本来なら刀奈たちと学生の打ち上げに参加するはずだった一夏は、織斑姉妹と碧に拉致られ、教師陣の打ち上げに参加していた。
「織斑姉妹だけならまだしも、碧さんまで」
「たまにはいいじゃないですか。刀奈ちゃんたちには悪いけど、私だって一夏さんとのふれあいの時間が欲しいんですから」
「それだけだったら、個別に時間作りましたって。何故織斑姉妹の相手をしなければならないのですか」
大人の打ち上げなので、当然アルコールが入ってそれぞれ少しハイになっている。あの真耶ですら少し強気になっていたりするのだ。
「更識君、貴方は未成年なので飲んじゃらめですからね～」
「分かってます。先生こそ飲み過ぎないでくださいよ」
「大人を甘くみちゃらめですから」
「おい真耶！ 私の一夏にちょっかい出すとは良い度胸だ」
「別に千冬さんのってわけじゃないですよね？ そもそもあまり相手にされてないじゃないですか」
「貴様……気にしてる事を」
アルコールの力なのか、何時もはやられっぱなしの真耶が千冬に反撃し、見事撃退に成功した。
「お酒の力って凄いんですね」
「碧さんは飲まないんですか？」
「一応護衛の任務中ですから」
「真面目ですね、碧先輩は」
「真耶、貴女少し飲み過ぎじゃない？」
「そんなことらいでひゅよ」
「ほら、呂律が回ってないわよ。少し風に当たって来なさい」
碧に店の外に追いやられ、真耶は一人で風に当たりに行った。
「あの真耶があそこまで飲むとはね」
「小鳥遊先輩も少しは飲みましょうよ」
「紫陽花、私は一夏さんの護衛なの。護衛が酔っぱらったらダメでしょ」
「少しくらいいいじゃないですか。更識君だって許してくれますよ」
視線で紫陽花に問われ、一夏は苦笑いを浮かべた。別に碧は酒癖が悪いわけでもなく、すぐに酔っぱらうわけでもないので少しくらいなら構わないと一夏も思っているのだが、碧が自分の仕事に誇りをもっているのも知っているので、無理強いはしない方が良いとも思っているのだ。
「紫陽花は千夏さんと飲んでればいいじゃない。今なら貴女でも相手出来るでしょ」
「私は小鳥遊先輩と飲みたいんです！」
「じゃあ、お茶で良いなら付き合うわよ」
「やった！ ささ、行きましょう」
紫陽花に背中を押され一夏から遠ざかっていく碧を、一夏は無言で見送る。
「よろしかったのですか？」
「たまには碧さんも羽目を外してもいいと思うんですがね」
「真面目ですからね、小鳥遊さんは」
「ナターシャさんも、少しは飲んでもいいですよ」
「いえ、私は下戸なものでして……」
「なら飲まない方が良いですね」
碧が護衛から外れたため、すぐ傍で控えていたナターシャがすかさず一夏に近づく。一定の距離を保っていればナターシャでも平気なので、一夏は碧を紫陽花に任せたのだ。
「それにしても、更識所属のメンバーは凄いですね」
「何ですか、いきなり」
「今日の大会を見て、だいたいが更識所属のメンバーだったじゃないですか」
「専用機持ちは、そうですがね。非専用機持ちの部は、更識関係者じゃないですよ」
「そもそも更識所属のメンバーは全員専用機を持ってるじゃないですか」
「確かにそうですね」
一夏は所属メンバーのリストを頭の中で広げ、全員が専用機持ちであることを確認しナターシャに頷いて見せた。
「それに非専用機持ちの部で優勝したダリル・ケイシーだって、更識が監視下に置いているのですから、ある意味更識所属ですし」
「あの人を更識所属だというと、他の人が文句を言ってくるでしょうけどね」
「まぁ、あくまで監視されてるだけですからね」
なりたくてもなれない身分に、監視されるだけでなれるなら罪を犯す人が続出するだろうと一夏に言われ、ナターシャも納得してしまった。
「それに、一応ナターシャさんも更識が身柄を預かってるんですよ」
「まぁ、更識君に見捨てられたら私とこの子は引き離されてしまいますからね」
銀の福音を指差し、ナターシャは苦笑いを浮かべた。更識が預かるという理由で一緒にいられるのだと自覚しているナターシャとしては、今一夏に見捨てられるのは非常に困るのである。
「心配しなくても見捨てるつもりはありませんよ。更識だって戦力確保に必死なんですから」
「私一人抜けたからって、今更更識の地盤が揺らぐとは思えないのですが」
「一人を大事にしない組織に不信感を抱く人間がいるかもしれませんから」
「大変なんですね、大企業のトップって」
「大変なんてものじゃないですよ。凄い大変なんですから」
とても大変そうに思えない雰囲気でいう一夏であるが、彼がとても忙しい合間を縫ってこの場にいる事を知っているナターシャは一夏を労う事にした。
「ほんと、ご苦労様です」
「好き好んで忙しい思いをしてるわけじゃないんですが、だからといって人に任せて楽をしたいわけじゃないですからね。苦労は自分の所為だと割り切って頑張ります」
「もし手伝えることがあるなら言ってください。私だって少しくらいならお手伝い出来ると思いますから」
「ありがとうございます。ですが、その気持ちだけで十分ですよ」
ナターシャの申し出をやんわりと断り、一夏は織斑姉妹と紫陽花に絡まれている碧を見て苦笑いを浮かべたのだった。
真耶が凄い勢いで織斑姉妹に逆らってたな……