暗部の一夏君   作:猫林13世

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更新忘れてました……


決着 専用機持ちの部

 自分の残りSE量を見て、本音は小さく息を吐いた。

 

「やっぱり美紀ちゃんや簪ちゃん相手だと、私が本気を出しても厳しいね」

 

『諦めるのですか? 例え全制覇しているとはいえ、デザートのタダ券は本音にとって嬉しいものではありませんか?』

 

「そうなんだけどさ……こっちの残りSEは三割を切ってるのに、美紀ちゃんは半分以上残ってるんだよ? 私だって簡単に負けるつもりはこれっぽちもないけども、美紀ちゃん相手にここから挽回出来ると思えるほど自分の実力を過信してないし、自惚れてもいない」

 

『貴女のそういうところは私は好きですが、負けるにしてもせめてもう少し頑張ってください。ここまで必死になって戦ってきたのですから』

 

「分かってるって。これだけ必死になって戦ったのは何時ぶりだろうね……」

 

『貴女は普段だらけていますから、私も曖昧にしか覚えていませんよ』

 

 

 入学前に更識で行った模擬戦以来ではないかと土竜は思ったが、箒が一夏を襲ってきた時の本音は結構本気だったと思い直し、それ以来ではないかと本音に告げる。

 

「うーん……でも、シノノン相手の時は、今ほど熱くなってなかったし、ここまで苦戦もしなかったしなぁ……やっぱり更識でやった模擬戦以来かな」

 

『ならもう少し真面目に戦う機会を増やしたらどうでしょう? IS学園でだって訓練は積んでいるのですから、もっと本気になって真面目になって、一夏さんに褒められる機会を増やすべきだと思いますがね』

 

「いっちーは褒めてくれるよ? でも、本気で相手をして未来あるIS操縦者の自信を喪失させちゃったら悪いしさ……現にリンリンには次は絶対に負けないとか言われちゃったし」

 

『ライバルの誕生じゃないですか』

 

「面倒な事は好きじゃないんだよね」

 

『貴女という人は……』

 

 

 何処まで行っても本音は本音であると理解させられた土竜は、盛大にため息を吐いたのだった。

 

「さてと、何時までも距離を保てるわけじゃないし、いい加減覚悟を決めて突撃するよ」

 

『分かってます。それにしても、貴女が近接戦を選ぶとは意外でした。完全に美紀さんの間合いで戦うなんて、どういう心境の変化ですか?』

 

「遠距離からパンパンやってるのに飽きちゃったんだよね」

 

『………』

 

 

 ちょっと感動してしまった自分が恥ずかしいと、土竜はもう一度ため息を吐く。本音は土竜がため息を吐いている理由が分からなかったが、今はそんなことを気にしてられる余裕はない。既に美紀の間合いに入り込んだので、ここから先はちょっとの油断が命取りになりかねないのだ。

 

「美紀ちゃん、悪いけどもう少し付き合ってね!」

 

「本音がここまで本気を出してくるなんて思ってなかった。もう少しだらけるかと思ってたのに、予想を外してしまいましたね」

 

「私だってやる時はやるんだよ。まぁ、もう勝てないとは分かってるんだけどさ」

 

「だったら、早いところ負けてくれない? そうすれば本音もゆっくり出来るでしょうし」

 

「だって、負けたら勉強しなきゃいけなくなるでしょ? だからもう少し戦って、疲れ果てて今日は勉強無しにしたいし」

 

「勉強したくないのは分かりますけど、私も本音も勉強しないと期末試験厳しいんですよ?」

 

 

 美紀は理解するのに時間がかかるだけだが、本音の場合は本気で危ないのだ。同じく香澄やマドカ、エイミィなども試験への不安から一夏に泣きついてきているので、この大会が終われば試験までみっちり勉強しなければならないのである。

 

「マナマナは義務教育を受けてなかったから仕方ないっていっちーが言ってたけど、もう平均くらいの知識を吸収しちゃってるしね」

 

「マナカさんは元々が優秀ですから、少し教わればすぐに理解出来るのでしょう」

 

「いっちーの妹さんだしね」

 

 

 その理論で行けば、マドカもすぐに理解出来てしかるべきだと思うのだが、偉大なる姉二人と天才的な頭脳を持つ兄と妹の所為で、マナカは平均的な能力でも残念がられるのである。だがマドカのいいところは、比べられても腐ることなく必死になって努力するとこであり、一夏もそこを評価していたりするのだ。

 

「とりあえず、私は赤点を取って補習になり、冬休み一夏さんと過ごせなくなるのは嫌なので、早いところ終わらせますからね!」

 

「いっちーと過ごせないのは嫌だな……でも、簡単に負けたら手抜きだと思われるから、もうちょっと悪足掻きさせてもらうからね!」

 

 

 解説に刀奈と虚と簪、審判には織斑姉妹と碧がいるのだ、手を抜いたらすぐにバレるに決まっているし、下手をすれば制裁を喰らわせられる可能性だってある。本音は負けるにしても手抜きは出来ないし、かといってここから遠距離に切り替えるだけの気力は無い。

 

「怒られない程度に頑張りつつ、不自然さを感じさせないように負ける!」

 

「カッコいい事言ってるようでカッコ悪いよ、それ」

 

「別にカッコつけてるわけじゃないよ。織斑姉妹に怒られるのは嫌だし、いっちーやおね~ちゃんに怒られるのも嫌だからね」

 

 

 美紀の攻撃を捌きつつも、やはりSEの残量差は大きかったのか、本音は十分抵抗したがやはり負けてしまった。だが観客からは盛大な拍手を送られ、織斑姉妹も特に何も言って来ることは無く、解説席では刀奈たちが頷いて手を振っていた。

 

「どうやら、上手く負けられたみたいだね」

 

「次は負けないからね」

 

 

 意外な事に負けたことが悔しいと感じた本音は、そんな事を言いながら美紀へ手を差し出し、美紀もそれに応じて握手をする。この結果、専用機持ちの部は美紀が優勝で幕を下ろしたのだった。




やったつもりだったんだけどな……

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