教師陣の打ち上げに参加させられ、挙句の果てに酔っぱらった大人たちの介抱を任された一夏は、ため息交じりにそれぞれを寝かせ、会計を済ませて碧と共に帰路についた。
「良かったんですか? あのまま寝かせておいて」
「帰りのタクシー代くらい持ってるでしょ。そもそも学生に酒代を払わせてる時点で、敬う気すら起きませんから」
「ナターシャさんは匂いだけでダメみたいでしたね」
「途中までは平気そうだったんですがね」
匂いで倒れたナターシャには同情的な一夏ではあるが、それ以外の四人には大なり小なり呆れていた。
「一番の原因はやはり織斑姉妹ですけどね」
「真耶も紫陽花も酔い潰されましたからね」
「アルコールハラスメントで訴えれば勝てるんじゃないですかね」
「どうでしょうね。自分から飲んでましたし」
それさえなければ、一夏も真耶と紫陽花に同情したかもしれないが、自分から飲んでいたので呆れているのだ。
「てか、ナターシャさんが羨ましいです」
「寝てるんですから静かにしてあげてください」
一夏も匂いだけで倒れたナターシャをおいていく気にはなれず、仕方なくおんぶをして連れて帰る事にした。その姿を碧は羨ましそうに見つめているのだ。
「彼女も幸せそうに寝てますね」
「福音と空を飛んでる夢でも見てるんじゃないですか」
「一夏さんに運んでもらってるからだと思いますけど」
「ナターシャさんは運ばれてるなんて知りませんよ」
お店で倒れたのだから、一夏に運ばれているなど知る由もないナターシャだが、碧は幸せそうな顔をしてるのは一夏に背負われてるからだと確信しているようだった。
「私はいつも抱き着かれる側ですからね。たまには一夏さんに抱きしめてもらいたいです」
「いきなりなんですか」
「簪ちゃんに胸を貸したんですよね? 泣かせるために」
「……何で知ってるんですか」
「壁に耳あり、ですよ」
「白状すると私が木霊を通じて教えました」
「……またお前か」
闇鴉が人の姿になり白状すると、一夏は疲れ切った表情を浮かべため息を吐いた。
「代わりましょうか?」
「いえ、体力的に疲れたのではなく、精神的に疲れただけですから」
「一夏さんが精神的に疲れるなんて珍しいですね。何かあったのですか?」
「お前だ、お前……」
素知らぬ顔で尋ねてきた闇鴉に、一夏は鋭い視線を向けたが、闇鴉には通用しなかった。
「そう言えば、そろそろ篠ノ之箒の猶予期間が終わるのではありませんか?」
「あからさまに話題を変えたな……試験後には結果が出るだろう。まぁ、あれだけ変わってれば極刑は避けられるだろう。まぁ、一生監視下には置かれるだろうが」
「当然の判断だとは思いますが、どこかの国が文句を言ってくるかもしれませんよ?」
「言ってきたらその国ごと潰せば問題ないですから。もちろん、使えそうな技術者と有望なIS操縦者は更識が引き抜きますが」
「さすがご当主、黒い事もさらりと言ってのけるのですね」
「お前にご当主と言われるとはな……」
「だって、私は更識所属のISですから。一夏さんはその当主様ですから敬うのは当然です」
「ならもう少しふざけるのを我慢してくれないか?」
今度は非難の視線を向けるが、やはり闇鴉には通用しなかった。
「碧さん的には、篠ノ之箒の処分についてはどう思いますか?」
「私は一夏さんが決めたことに従うだけですから」
「いいんですか? この間柳韻殿が『嫁にでも』と言っただけで殺気を飛ばして斬り殺したんですから」
「幻覚を見せただけです。実際にはやってませんから」
「物騒な事を公共の場で話さないでくれます? いくら人がいないからと言って、聞かれたらただじゃすみませんよ?」
「大丈夫ですよ。喋れなくすれば問題ないです」
「その思考は危ないから止めろ」
専用機の性格設定を間違えたかもしれないと、一夏は今更ながらに後悔した。ある程度は自分で設定出来るので、もう少し真面目にしておけばと、一夏はあの時の自分に伝えたい気持ちに苛まれた。
「まぁまぁ一夏さん、あんまり真面目だと凝り固まってしまいますから、これくらいがちょうどいいんですよ」
「心を読むな……」
「私と一夏さんは以心伝心、一心同体、運命共同体ですから」
「所有者とISの関係だ」
「一夏さんはツンデレなんですから~、このこの」
「……お前をスクラップにするくらい簡単なんだが?」
「なら、私は一生人の姿でいるとしましょうか」
「……碧さん、助けてください」
闇鴉に何を言っても無駄だと分かっていても言ってしまう一夏は、かなり疲れた顔で碧に抱き着いた。
「あっ! 私をダシに使って一夏さんに抱き着かれるなんて、碧さんズルいです!」
「だから私は一夏さんに抱き着きたいんだけど?」
「うーん……なんだかうるさいですね……はれ? ここは何処です? 私はさっきまで銀の福音と空を飛んでたはずなのに……」
「だから言ったでしょ? 空を飛んでる夢を見てると」
闇鴉の声で目が覚めたナターシャは、自分が一夏に背負われている事に気付きすぐに飛び降りた。
「な、なにがどうなって私は更識君に背負ってもらってたのですか!?」
「酒の匂いで潰れたのよ。さすがに可哀想だからって一夏さんが運んでくれてたの」
「そ、そうだったんですか……あれ? 織斑姉妹や山田先生と五月七日先生は?」
「酔いつぶれたので放置してきました。店にはそれを含めた迷惑料も払ったので問題はありません」
「あると思いますがね」
碧のツッコミは取り合わず、一夏は早々にIS学園に戻るべく歩を進めたのだった。
ダメ教師が増えたな……