのツッコミは省略する事にしたのだった。

 

「最悪一夏さんの代わりをお父さんに任せれば大丈夫だと思いますよ。今ではお父さんが一夏さんの名代を務めているのですから」

 

「尊さんに任せられることばかりじゃないからね。でも、少しくらいなら大丈夫かな?」

 

「とりあえず一夏さんの予定がはっきりしてから悩めばいいと思いますよ。それよりも今は、溜まっている生徒会の仕事をどうにかする事を考えてください」

 

「殆どアメリカの問題と箒ちゃんの問題でしょ? もう見飽きたんだけど……」

 

 

 そう言いながら机に突っ伏した刀奈を見て、簪と美紀は笑みをこぼしたのだった。




来年もよろしくお願いいたします

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