暗部の一夏君   作:猫林13世

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互いに実力を認め合ってる同士の戦い


美紀VS本音

 アリーナに出ただけで、観客は一気に盛り上がったが、美紀と本音は特に気にした様子もなく対峙していた。

 

「こうして本音と向き合うのって何時ぶりだっけ?」

 

「まだ高校に入る前だったと思うけどな。美紀ちゃんは最近VTSか合宿所で訓練してるし、私は戦力の底上げで他の人と訓練してるし」

 

「一夏さんの指示とは言え、本音に底上げが出来るのかと思ったけど、確かにみんな強くなってた」

 

「私もダメージを受けちゃったもん」

 

「かすり傷でしょ?」

 

 

 試合前だというのに、美紀も本音も非常に落ち着いた気持ちで会話をしている。相手の事を良く知ってるからこそ、緊張しないのかもしれない。

 

「一夏さんは向こうの決勝の解説だけど、刀奈お姉ちゃんと虚さん、そして簪ちゃんの前で無様に負けるわけにはいかないの」

 

「それは私だってそうだよ。これでもいっちーの護衛としての威厳があるし、あまりのんびりしてるだけって思われるのもね」

 

「だったら、普段の生活を改めればいいじゃないの。そうすれば評価なんてあっという間に変わるわよ」

 

「それは無理だよ。だって、せっかくのんびり出来るのに何で忙しい思いをしなきゃいけないのさ」

 

「そんなこと思ってるから、他の人からのんびりしてるだけの無能護衛だとか思われるんだよ」

 

「そこまでは言われてないもん!」

 

 

 あえて本音を挑発するような発言をした美紀だが、これは狙い通りである。一度本気の本音と戦ってみたい、どっちが強いのかはっきりさせたいという思いが彼女の中にはずっとあったのだ。

 

「来週には代表に決まってるだろう美紀ちゃんを相手にするのはつらいけど、私が無能じゃないって事を証明する為にも本気で行くからね」

 

「望むところよ。まぐれで勝ち上がってきたわけじゃないって事は分かってるけど、本音は野生の勘に頼る癖があるから、本当に実力かどうか分からないのよね」

 

「あれだって立派な実力だよ」

 

 

 互いに苦笑いを浮かべ、開始の合図を待つ。刀奈たちに自分たちの会話は聞こえていないはずだが、会話の途中で合図が出るなどという事は無かったのを考えると、読唇術でも使ったのではないかと思いたくなる。だだ、読唇術が使える碧はアリーナの隅に控えているし、一夏はもう一つのアリーナで解説をしている。

 

「つまり、私たちが話すだろうって事を分かってたわけだ」

 

「付き合い長いしね」

 

 

 もう一度苦笑いを浮かべ合い、今度こそ合図に備え真剣な眼差しで相手を睨みつける。会話が終わったのを見計らったように、開始の合図が鳴り響き、美紀と本音はいきなり交錯したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開始の合図を出した後、本当なら観客の為に解説をしなければいけないのだが、刀奈も虚も簪も、マイクの電源を入れる事無く会話していた。

 

「世間の誰もが認める実力者の美紀ちゃんと、更識内しか実力者と思われていない本音の戦いか……」

 

「美紀さんはたくさん努力してきましたが、本音は遊び半分ですからね……」

 

「ある意味で天才だからね、本音は……」

 

 

 ずっと見てきたからこそ分かる、美紀と本音との差。美紀は努力に努力を重ね今の地位を勝ち取った秀才だが、本音は遊び半分でも実力がある天才だ。本音自身がそれを理解しているかは怪しいが、刀奈たちから見ても本音の実力は羨ましいものがある。もし本音にやる気があったら、もしかしたら自分の地位は本音のものだったかもしれないと思うくらいに。

 

「一夏君が本音を護衛に指名したとき、何で本音なんだろうって思ったけど、きっと見抜いてたのね」

 

「一夏ならありえそうだけど、ただ単にだらだらしてるだけの本音をしっかりさせようとしたのかもしれないよ」

 

「ですが、あの子は結局だらだらするだけでしたけどね」

 

 

 護衛に任命されたからといって、本音の生活習慣は変わることなく、むしろISを手に入れてから余計にだらだらしてるようにすら思えた。それもそのはずで、仕事があるはずなのに働いていないのだから、だらけている印象が強まってしまうのも仕方なかっただろう。

 

「VTSでは自分の機体を使わずに遊んでいましたし」

 

「でも実力は順調に伸ばしてたんですよね」

 

「一夏君が逐一土竜に反映させてたからでしょうけども、ISのスキルの伸びは本音が一番だったものね」

 

 

 目の前で繰り広げられる幼馴染二人の闘いを見ながら、三人は思い出話を繰り広げていく。実績から言えば間違いなく美紀が勝つであろうこの試合だが、本気の本音がどこまで出来るのか、付き合いの長い三人でも――虚に関していえば姉だが、見当がつかないのだ。

 

「一夏君が何に期待して本音に専用機を持たせたのか、後で聞いてみようかしら」

 

「一夏も特に何も考えてなかったかもよ? だって本音を護衛に指名しても、出かける時に本音に声をかけないことが多かったし」

 

「尊さんに行き先は伝えていたようですがね。もし本音に聞かれたら教えてほしいと」

 

「まぁ、一夏君も安全だって分かってるからこそ本音を連れて行かなかったんでしょうけどもね」

 

「友達と遊ぶだけだって、一夏の周りにはどんな危険があるか分からなかったのに?」

 

「表立っての護衛は本音だったけども、更識の人間は常に一夏君についていたもの」

 

「あの時はまだISもそこまで普及してませんでしたし、亡国機業も大人しかったですからね」

 

 

 しみじみと過去を思い出しながら、意外に善戦している本音を眺めながら当時の事を思い出し、何故か腹立たしい思いをした三人であった。




本音は実力者には見えませんがね……

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