織斑姉妹、碧、真耶、ナターシャに囲まれるように教室に向かう箒は、自分がどれだけ警戒されているかを再確認し、それだけの事をしてきたのだと改めて理解した。
「束の妹だろうがなんだろうが、今度は容赦しないからそのつもりで生活するように」
「一夏から言われているから今は手を出さないが、一夏の期待を裏切ったら即その首を撥ねてやるからな」
「織斑姉妹の物騒な物言いは兎も角として、私も一夏さんの信頼を裏切るようなことをしたら容赦なく貴女の人生を終わらせますので」
「皆さん、一応教室前なのですから、生徒に物騒な物言いが聞かれちゃいますよ?」
真耶の弱々しいツッコミは三人には効果が無く、逆に箒に向けていた鋭い視線を向けられてしまい、泣きそうになりながら教室に逃げ込んだ。
「マヤヤ、何で泣きそうなの?」
「い、いえ……えっと、皆さんもご存じだと思いますが、今日から篠ノ之さんがIS学園に復学します。もちろん、何か問題を起こしたらすぐ国際裁判にかけられ、そのまま二度と帰ってこないことになると思いますので、必要以上に怯える心配はありません。ですよね、更識君?」
自分が伝えるよりも一夏が発言した方が説得力があるし、生徒を安心させられると理解している真耶は、一夏に話を振る。振られた一夏は心得ていたとばかりに立ち上がり、クラスメイトたちに説明を始めた。
「今の篠ノ之さんは、一学期にIS学園に在籍していた篠ノ之さんとは別人になっています。もちろん、ふとした拍子に元の篠ノ之さんが出てくる可能性は否めませんが、その場合は更識が全力を持って排除しますのでご安心を」
「更識君、排除って? また学園から追い出すの?」
清香の質問に、一夏は苦笑いを浮かべた。普通の高校生が考える排除は、その程度なのかという認識のずれを実感しての苦笑いである。
「言い方が悪かったですね。学園から排除ではなく、この世から排除します」
特に纏っている空気の質を変えたわけではないのに、教室の温度が一気に下がったように真耶には感じられた。それでもまったく動じないマドカとマナカ、美紀と本音を見て、さすが織斑姉妹の妹と暗部所属の二人だなと感じていた。
「というわけで、過剰に警戒心を抱く必要は無いので、普通にしてる分には仲良くしてあげてください」
説明は終わりだと言わんばかりに座った一夏を見て、真耶は自分が話す番だという事を自覚し、廊下に目を向けた。
「それじゃあ入ってきてもらいましょうか」
それを合図に教室の扉が開き、前を織斑姉妹、後ろを碧とナターシャが囲むようにして箒が教室に入ってきた。
「えっと、篠ノ之箒と申します。以前の私はこの教室で生活していたようですが、今の私にはその記憶はありません。皆様には必要無い恐怖心を植え付けていたようで誠に申し訳ございませんでした。今後そのような事が無いように努めますので、皆様どうかよろしくお願いいたします」
懇切丁寧に自己紹介と謝罪をし、深々と頭を下げた箒に、クラスメイト全員が呆気にとられた。そんな中で動けるのは彼女くらいのものだった。
「ほう、これがあの箒なのか……随分と雰囲気が変わってるな」
「姉である篠ノ之束と、一夏様のお陰でございます」
「ら、ラウラ? よく普通に話しかけられるね」
「お兄ちゃんや教官たちが見張ってくれているのだから、必要以上に警戒しても仕方ないだろ? それに、またこうしてクラスメイトになるんだから、出来る事なら仲良くしたいじゃないか!」
微妙に空気が読めないラウラに救われたように、クラスメイト達も箒に話しかける。
「HR中だ馬鹿者共!」
「話しかけるのは後にしろ!」
箒に群がろうとしたところを、織斑姉妹のカミナリで現実に引き戻され大人しくなるクラスメイト達を見て、箒も背筋を伸ばしてその場にとどまった。
「それでは、篠ノ之さんは席に着いてください。前に使っていた場所が空いていますので」
「そう言われましても……以前どの席に座っていたのかもわかりませんので」
「そうでしたね。更識君の隣の席です」
「先に言っておくが、少しでも一夏にちょっかいを出そうとした時点で処罰の対象だからな」
千冬にきつく念押しをされ、箒はビクビクしながら席に着いた。微妙に離れているような気がする一夏の席との間隔を確認し、そう言う事なのかと箒は心の中で過去の自分を責めた。
「(前の私はどれだけ一夏様にご迷惑をかけていたのでしょう……自分勝手な考え方でもしていたのかしら?)」
記憶が無いので前の自分がどんなことをして一夏に迷惑をかけたのかイマイチ把握していない箒は、とりあえず後でもう一度謝ろうと決意したのだった。
「それでは一時間目は実習ですので、更識君以外はここで着替えてください。四月一日さんは篠ノ之さんにいろいろと教えてあげてくださいね」
「分かりました」
何故美紀を指名したのかと一瞬考えたクラスメイト達だったが、更識所属で正式に代表に昇格した美紀なら納得だと、自分たちの中で結論付けたのだった。
「それでは皆さん、今日も一日頑張りましょう」
真耶の掛け声に誰一人として反応せず、真耶は泣きそうな顔で教室から去っていった。その後を追うように一夏も更衣室に向かい、ストッパー役がいなくなったのでクラスメイト達は箒に群がり、殆どの生徒が織斑姉妹の愛の鞭の餌食となったのだった。
席が変わってる理由は次回にでも