暗部の一夏君   作:猫林13世

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本当は養子になった時に転校させるのが正解なんですがね……


一夏の進路

 クラスでのんびりしていた一夏に、何時も通りに鈴が騒がしく話しかけてきた。だが今日の内容は何時もと違い、騒がしい中にも真面目な雰囲気が見て取れたので、一夏も居住まいを正して鈴の方を見た。

 

「アンタ、中学はどうするの?」

 

「どうする、とは?」

 

「だって学区が違うでしょ? このままコッチの中学に通うのか、それとも今生活してる場所の学区で通うのかって事」

 

「ああ、そう言えば学区が違うんだっけか……すっかり忘れてた」

 

 

 車で通学する事が一夏の中では当たり前になっていたので、鈴に言われるまで学区という概念を完全に忘れていたのだ。

 

「さすがに中学まで車で送ってもらうわけにもいかないし、俺は完全に織斑家の人間では無くなったんだ。更識の屋敷から一番近い場所に通う事になるだろうな」

 

「ふーん、て事はアタシたちとは別の学校ってわけね」

 

「別にそれ程遠いわけでもないし、携帯で連絡だって出来るだろ。遊ぼうと思えばいつでも遊べるさ」

 

「そうなんだけどさ。中学ってほら、試験とかあるでしょ? 一夏がいないとキツイかなーって」

 

「そこまで面倒は見切れん。それに、俺だってそれなりに忙しいんだから、何時までも鈴の相手をしてられるわけじゃないんだが」

 

 

 小六に進級したばかりだというのに、鈴はもう来年の事を心配していた。その事がおかしく思えた一夏は、正した居住まいを崩し、普段通りの雰囲気に戻した。

 

「今日は遊べるの? この前知り合ったヤツを紹介したいんだけど。中学は同じっぽい感じだし、一夏がいなくなるのなら、ソイツらとつるもうかなって」

 

「同性の友達は作らないのか? 鈴が女子と遊んでるところなんて見た覚えが無いんだが」

 

「アンタはアタシの親か! 心配しなくても同性の友達くらいいるわよ!」

 

 

 結局何時も通りのグダグダのやり取りになったのを見て、他のクラスメイトも会話に加わってきた。だがやはり、鈴と親しそうな女子はいなかったと、一夏は密かに確認していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日から再開した一夏と虚のIS勉強会に、何故か簪と美紀も参加したいと言い出した。理由はIS学園入学に向けての準備と言っているが、虚は一夏と一緒の時間が減った二人が勉強を理由に一夏と一緒にいる口実だと思っていた。

 

「(まぁ、簪お嬢様も美紀さんも、本音と違ってまともに勉強するみたいですし、問題は無いんですが……)」

 

『嘘、ですね。貴女は一夏さんと二人っきりの時間を邪魔されたと思ってます』

 

「(そんな事無いですよ。それに簪お嬢様と美紀さんは私なんかよりよっぽど立場が上の御方です。むしろ私なんかが一緒にいて良いのかと思うくらいなんですよ)」

 

『前当主の娘と、表向きの現当主の娘、ですものね。更識家に仕えているだけの貴女が、同列視出来る相手では無いのは確かでしょう。ですが、ISに関して言えば、貴女の方が上なんですよ、虚』

 

「(そうなんですが……ところで、先ほどから一夏さんが生温かい視線を向けてきているのは……)」

 

『私の声は一夏さんに丸聞こえですからね』

 

 

 丙があっさりと告げた言葉に、虚は顔を真っ赤に染め上げた。その理由が分かっている一夏は特に気にしなかったが、いきなり顔を赤くした理由が分からない簪と美紀はしきりに首を傾げ、我慢出来なかったのか虚に理由を尋ねてきたのだった。

 

「虚さん、いきなりどうしたんですか?」

 

「刀奈お姉ちゃんならまだしも、虚さんがいきなりそんな反応するのはおかしいですよ」

 

「美紀……お姉ちゃんなら納得出来るってのは、妹として複雑なんだけど」

 

「でも、簪ちゃんだって納得出来るでしょ?」

 

「……まぁ」

 

 

 実の妹にこのような事を思われている刀奈は、現在候補生合宿で屋敷にはいない。そして一夏の護衛として専用機『土竜(どりゅう)』を与えられた本音は、その土竜に怒られて訓練に精を出している。本音の性格を熟知している一夏が、せめて専用機はしっかり者にさせようとプログラムした結果だ。

 虚は現実逃避気味にそんな事を考えながら、どう説明しようか思考を巡らせる。助けを求めようと一夏に視線を向ければ、苦笑いを浮かべながら首を左右に振る一夏の姿が見られた。

 

「(さて、なんて言いましょうか……)」

 

「何時までも無駄話してるのなら、今日は終わりで良いのか?」

 

「ゴメン、一夏……もう少しだけ」

 

「ちゃんと集中しますから」

 

「……へ?」

 

 

 助けるつもりは無いと意思表示してきた一夏が、助け舟を出してくれた事で、虚は間が抜けた声を上げてしまった。そんな虚に、またしても二人は訝しむ目を向けてきたのだが、今回はそれ以上は追及してくる事無く勉強に戻ってくれたのだった。

 

「虚さんも手が止まってますよ。いくら専用機を持ってるハンディがあるからと言って、IS学園の入試に百パー合格出来るわけじゃないんですからね」

 

「わ、分かってます! ですが、驕りでは無いですけどISの知識は同年代では上の方だと思ってます」

 

「そうですね。ですが、そこで驕り高ぶったらそれ以上は有りません。ですから、集中して勉強してください」

 

「は、はい!」

 

 

 特に厳しい口調に改めたわけではないが、一夏の言葉には圧が掛かっていた。しかも虚にだけ伝わるように調整しているから二人には何の影響も与えていなかった。

 

「ねぇねぇ一夏、中学は一緒に通えるんだよね?」

 

「ん? そうだな。中学は簪たちと一緒の所になるだろう」

 

 

 不意に尋ねられた質問に、スムーズに答えられたのは、先日似たような質問をされたからに他ならなかった。一夏はそれ以上無駄話はしないと意思表示し、簪も美紀も虚も勉強に集中したのだった。




中学時代はあんまりやる事無いしな……モンド・グロッソくらいかな?

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