暗部の一夏君   作:猫林13世

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使い勝手は良い……


本音の立場

 実習の見学を終えて、箒は興奮冷めやらぬ状態で教室に戻ってきた。着替えが必要なかった箒と本音が一番だと思っていたが、教室内にはすでに人の気配があった。

 

「ほえ? 誰か教室にいるみたいだね」

 

「そんなことが分かるのですか?」

 

「これでも更識所属だからね~」

 

 

 すっかり箒と打ち解けた本音は、自慢げに更識所属の凄さを話していく。もちろん、機密指定の情報を話すようなヘマはしないように心掛けて。

 

「シノノンを生かすために色々と無茶した結果、いっちーがご当主様だってバレちゃったんだけどね」

 

「一夏様には多大なるご迷惑をお掛けしてしまいました……」

 

「いっちーなら大丈夫だと思うけど……って、なんだ。教室にいたのはいっちーだったんだ」

 

「俺は別件で実習に参加してなかったからな。部屋でのんびりするわけにもいかないから、教室で待ってただけだ。それにしても本音、随分と篠ノ之さんと打ち解けたようだな」

 

「一時間ずっとおしゃべりしながら見学してたからね~」

 

「何か変わった事はあったか?」

 

「んー……前のシノノンのような気配は無かったけど、所々はやっぱり同じ人なんだな~って思う事はあったよ。でも、前のシノノンみたいに人に当たり散らすような感じはしなかったし、ISの事も真剣に考えてる様子だった」

 

 

 本音からの報告を受けて、一夏は二、三頷いてから箒に視線を向ける。いきなり見つめられた箒は、少し恥ずかしがりながらもしっかりと一夏を見つめ返した。

 

「貴女はISを動かしてみたいですか?」

 

「出来るのでしたらやってみたいです。ですが、まだ私に心を開くISは存在しないみたいですね」

 

「まぁ、以前の篠ノ之はISに当たり散らし悉く嫌われていましたから……ですが、今の篠ノ之さんなら、そう遠くない未来にISは認めてくれるでしょう」

 

「一夏様がそう仰ってくださると、本当にそうなるような気がしてきます」

 

「本音、放課後は篠ノ之さんと一緒にVTSルームに言って模擬戦をしてくれ」

 

「私が?」

 

「実習に参加しなかった分、そっちでフォローする事になってるんだ」

 

 

 ちゃっかりとサボりの分を放課後に持ってこられ、本音は少し不満そうな顔で一夏に近づき、そしてダボダボの袖で一夏を叩き始める。

 

「いっちーの嘘つき! シノノンの監視をしてれば授業に出なくていいって言ったのに!」

 

「そんなこと言ってないだろ……そもそも、お前は普通に参加しろといったはずだが? サボったんだから、放課後も篠ノ之さんと一緒に訓練するんだな」

 

「訓練ならかんちゃんでも美紀ちゃんでも良いじゃないか~!」

 

「その二人は代表昇格の為の手続きやらなんやらで忙しいからな。かく言う俺たちも篠ノ之さんの復学の手続きやら説明やらで書類の山が出来ている生徒会室を片付けなければいけない。本音はそっちの方が良いのか?」

 

「よしシノノン、放課後は私と一緒にトレーニングだ~!」

 

 

 あっさりと手のひらを返した本音に、箒はほほえましさを覚えた。

 

「ところでいっちー、別件って?」

 

「サイレント・ゼフィルスの調整だ。篠ノ之さんの専用機として新たにデータ入力をしなければいけないからな。隔離されていた時に起動したポータブル版VTSから今の篠ノ之さんの癖やデータを取り出して、ある程度サイレント・ゼフィルスに反映させていたんだ」

 

「一夏様がISの調整をなさっているのですか?」

 

「まぁ、俺がやった方が早いからな。ISの声を聞こえるというアドバンテージは、他の人が調整するよりも早く正確に終わらせることが出来るから」

 

「いっちーの場合は、技術力だけでも群を抜いてるからね~。さすが更識のご当主様って感じだよね~」

 

 

 本音の発言に、箒はふと一つの疑問を抱いた。目の前にいる一夏が当主で、本音が従者であるのならば、このような言葉遣いはマズいのではないかというものだ。

 

「気にする事は無いですよ。公の場では本音は発言しませんので」

 

「ほえ? いっちー、どうしたの?」

 

「いや、篠ノ之さんが『当主と従者なのにこんな話し方をして大丈夫なのだろうか?』という顔をしていたから」

 

「美紀ちゃんや碧さんも普段から畏まった話し方はしてないじゃないか~」

 

「あの二人は公私をしっかりと区別してるからな。同じように虚さんも公の場ではいつも以上にしっかりとするが、本音にそれは期待できないからな」

 

「だって、どうしてもいっちーはいっちーにしか思えないから~」

 

「今はまだいいが、卒業したら少しは努力しろよ? 布仏家は従者の中ではかなり上の地位なんだから、その娘であるお前が今のままじゃ色々とマズいからな」

 

「おね~ちゃんに任せるのだ~」

 

 

 自分には分からない世界の話をする二人を見ながら、箒はなんとなく本音に注意しなければいけないという気持ちになった。

 

「本音さん」

 

「ほえ、なーにシノノン?」

 

「一夏様にご迷惑をかけないよう、私と一緒に礼儀作法の特訓をいたしましょう」

 

「えー! 面倒だし、放課後はシノノンと一緒にVTSを使っての特訓だし、そんな時間無いよ~?」

 

「休日とかもうじき冬休みですし、その間に少しでも礼儀作法を身につけた方が、本音さん自身の為にもなりますよ」

 

「うーん……少し考えておくね~」

 

 

 あまりやる気の無さそうな返事ではあったが、本音が検討してみるというだけで箒は満足したのだった。




真面目は本音は長続きしないんですよね……

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