暗部の一夏君   作:猫林13世

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あまり勉強した記憶は無いですね


試験に向けて

 トーナメントの翌日、一夏の部屋には本音とエイミィと香澄、そして織斑姉妹(妹双子)が美紀と一緒に勉強をしていた。

 

「いっちー、今日くらい休みで良いんじゃないかな~?」

 

「水曜から試験だが、本音は赤点を取って冬休みを織斑姉妹と過ごしたいんだな?」

 

「私たちは一夏とゆっくりしてるから、本音は先生たちと勉強したいのならゆっくりしてもいいよ?」

 

 

 監督である一夏と簪に脅され、本音は渋々勉強を再開した。マドカとマナカは義務教育を受けてこなかったから苦戦しているだけだが、本音とエイミィと香澄は単純に勉強が苦手で、美紀も理解するまでに時間がかかるために勉強会を開いてもらっているのだ。

 

「専用機持ちが赤点なんて今まであったかしら?」

 

「補正ががかかるためにありませんでしたが、さすがに今回点数が危ないと本音あたりは駄目でしょうね」

 

 

 一夏の手伝いとして参加している刀奈と虚が、名指しで指摘すると、本音は背筋をピンと伸ばして必死さをアピールしだした。

 

「兄さま、ここはどういう意味でしょうか?」

 

「あっ、私も分からない、お兄ちゃん」

 

 

 織斑姉妹が一夏に質問し、それを横目で見ていた美紀が、簪に問いかける。

 

「簪ちゃん、ここってどうやって解くの?」

 

「えっとね――」

 

 

 二人が同じところを聞いているなら、自分もその説明を聞いて理解しようと思っていたが、どうやら別の場所だったらしく簪に質問したようだった。

 

「美紀ちゃんは頑張ってるんだけどね」

 

「本音は形だけですね」

 

「が、頑張ってるよ~」

 

 

 虚に冷たい視線を向けられ、本音はたじろぎながらも問題を解いている事をアピールする。だが、圧倒的に解いている問題数が少ないので、あまりアピールにはならなかった。

 

「このままじゃ、本音だけは温泉にいけないかもね」

 

「どういう事ですか?」

 

「一夏君が、冬休みに慰安旅行を兼ねて温泉に行こうって言ってくれたのよ。もちろん、赤点だと行けないから頑張ってもらってるんだけど」

 

「それって誰が行けるんですか?」

 

「一応更識縁者と、一夏君が認めた数人だけって事になってるから、この事は内緒だからね」

 

 

 万が一織斑姉妹(姉双子)の耳に入ったら、彼女たちもついてくるだろうと危惧した刀奈は、部屋にいるメンバーに他言無用と口止めをした。

 

「でもお姉ちゃん、休みが全員揃う日なんてあったっけ?」

 

「一夏君が調整してくれたから、私たちは問題ないわよ」

 

「他国の候補生であるカルラさんは難しいかもしれませんが、恐らく大丈夫でしょう」

 

 

 不安に押しつぶされそうになっていたエイミィに、虚がフォローを入れた。更識縁者ではないが更識所属なので参加出来る可能性があるのに、候補生としての地位がそれを邪魔をするのではないかと心配していたようだが、今の一言で安心したようだった。

 

「とりあえず、香澄さんやエイミィも候補に入っているから安心してテストに臨むように」

 

「温泉って、実は初めてじゃない?」

 

「あまり行く機会もありませんでしたからね」

 

「言っておきますが、お二人も赤点なんて取ったら行けませんからね?」

 

「大丈夫よ。これでもちゃんと勉強してるんだから」

 

 

 刀奈も虚も、学年一位の成績であり、万が一にも赤点なんていう事態にはならないと理解しているが、念の為釘を刺しておいた一夏であった。

 

「ところで一夏君」

 

「何でしょうか」

 

「この試験が終わったら、簪ちゃんと美紀ちゃんは代表になるわけじゃない? お祝いとかしないのかしら」

 

「俺たちは篠ノ之の件がありますから、準備してる暇がありませんよ。刀奈さんや虚さんだって、色々とあるでしょうし」

 

「復学させるのか否かでも変わってくるけどね」

 

「とりあえずは様子見ですかね……ISを動かせるのか、それもまだ分かりませんし」

 

「VTSは使えたんだよね? だったら大丈夫だと思うけど――」

 

「お姉ちゃん、一夏、少しボリューム押さえて」

 

「あぁ、すまん」

 

 

 勉強してる人たちの気が散ると、簪から注意され、一夏と刀奈は部屋の奥――この場合は入り口付近――に移動して話を続ける事にした。

 

「箒ちゃんの専用機――って事になってるサイレント・ゼフィルスは一夏君が保管してるんだよね?」

 

「整備は済ませましたし、篠ノ之が行ってきた残虐非道なデータは消去しましたので、彼女がその事で篠ノ之を拒むことは無いと思います」

 

「それだったら大丈夫だと思うけど、万が一箒ちゃんに過去の人格が戻ったらさすがに庇えないわよね」

 

「束さんの発明品ですから、何処かしら欠陥があるかもしれませんからね……こちらでも作っておきますか?」

 

「さすがに未認可の薬を作らせるわけにはいかないわよ……篠ノ之博士は何でもありだけど、一夏君には守るものが沢山あるでしょ?」

 

「そうですね……例えば、刀奈さんとか」

 

「バカっ!」

 

 

 照れくさそうに言う一夏に、言われた方の刀奈も照れくさそうに答える。ふざけたのはそこだけで、すぐに一夏も刀奈も真面目な表情に戻った。

 

「とりあえず、俺と碧さんで篠ノ之の様子を見に行きますので、刀奈さんたちは篠ノ之の部屋の片づけをお願いします。もちろん、試験が終わったらで結構ですので」

 

「分かってるわよ。てか、箒ちゃんの部屋って織斑姉妹の部屋の隣でしょ? あまり行きたくないわね……」

 

 

 今から憂鬱な気持ちを抱きながらも、一夏からのお願い事を断るという選択肢は刀奈の中には無い。話し合いを終えてみんなの所へ戻ると、本音が死にそうになっていたのだった。




一夏が若干ジゴロに

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