暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏は不参加……


打ち上げ 学生の部

 トーナメント終了を祝して、本音主催でお疲れ会が食堂で開かれた。参加者は優勝した美紀、準優勝の本音のほか、簪、鈴、静寐、香澄、マドカといった大会に参加したメンバーや、刀奈や虚といった参加していないメンバーも含まれているが、一夏はこの場に顔を出していない。

 

「本音、一夏君は呼ばなかったの?」

 

「いっちーは大会で取ったデータの整理と教師陣の打ち上げに連れていかれちゃったから」

 

「織斑姉妹か……そりゃ敵わないわね」

 

 

 好感度で言えばこちら側が圧倒的に勝っているが、戦力となれば向こうに分がある。織斑姉妹だけでなく、碧もいるので、更識所属が束になって挑んだところで相手にならないだろう。

 

「まぁ、碧さんがいるなら一夏さんも大丈夫でしょうし、たまには織斑姉妹にも一夏さんと触れ合う機会を与えても罰は当たらないでしょう」

 

「お兄ちゃんが向こうに行ってるなら、私も向こうにすればよかったかな」

 

「マナカもたまには私たち以外とも交流しなければいけないと兄さまに言われたじゃないですか」

 

「分かってるけどさ」

 

 

 一夏に言われたことをマドカにも言われ、マナカは不貞腐れたように頬を膨らませる。最近ではマドカがマナカを注意する光景もよく見られるようになってきたと、刀奈たちはほほえましい気持ちになっていた。

 

「それじゃあまず、美紀ちゃん、優勝おめでとー!」

 

「おめでとう、美紀ちゃん。決勝は兎も角、簪ちゃんとの熱戦は見応えあったわよ」

 

「美紀さんならこの結果は順当だと思われがちですが、簪お嬢様に公式戦で勝ったのは予想外でした。美紀さんの実力を疑うわけではありませんが、やはり簪お嬢様の方が有利だと思っていたので」

 

「虚さんの言いたい事は私も思ってますから。大勢の前で簪ちゃんに勝てるなんて思ってなかったので、本当に嬉しいです」

 

「おめでとう、美紀」

 

「うん、ありがとう簪ちゃん」

 

 

 素直に賞賛を送る簪に、美紀も感極まって抱き着いた。突然の抱擁に焦った簪ではあったが、すぐに簪も抱きしめ返し、互いに感極まって頬に涙が伝った。

 

「ライバル同士だものね。普段はペアだから戦う事は少ないけど、互いに負けたくない相手がいるっていうのはやっぱいいわよね」

 

「お嬢様はいらっしゃらないのですか?」

 

「私? そうね……虚ちゃんには負けたくないわね。殆ど虚ちゃんに勝てるものなんてないから、ISだけは絶対にって思う事があるわ」

 

「お嬢様は私に勝ってるものは多いと思いますがね」

 

「例えば?」

 

「料理の腕やその巨乳……一夏さんに甘えるのも上手ですし」

 

「虚ちゃんだって、少し勇気を出せば一夏君に甘えられると思うんだけどね」

 

「その少しが、私には難しいんですよ」

 

 

 一夏との関係でいえば、圧倒的に刀奈の方が親しく思われがちだが、仕事などで一緒にいる時間が多い分、虚の方が距離感的には近いものがある。だから刀奈は勇気を出せばいくらでも甘えられるのにと思っているのだ。

 

「鷹月さんも日下部さんも、実力者が多い中よく頑張ったわね」

 

「まさか本音に圧倒されるとは思ってなかったですが、これもいい経験です」

 

「入学時から考えたらすごい成長してると、一夏さんも言っていましたよ」

 

「それは私も思ってます。ギリギリで入学して、一学期赤点すれすれだった私が、大勢の専用機持ちの中に混じって大会に参加してるなんて、あの時からは考えられませんもの」

 

「一年生が多い大会だったけど、IS学園としては新しい戦力が育ってるって思えば良いのかしらね」

 

「二年生はあまり積極性が見られませんでしたし、三年生は基本的に就職が決まって落ち着いたところに大会なんて参加してられないという意見が多かったですからね」

 

「参加してた三年生に失格者が出たのは残念だけどね」

 

「一夏さんがマークしてた三人ですからね。しっかりと反省してもらい、更識傘下の企業で働いてもらうそうです」

 

「じゃあ、結果的に就職先が決まってよかったのかしらね」

 

 

 傘下とはいえ、更識企業に就職するのはかなり大変な事だと、内情を知っている刀奈と虚は重々承知しているので、こってり絞られるとはいえ結果オーライなのではないかという事で結論付けたのだった。

 

「これで残ってる問題は箒ちゃんだけね」

 

「報告を見る限りでは、素直に成長しているようですが、一夏さんが苦手意識を抱いているのは紛れもない事実ですからね」

 

「映像で見たけど、あれは驚くわよ」

 

 

 碧が撮った動画を見て、刀奈はこれが箒なのかと首を捻った記憶があるのだ。大天災が作った薬の影響とはいえ、あれは変わり過ぎではないかと思わされるほどの変貌を遂げているのだから仕方ないのかもしれない。

 

「箒ちゃんが復帰して、問題なく成長して更識の為に働いてくれれば、今までの苦労が報われるってものよね」

 

「苦労してきたのは一夏さんであって、お嬢様は大して苦労してないですよね」

 

「これでも苦労してきたんだけど? まぁ、一夏君や虚ちゃんと比べられることが多いから、私は大して働いてないみたいな印象を抱いてるかもしれないけど、私だってちゃんと働いてるんだから!」

 

「確かに働いてはいますが、サボってもいますよね?」

 

「さーて、私も美紀ちゃんを祝ってこなくっちゃね」

 

 

 形勢不利を感じ取り、刀奈はそそくさと美紀の許へ移動し、抱き合って泣いている簪と美紀の二人を称えるのだった。

 

『相変わらずですね、刀奈さんは』

 

「あれでも成長してるのですよ」

 

『知ってますよ、もう結構な付き合いなのですから』

 

 

 丙と会話しながら、虚は刀奈の成長も嬉しく思っていたのだった。昔から側付きとして成長してきた虚としては、刀奈がしっかりと成長してくれた事こそ、嬉しい出来事なのだ。




皆成長してるんだなぁ……

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