暗部の一夏君   作:猫林13世

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とりあえずは様子見で


箒の復帰

 碧を護衛につけ、一夏は再び山奥の柳韻宅を訪れていた。元々の期限は一週間ほど残っているのだが、ギリギリまで預けて即復帰だと色々と問題があるだろうからと、一週間は慣らしでIS学園で生活させた方が良いと判断したためである。

 

「一夏さん、さっきから震えてますが、寒いわけじゃありませんよね?」

 

「寒さもあるでしょうけど、恐らくは篠ノ之と対面するからだと思います」

 

 

 いくら箒が生まれ変わったといっても、一夏にとって恐怖の対象であることには変わらない。最近はオータムには過剰に反応しなくなったのを考えれば、長い時間一緒にいればトラウマは克服されるのだろうが、箒に関しては何時元の人格に戻るかもしれないという恐ろしさから、なるべく傍に置かない方が安全だろうというのが更識全体の考えになった。

 

「何かあれば私がすぐに仕留めますから」

 

「杞憂だと思いますけどね。念のためお願いします」

 

 

 ISだけでなく、徒手格闘も得意とする碧は、こういった場面の護衛に最適であると一夏は思っている。本音や美紀も徒手格闘は心得ているが、一夏には及ばないのでやはり碧が適任だろう。まして本音は頼りなさが目立つし、美紀は合宿所に行っているので、碧しか護衛がいないのも彼女が随行した理由でもある。

 

「お久しぶりだね、一夏君」

 

「約一か月ぶりですかね。その後篠ノ之の様子は?」

 

「君から預かったポータブル版VTSでISの練習をしながら、稽古事にも励んでいたから、心身ともに充実していたと思うよ」

 

「元々のポテンシャルは高いものがありましたが、思い込みが激しかったですからね。その辺りはどうです?」

 

「束の薬のお陰か、あの日を境に驕り高ぶることは無く謙虚になったよ。親のひいき目かもしれないが、絵に描いた大和撫子という感じだ」

 

「中身が変わったのならそうでしょうね。前々から篠ノ之さんは、黙っていれば大和撫子と言われていましたから」

 

「いや、耳が痛いですな」

 

 

 碧の率直な意見に、子育てをしっかりとしてこなかった事を言われているような気がして、柳韻は苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ、一週間もあればクラスメイトたちと打ち解けられると思うし、一夏君もそんなにビクビクしなくなると思うよ」

 

「今の篠ノ之さんには何の落ち度もないのでしょうが、こればっかりは刻み込まれた体験から来るものですから、そう簡単にはいかないと思います」

 

 

 過去の箒がしてきた仕打ちを束から伝えられ、柳韻は本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていたのだ。だから一夏から箒の更生を頼まれた時、親の務めだと思い快諾したのである。

 

「とりあえず上がってくれ。箒も君たちに会うのを楽しみにしているから」

 

「一夏さんは兎も角として、私もですか?」

 

「過去の映像を引っ張り出して、貴女がモンド・グロッソで優勝したのを見て興奮していましたからね。千冬ちゃんと千夏ちゃんと並び、貴女はIS乗りの憧れらしいですから」

 

「あの二人と同列視されるのはちょっと嫌ですが、そう思っていただいているのはありがたいですね」

 

 

 柳韻の前では大人しいので、柳韻は織斑姉妹をいい子だと思っている。だが実際は駄目人間を絵に描いたような生活態度と傲慢さで、一夏から説教されているのだが、そんな身内の恥を晒す必要は無いと一夏は黙っているのだった。

 

「箒、一夏君と小鳥遊さんが迎えに来たぞ」

 

「はい、お父様。一夏様、小鳥遊さん、お久しぶりです」

 

「その後どうですか? 生活に問題などありますか?」

 

「いえ、何不自由なく生活しております。強いてあげるとすれば、過去に一夏様にしてきた仕打ちを覚えていないので、どう償えばいいのかと頭を悩ませております」

 

「これからの態度と、問題なければ更識に力を貸していただければ、それで十分です」

 

 

 一夏としては使えるものは何でも使いたいので、箒が更生して更識の為に働いてくれるなら、自分に対する償いになると考えている。もちろん側近というわけにはいかないので、まずは末端で働いてもらうつもりではあるが。

 

「そのような事で償えるほど、前の私がしてきたことは軽くないと思っています。話を聞く限りですが、極刑に曝されても仕方ないと思えるほどの仕打ちです。どうか、もっと重い罰を」

 

「そう言われても……今の貴女には何の罪もないわけですから……もちろん、それなりに罰は課さなければいけませんが、更識で判断した罰ならどこも文句は言ってこないと思いますので」

 

「まぁ、更識に逆らえる組織があるとは思えませんしね」

 

 

 さらりと言ってのける碧に、一夏は苦笑いを浮かべ、箒と柳韻は一歩引いた。当然の事だが、それをあっさりと言われ受け入れられるだけの経験が二人には無かったのだ。

 

「とにかく、今日から一週間は元の部屋で生活してもらいますが、問題がないと判断出来れば調整次第でルームメイトも出来るでしょう。そうすれば社会復帰に近づけると思いますので」

 

「もちろん、問題ありと判断したら、すぐにでも始末しますので」

 

「分かりました。お父様、ありがとうございました。行ってまいります」

 

「あぁ、今度こそ立派になるんだぞ」

 

 

 柳韻に見送られ、箒は碧が展開した木霊の腕に抱かれIS学園へと向かう。一夏は片づける仕事があるからと別行動だが、二人は特に文句を言うでもなく、また特に会話するでもなくIS学園へと戻ってきたのだった。




違和感しかないな……この箒は

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