暗部の一夏君   作:猫林13世

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一応護衛ですから


一夏と本音

 更識の用事を済ませ、車で送ってもらった一夏を出迎えたのは、護衛の本音だった。

 

「お帰り、いっちー。もうすぐかんちゃんと美紀ちゃんも帰ってくるって」

 

「代表昇格したらしいな。さっきメールを見て知ったが、やはり二人で決まりだったようだな」

 

「いっちーがせっついたから決まったんでしょ?」

 

「さて、俺は何も言ってないからな。全ては簪と美紀の実力が認められた結果だ」

 

 

 当然のように嘯く一夏を見て、本音は楽しそうに笑った。彼が認めないのは最初から分かっていたが、自分の想像通りの反応が楽しかったのだろう。

 

「さて、篠ノ之の様子はどうだ?」

 

「今は大人しく部屋の掃除をしてるって刀奈様から報告が来てるよ。前のシノノンと違って、今のシノノンは大人しくてちょっと気味が悪いね」

 

「言ってやるなよ……まぁ、少し時間はかかるかもしれないが、今の篠ノ之なら更識企業で使えるかもしれないからな。長い目で見てやってくれ」

 

「いっちーが使うって判断するなら、私たちは大人しく従うだけだよ? ご当主様の命令に逆らえるほど、私には権力は無いし、考える力もないから」

 

「お前は実力を隠すのだけは一流だからな……だが、上手に隠し過ぎて上手く取り出せない欠点があるが」

 

「そんなに褒められると恥ずかしいよ~」

 

「後半は褒めてないからな? もう少し実力を出せるように訓練しろ」

 

「はーい」

 

 

 本音の実力は一夏も認めるものがあるのだが、その実力を毎回発揮する事が出来ないのだ。碧のように相手に実力を掴ませないまではいいのだが、隠し過ぎて大事な時に使えないというのが本音の欠点である。

 

「とりあえず篠ノ之の件は様子見だ。何処の国からも文句は無いし、日本政府には状況を見てIS学園に復帰させるかもしれないと報告してきたからな」

 

「普通先生かがくちょーがするんじゃないの?」

 

「どちらも生徒会に投げてきたからな。より正確に言うならば、更識に一任してきたんだがな。篠ノ之の処分については更識が最初から一任されているんだから、復帰させる判断もそちらに任せると言ってきた」

 

「千冬先生や千夏先生らしい言い方だね~。まぁ、戦力的には申し分ないわけだし、いっちーとしては更識の戦力増強に使いたいってところかな?」

 

「別にどこかと戦うわけじゃないのだから、これ以上の戦力は必要ないと思うがな」

 

「既に更識企業に敵対しようなんて思う企業は無いだろうしね。アメリカがどう出て来るかにもよるけど、ISを使っての戦争なんて事にはならないだろうしね~」

 

「そもそもアメリカには今コアが無いからな。散々ISで金もうけを企てた報いを受けている最中だから」

 

「後はティナっちが移籍すれば、アメリカの候補生はいなくなるんだよね?」

 

「殆ど引退を表明してしまったからな」

 

 

 アメリカの権威と共に候補生の評価も下がっていったため、殆どの候補生は絶望しIS操縦士としての夢を捨てて堅実に就職を考え始めたのだが、ティナを含む数人は自由国籍を使って引き続き候補生として頑張ることを表明している。もちろん、アメリカの情報を欲している国に移籍するわけだから、生まれた国を裏切るという重荷に耐えられるかどうかはその人次第であるが……

 

「それでいっちー、ティナっちの移籍先は何処になるのかな?」

 

「今のところイスラエルが有力だろうな。アメリカからたんまり賠償金を貰い、更に技術力の発展を見せているが、やはり候補生の質は急激には上がらないからな」

 

「IS学園所属で、元々候補生として高い実力のあるティナっちが欲しいってわけだね」

 

「イスラエルの企業も、いくつか買収して傘下に収めているから、移籍の際には手助けも出来るだろうしな」

 

「いっちー、どれだけ更識を大きくするつもりなの?」

 

「ISを使って悪巧みをする企業が無くなれば安泰なんだがな……まぁ、既にIS企業の三割は更識の息がかかった企業になってるし、亡国機業を壊滅させたことにより、更に更識の名に力と箔が付いたからな」

 

「国際犯罪組織を壊滅させ、そこの実質的リーダーを改心させた手腕を評価するって、前にニュースか何かで言ってたね」

 

「本音がニュースを見てるとは、珍しい事もあるものだな」

 

 

 割と本気でそう思った一夏だったが、同室が簪であることを考慮すれば、ニュースくらい見てもおかしくないかと思い直し一つ頷いてから部屋へ向けて歩き出す。

 

「いっちー、今日はかんちゃんと美紀ちゃんが代表昇格した事へのお祝いだから、いっちーも手伝ってね」

 

「手伝うのは構わないが、何をすればいいんだ?」

 

「食材は用意してあるから、いっちーはそれを美味しく調理してくれればいいんだよ!」

 

「ただたんに本音が食べたいだけじゃないよな?」

 

「かんちゃんも美紀ちゃんもいっちーのご飯は大好きだし、こんな時くらいにしかいっちーは作ってくれないでしょ?」

 

「確かに、最近忙しくて料理してなかったかもしれないな……」

 

 

 最近どころではなく、中学に進学して以降、一夏が調理をする機会は格段に減っており、誰かの誕生日に作るくらいになってしまっていた。だがそれもIS学園に進学してからは無くなり、この一年で本当に数える程度しか料理をしていないのだった。

 

「それじゃあいっちーは食材がある調理室に向かうのだ~。マドマドとマナマナが待ってるから」

 

「……あの二人に調理させるつもりか?」

 

「いっちーのお手伝いをしたいんだってさ。もちろん、包丁は危ないからもたせてないからね」

 

 

 見た目だけでなく、料理の腕も姉に似てしまった二人の妹を思い浮かべ、一夏はかなり苦みの強い笑みを浮かべて調理室へと向かうのだった。




マドカとマナカの料理の腕は……

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