暗部の一夏君   作:猫林13世

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他では優秀なんですけどね……


美紀の弱点

 大人たちの打ち上げから戻ってきた一夏を出迎えた美紀だったが、いつも以上に疲れてるように見えたので、優しく声を掛けた。

 

「一夏さん、大丈夫ですか?」

 

「心配しなくても大丈夫だが、ちょっと精神的に疲れたな」

 

「何があったんですか?」

 

「酔いつぶれた教師四人を店に置かせてもらう為にお金を払い、途中までナターシャさんを背負って帰って来て、その後は碧さんと闇鴉からは嫉妬の視線を浴びせられ、ナターシャさんには申し訳なさそうな視線を向けられ、とにかく精神的に疲れる時間が続いただけだ」

 

「何故ナターシャさんを背負ってきたのです?」

 

「ん? アルコールの匂いで気絶してしまったから仕方なく。悪酔いした四人は知らんが、ナターシャさんは完全に不可抗力だからな」

 

 

 美紀も嫉妬の視線を一夏に向けるが、すぐに申し訳ないと思い視線を改めた。

 

「それで、打ち上げはどうだったのですか?」

 

「どうも何も、俺は普通に学生の打ち上げに参加するつもりだったんだから退屈の一言だな。織斑姉妹が案の定酔いつぶれたまでは良かったんだが、山田先生と五月七日先生まで悪酔いするとは……」

 

「それで、酒代は一夏さんが払ったんですよね?」

 

「領収書を貰ってるから、後で織斑姉妹たちに請求するから問題ない。場所代は別で請求するがな」

 

 

 店の一角を借りているのだから、それなりに払っているので、一夏は別口でそっちの領収書も切ってもらったのだ。請求先はもちろん織斑姉妹だ。

 

「碧さんとナターシャさんは、既に払ってくれたから問題ない。というか、碧さんもナターシャさんもほとんどソフトドリンクだからな」

 

「碧さんは飲めるんですよね?」

 

「一杯だけ付き合ってたが、後は護衛だからって断ってたな」

 

 

 一夏が許可しなければ一杯も飲まなかっただろうが、紫陽花に頼まれて付き合い程度に飲んだのである。

 

「こっちは刀奈お姉ちゃんと本音がコーラの早飲みとかしてました」

 

「相変わらず何してるんですかね……刀奈さんは」

 

「本音は良いんですか?」

 

「アイツは言っても聞かないからな……虚さんも頭を悩ませるわけだ」

 

「一夏さんも虚さんも、結局は本音に甘いですからね」

 

「そんなつもりは無いんだがな……」

 

「マドカやマナカさんも楽しそうでしたけど、やっぱり一夏さんがいないと場が締まらないんですよね」

 

「年長者の役目だと思うんだがな……刀奈さんか虚さんに締めてもらえばよかったんじゃないか?」

 

「もちろんそのお二人でも十分なのですが、やっぱり一夏さん中心に集まってるメンバーですから、一夏さんじゃなきゃしっくりこないんですよ」

 

 

 一夏としては、自分が中心にいるとは思っていなかったので、美紀の一言に意外感を禁じ得なかったが、周りにいるメンバーの一人である美紀としては、一夏が意外感を露わにしたことに驚きだった。

 

「まさか、自分が中心にいると思っていなかったのですか?」

 

「中央付近にはいると思ってたが、中心は刀奈さんかなと思ってた」

 

「更識の人間は兎も角、IS学園からの付き合いである他の人は、刀奈お姉ちゃんより一夏さんだと分かりそうですが……相変わらず変なところが鈍いんですね」

 

「鈍いつもりは無いんだがな……」

 

 

 つもりは無くともなんとなくそう思われている節があることを自覚しているため、あまり強く否定出来ない一夏を見て、美紀は思わず笑ってしまった。

 

「普段強気の一夏さんが、弱気だと可笑しいですね」

 

「別に普段から強気のつもりは無い……というか、美紀は俺が弱ってるところをかなり見てきてるだろ」

 

「はい。それはもう」

 

 

 力強く頷かれ、一夏は複雑な心境に陥る。年上の碧にならともかく、美紀に甘えてるのはどうしても恥ずかしいのだが、こればっかりはどうしようもないので困ってしまうのだ。

 

「たまに甘えるくらい良いじゃないですか。一夏さんは普段から私たちを甘やかしてくれてるんですから……というか、試験前なので甘えさせてください」

 

「美紀は勉強が出来ないわけじゃないんだよな……ただ理解するまでに時間がかかるというか……」

 

「他の事は大丈夫なんですが、どうしても勉強だけは苦手なんですよ」

 

「試験の時にISが使えれば碧さんの方向音痴のように補正する事は出来るんだが、さすがにそれは他の人に失礼だもんな」

 

「ズルしてまで良い点を取りたくはないです」

 

 

 そこが美紀の良いところで、別に良い点を取りたいわけじゃなく、赤点を取りたくないという気持ちが強いのだ。もちろん、良い点が取れる事に越したことは無いのだが、あくまでもしっかりと勉強した結果を求めるのであり、ISを使って弱点を補うつもりは彼女には無い。

 

「碧さんの場合は、仕事に差し支えたからな」

 

「屋敷内でも迷子になってましたからね」

 

 

 木霊を持つ前の碧を思い出し、一夏と美紀は同時に苦笑いを浮かべた。すぐ傍の部屋に移動するだけで迷子になっていたころの碧は、二人の中で既に遠い過去のように思えたのだった。

 

「まだ十年も経ってないのに、おかしな話だ」

 

「それだけ濃い内容の生活をしてるのですよ、私たちは」

 

「美紀も気づけば代表内定とまで噂されてるからな。てか、今週末じゃないのか?」

 

「試験が終わったら来てほしいと、簪ちゃんと一緒に連絡を受けました」

 

「篠ノ之が復帰するのと同時か……ちょっと不安だな」

 

「大丈夫ですよ。私と簪ちゃんがいなくても、刀奈お姉ちゃんや虚さん、もちろん碧さんもいますから」

 

 

 美紀に励まされ、一夏は箒と再会する覚悟を決めた。もちろん、今からその覚悟を持続させると疲れるので、とりあえずは箒の事は頭の隅に追いやり、試験対策の事を考える事にしたのだった。




努力するだけまだマシでしょうけどね

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