清香とさゆかが撃ち落され、いよいよティナは残る一人であるダリルと対峙する事となった。同じアメリカ代表候補生ではあったが、実力はかなりの差があり、話したこともあまりない。
「私は、貴女を倒す」
「威勢がいいわね。何か目的でもあるのかしら?」
「あるに決まってるでしょ! 貴女だって無関係じゃないんだから」
「どういう事よ」
面識はあったが関係はないティナに恨まれるようなことは、ダリルには思い当たらなかった。
「アメリカの今の状況、突き詰めれば亡国機業の所為なんでしょ! 元亡国機業の貴女だって関係してるんでしょ」
「あそこまで酷くなるなんてね……まぁアメリカの自業自得よ」
「それなのに貴女はさっさと更識に保護されて何不自由ない生活をしてる、恨まれてないとでも思ってるの」
「それで貴女は私の事を恨んでるの? そもそも更識君と面識があるんだから、何処かの候補生になれないか相談すればいいだけじゃない」
「私は、コネじゃくて実力を更識君に認めてもらってから紹介してもらいたい! 更識所属になりたいんじゃなく、どこかに移籍する手助けをしてもらいたいだけ」
「そんなこと言って、普通に頼まないのは何か裏があるからじゃないの? 例えば……候補生なのに専用機が無いのが気に入らない、とか?」
ダリルの指摘にティナは激昂し突撃を仕掛ける。もちろんダリルには当たることなく躱されてしまうが、それぐらいティナの気に障った発言だったのだ。
「別に専用機を持ってないことをコンプレックスだと思う候補生は少なくない。でも仕方ないでしょ? 実力者から割り振っていくんだし、コアの数にだって限りがあるんだから」
「限りがあると分かっているなら、何故アメリカのコアを未だに持っているんですか、貴女は!」
「だって、今返還しても回収されるだけだし、私とフォルテの専用機は更識君が何とかしてくれて無所属扱いなんだから、返す場所なんてないわよ」
「国を背負いたい、そう思うのが悪い事なの!?」
「別にそんな事言ってないわよ。背負いたいなら勝手に背負いなさいな。沈みゆくアメリカという国を背負いたいのならね」
ダリルの精神攻撃に、ティナは完全に嵌まってしまい、冷静な対応が出来なくなってきている。当たらないと分かっている特攻を仕掛けたら、いちいち声を荒げてダリルに反論したりと、こんな様子を見られているという事を失念しているとしか思えない言動が増えてきた。
「(同じ候補生でも、やっぱり精神的にショボいわね。更識所属と一緒にいる時間が長かったから、そこが基準になってるのかしら)」
一方でダリルは、ティナの精神的脆さを目の当たりにしてそんなことを考えていた。実際ティナの精神面は、普通の候補生の中では鍛えられている方だが、この学園には精神的に恐ろしい程頑丈な人間が多くいるので、その中に放り込まれたダリルとしては、ティナの精神面は脆いものとして認識されてしまったのである。
「てか、暴走されるとまた監視が付くかもしれないから、さっさと終わってちょうだい」
「ぐっ! わ、私は……」
『勝者、ダリル・ケイシー』
無情にも宣告された勝者の名に、ティナはガックリと膝をついた。SEもゼロにされ、心までも乱された完敗である、これでは一夏にどこかの国を紹介してもらえないと項垂れても仕方ないだろう。
「更識君なら、貴女の真の実力をちゃんと評価してくれると思うわよ」
「下手な慰めはいらないです」
「実はね、貴女の精神面を確かめる為にあのような挑発をしたのよ、更識君に言われてね」
「な、何でそんなことを……」
「国を背負うだけの実力があるのは知ってるから、後は精神面を見たいってさ」
人の悪い笑みを浮かべながら近づいてくるダリルに、ティナはそれが本当かどうか疑ってしまう。
「じゃあ、さっきの言葉は更識君から言えと言われたの?」
「半分以上は私の気持ちだけど、精神をぐらつかせるようなことを言ってほしいと言われたのは本当だから。後で更識君に確認してもらっても構わないから」
「それで、結果は……」
「私には分からないわよ、そんなの。それこそ更識君に聞いてちょうだい」
ひらひらと手を振って去っていくダリルと入れ替わるように、マドカとマナカがティナの許へやってきた。
「お疲れ様でした。汗を流し着替え終えたら兄さまの部屋へお越しください」
「貴女たち……」
「私とマドカはお兄ちゃんに頼まれて、貴女が錯乱してないかどうかの確認も兼ねてここに来た。とりあえずは合格じゃない?」
「合格……ということは?」
「どこかの国の候補生として、兄さまが推薦してくださるという事です。希望があったりしますか?」
「候補生としてやっていけるならどこでも!」
「なら、そう伝えておきましょう」
携帯を取り出しどこかに連絡するマドカを見て、いよいよ候補生として再スタートが切れるのかもしれないとティナは喜び、さっきまで抱いていたダリルへの嫉妬や殺意などもすっかりなくなっていた。
「候補生ってそんなに良いものなの?」
「私には分かりませんよ。私はあくまでも、篠ノ之束博士のテストパイロットなんだから」
「私も良く分からない立場だし、他の人に聞いた方が良いか」
候補生の価値がイマイチ分かっていないマドカとマナカは、後で簪か美紀に聞いてみようと思ったのだった。
使えるものは何でも使う一夏