暗部の一夏君   作:猫林13世

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ダメっ子のようでしっかりしてる……でものほほんとしてるから目立たない……


本音と箒

 復帰そうそうの授業が実習だったため、箒はとりあえず見学という扱いになった。理由はまだ訓練機たちが心を開いていないのと、いきなりでは可哀想だろうという一夏の温情だった。

 

「というわけで、私も見学になったから。よろしくね、シノノン」

 

「よろしくお願いします。えっと……?」

 

「本音だよ! 布仏本音」

 

 

 記憶が無いという事で、本音は箒に改めての自己紹介をした。

 

「布仏という事は、更識関係者なのですね?」

 

「かんちゃんのメイドさんって事になってるけど、実際はお友達だね~」

 

「かんちゃん? 日本代表候補生の更識簪さん?」

 

「あっ、昨日正式に代表に昇格したんだよ~。発表はまだだから黙っててね」

 

 

 それを自分に言っていいのかと箒は思ったが、今の自分に何かを話す相手などいないという事だろうと解釈しツッコミは入れなかった。

 

「ところで本音さんは何故見学に? 私の監視という事ならば、他の方でもよかったのでは?」

 

「昔のシノノンに対抗出来る人がそう多くなかったからかな~? 私は相性が良かったようでいっちーから頼まれたんだ~」

 

「相性? 人間としてでしょうか? それとも対戦相手としてでしょうか?」

 

「後者だね~。この喋り方が苛々したみたいで、前のシノノンはすぐに激昂して動きが単調になったんだよ~」

 

 

 それを本音自身が自覚していたかは定かではないのだが、確かに本音は箒相手に最適な喋り方をしていた。だからではないが、箒が襲ってきた時には大抵本音を対処に当たらせていたのだった。

 

「それにしても、いっちーは優しいよね。私だったらあれだけの事をしたシノノンを許そうなんて思わないもん」

 

 

 急に口調が真面目になり、箒は何事かと身構えてしまう。先ほどまでの雰囲気とは一変し、本音が纏っている空気は油断ならないものであると、今の箒でも感じ取ることが出来た。

 

「おっ、そういうところは前のシノノンと一緒なんだね~」

 

「……貴女の本当の姿はどちらなのですか?」

 

「ん~? どっちも私なんだけどね~。たぶんこっちが本当の私で、さっきのはお仕事モードの私って事なんだと思うけど、私も良く分からないんだよね~」

 

 

 意識的に切り替える事が出来るとはいえ、本音はどっちが本当の自分なのか理解していないし、理解しようともしていない。一夏や他の人間も、使い分けが出来るならどちらの本音が本当の本音でも構わないということで、特に追及もしないので、本音もそれでいいやという感じになっているのだった。

 

「とにかく、いっちーの信頼を裏切るようなことがあったら、私も容赦しないから」

 

「分かっています。出来る事ならば、前の私を今の私が殺したい気分ですから」

 

「その雰囲気は前のシノノンと似てる部分があるんだね~。でも、今のシノノンの方が澄んだ空気を纏ってるよ」

 

「そう言うのも分かるんですか?」

 

「なんとなくだけどね~。いっちーのように、何処がどう違うとかは分からないけど、前のシノノンが纏ってた空気は、黒く淀んでた感じがしたからさ~」

 

 

 だらだらしてる部分が目立つ本音ではあるが、こういう人を見る目はしっかりとしている。しかも純真故に人の本性を見抜くことも度々あるのだ。

 

「おっ、セッシーとラウラウが模擬戦をするみたいだね~。シノノンもISの事をしっかり見ておくといいよ~」

 

「動きを、ではなくですか?」

 

「シノノンにはまず、ISにも感情があるという事を理解してもらわないといけないから……だからISの動きを見ておいた方が良い……」

 

「さっきから何を見ているんですか?」

 

 

 箒が覗き込むと、そこには一夏の字で書かれたカンニングペーパーがあった。つまりさっきまでの説明は一夏が本音に教えた事をそのまま本音口調に変換されて箒に伝えられていた事だったのだろう。

 

「ISの事はいっちーに教わった方が一番だからね。でも、シノノンの本性とかの話は私自身が感じたことだからね?」

 

「分かってますよ。全部見えたわけではありませんが、その紙には私の事は書かれてない様子でしたし」

 

「むー! せっかくちゃんとした人だって思われるように頑張ってたのに~!」

 

 

 本気で悔しがる本音を見て、箒はクスクスと笑い出す。その表情は実に楽しそうで、変に緊張している様子もなかった。

 

「やっぱりいっちーの思惑通りなんだね~」

 

「何がですか?」

 

「他の人だと変に意識しちゃったり、必要以上にシノノンを警戒しちゃったりするから、シノノン自身も緊張して萎縮しちゃうからって言ってたけど、確かに今のシノノンは自然体だな~って思って」

 

「本音さんは私相手に必要以上に警戒してませんし、こちらも警戒する必要が無いと思わせてくださるので」

 

「だって、私は出来る事ならシノノンとも仲良くしたいし、いっちーが大丈夫だって言ってるんだから、それを信じてるだけなんだけどね~」

 

「恐らくですが、以前の私がどうしても頭の中をよぎってしまうので、他の人は警戒してしまうのでしょう」

 

「う~ん……空気を見れば、前のシノノンと違うって分かるんだけどな~……まぁ、カスミンあたりは分かってても怖いんだろうけどね」

 

「カスミン…さん?」

 

 

 耳馴染みのない呼び名に、箒は首を傾げる。その仕草を見て、本音は自分の呼び名が独特であることを思い出して説明したのだった。

 

「えっとね……日下部香澄ちゃんだよ~! シノノンといっちーの席の間に座ってた子。今はいっちーと変わったからいっちーの向こう側に座ってる子だよ~」

 

 

 本来であれば箒の隣は香澄なのだが、箒が怖いという事で一夏が席を変わってあげたのだ。もちろん、一夏もそれなりに恐怖心は抱いているのだが、香澄の怖がり方が尋常ではなかったので、織斑姉妹を説得し恐怖心に打ち勝つまでという条件で席を変わったのだった。

 

「人の心が読めるらしいから、シノノン相手は怖いんだってさ~」

 

 

 本音からその事を教えられ、箒は香澄の相手は細心の注意を払って怖がらせないようにしようと決めたのだった。




カンペのお陰でしっかりしてました……

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