暗部の一夏君   作:猫林13世

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色々と考えていますね……


ティナの思惑

 三人失格となった為、さゆかは真っ向勝負を挑み辛くも勝利したのだった。ピットに戻ると、決勝で戦う清香とティナが勝利を称えてくれた。

 

「お疲れ様。真っ向勝負で良く勝てたね」

 

「いきなり二人だけって発表されたから何があったかと思ったけど、就職先が見つからない三年生の嫉妬だったのね」

 

「それも更識君がお見通しだったみたいで、小鳥遊先生が助けてくれたんだけどね」

 

「これで決勝進出の四人の内、三人が一年生だね」

 

「ティナは候補生だから当然だけど、私と清香は入学当時から考えると快挙だね」

 

 

 同じクラスに一夏をはじめとする実力者がいるので、一組の指導は他のクラスと比べても質が高い。織斑姉妹が指導する事もあるが、基本的には専用機持ちを中心としたグループで、専用機持ちに指導してもらう事が多いのも原因の一つではあるが、やはり一番は一夏にいいところを見せたいという乙女心だろう。

 

「でも、決勝で一番厄介なのはダリル先輩よね……」

 

「元アメリカ代表候補生、元亡国機業の一員、そして三年生……実績が私たちとは違うもの」

 

「更識君も要注意と判断するほどの実力者だものね。同じ候補生としてもレベルの違いは実感してたわ」

 

 

 同じくアメリカの候補生であるティナは、観客席で今の一戦をのんきに眺めていたダリルの顔を思い出し苦々し気に呟いた。

 

「次期代表の呼び声も高かったのに、あの人はそんなことに興味なさそうだったけど」

 

「専用機だけが欲しかったみたいだしね。それに、代表よりも亡国機業としての活動の方が主だったらしいし」

 

「今回は専用機の申請が下りなかっただけで、実力的にはこっちの部の誰よりも高い人だもんね……フォルテ先輩が参加してたら、私たちの誰かは負けてたでしょうけども」

 

「私はこの大会で活躍して、更識君を通してどこかの国に拾ってもらわないと……このままじゃ沈む船から逃げ出せない」

 

 

 既にアメリカにはコアが無く、更識に喧嘩を売っている最中で経済的にも厳しい状況なのだ。そんな国の候補生などやってられないと、ティナ以外は自力で亡命したりしているのだが、IS学園にいるせいでティナはなかなか移籍出来ないのだ。

 

「IS学園所属って、思ってたより不利なのよね……」

 

「他が強すぎて、ティナの実力じゃ引き受けてもらえないの?」

 

「それもあるけど、篠ノ之さんの悪評が邪魔してるってのもあるかしらね……噂では生まれ変わったとか聞いたけど、勘弁してもらいたいわよ」

 

「まぁ、決勝まで進んだんだし、後で更識君に話でもしてみたら? 上手く行けば更識所属になれるかもしれないわよ」

 

「そうなれば最高なんだけどね……でも、更識所属になったところで、国家代表は難しいわよね……まぁ就職出来たも同然だからいいんだけど」

 

 

 この試合後の自分の運命はどうなっているのかと、ティナは様々な思考を巡らせ、全てが上手く行けばいいと祈ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝の相手が本音に決まり、美紀は精神統一を止め本音の闘い方を思い出していた。

 

『簪に勝ったんだから、本音に負けることは無いよね?』

 

「本音も実力者、しかも一夏さんが造った専用機を持ってる。油断は出来ないし、絶対に負けないなんて言い切れる相手じゃないことは金九尾だって知ってるでしょ」

 

『まぁね。一夏お兄ちゃんが本音の為にどこまでも冷静に作られた土竜は、的確に本音に指示を出せる。そして本音も驚異的な野生の勘で久延毘古の未来予知すら覆すからね』

 

「普通ならそんなことありえないんでしょうけども、本音の実力は底が見えないからね」

 

 

 同じ更識所属として、幼馴染として本音の事を良く知っているからこそ、美紀は油断など一切しない。普段のだらしのなさに騙されがちだが、本音はまごう事なき実力者、相性さえ良ければ簪のパートナーは彼女だったかもしれないのだ。

 

『本音は基本的に遠距離でも近距離でも出来るけど、やる気がなかったからね』

 

「VTSで誰の専用機でも巧みに使いこなす器用さも見せてたから、もしかしたら刀奈お姉ちゃんよりも強いのかもしれない」

 

『それは言い過ぎじゃないかな? 一夏お兄ちゃんだって、そこまで強いって見抜いてたらあそこまでだらだらさせないと思うけど』

 

「確かに一夏さんの人を見る目は、私なんかとは比べ物にならないけど、実力があるからあえてだらだらさせているという事もあると思う。相手を油断させるには、能無しだと思わせておく方が有利だし」

 

『気にし過ぎだと思うけどね。だって、頭脳は美紀よりも悪いんだし、見た目通りの実力だと思うけど』

 

「頭の事は言わないでよ……」

 

 

 この大会が終われば定期試験が待っている。美紀にとって実技は問題ないが、座学の方は赤点すれすれ、下手をすれば赤点になり得る成績なのだ。

 

『候補生の補正があるから一学期は平気だったんだっけ?』

 

「補正が無くても大丈夫だった! でも、一夏さんに散々迷惑かけたけど……」

 

『一夏お兄ちゃん、テスト中に不正出来ないようにって、ISとの会話を禁止してたからね』

 

「そんなことをするのは本音くらいだと思うけど、一夏さんに頼まれたらISは断らないんでしょ?」

 

『当然! 生みの親だしね』

 

「とにかく、今は勉強の事は忘れて、本音との試合に集中しなきゃ」

 

『学生の本分は勉強なんでしょ? 忘れて良いの?』

 

 

 金九尾のツッコミには反応せず、美紀は刻一刻と迫る本音との試合に集中するのだった。




IS学園に置いての本分は一般教科より操縦技術の向上でしょうけどね

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