暗部の一夏君   作:猫林13世

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彼は大人びてますからね


同い年

 非専用機持ちの部で問題が発生したと報告を受けた一夏は、小さくため息を吐いて調整を続けることにした。

 

「一夏の予想通りだったね」

 

「こんな予想、出来る事なら外れてほしかったものだがな」

 

「でも、内定がもらえないのを人のせいにするのは良くないよね」

 

「簪にその気持ちが分かるとは思わないが」

 

 

 既に候補生としての地位を確立しており、来週にでも代表に昇格するのではと言われている簪に、内定をもらえない人の気持ちは分からないだろうと一夏は指摘する。

 

「一夏にだって分からないでしょ? そもそも一夏は、内定を出す方なんだから」

 

「人事には口を挿んでないぞ」

 

「でも、一夏が認めたから更識所属は大分増えたじゃない? あれも人事じゃないの?」

 

「戦力アップは政府から頼まれた事だが、日本所属にして更識のコアを解析されるなんて事態になったら面倒だから更識所属にしただけだ。尊さんにも報告はしてる」

 

「まぁ、ご当主様がやるって言ったのをとやかく言える人はいないからね」

 

 

 箒の件で力押しをしたため、既に一夏が更識の当主であると知られてしまったので特に周りを気にせず話す簪と一夏。実際一夏が当主であると知られても、更識の信頼は落ちる事無く、むしろアメリカの不正を暴いた事でさらに上がっているのだ。

 

「来年から一夏は『楯無』を名乗るの?」

 

「バレてしまった以上、そうなるだろうな。まぁ、気にせず一夏って呼んで構わないから」

 

「私たちは当然そう呼ぶけど、一応従者である虚さんと本音、碧さんはマズいんじゃないかな?」

 

「公の場ではさすがにマズいだろうが、プライベートの時まで気にすることは無いだろ」

 

「まぁ、一夏のお嫁さんになっちゃえば、誰も文句は言えないだろうしね」

 

「言っておくが、重婚は出来ても俺はまだ十八になってないからな? そこは守らないと駄目だろ」

 

「そうだったね……一夏って大人びてるからつい同い年だって事を忘れちゃうんだよね」

 

「あのな……」

 

 

 年相応に見られないのは一夏も自覚しているが、同い年で家族である簪にまでそう言われると、さすがに心にダメージを負ってしまう。

 

「い、一夏? 何だか暗くなってない?」

 

「そりゃ、簪の同い年だって事を忘れられてるって言われて、ショックを受けないわけないだろ……」

 

「ごめんなさい……でも、本音だって同い年だって事を忘れる事があるし、一夏だけじゃないんだよ?」

 

「あれは幼過ぎてだろ? 俺はそうじゃないし……」

 

「だからゴメンってば!」

 

 

 簪が本気で焦り始めたので、一夏は凹んでいるような雰囲気を無理に明るく変えて簪を宥めた。

 

「そこまで気にしてないから、簪も気にするな」

 

「でも、一夏無理してる……」

 

「まぁ、無理してないと言えば嘘になるが、簪がそこまで落ち込むとは俺も思ってなかったから……悪かった」

 

「何で一夏が謝るの? 悪いのは私なのに……」

 

 

 今度は簪が本気で凹み始めたので、一夏はどうしたものかと腕組みをし、ぎゅっと簪を抱きしめた。

 

「年相応に見られないのは俺も分かってるから。簪がそこまで気にすることは無いんだ」

 

「ゴメン……でも、一夏の家族として自覚が足りなかったのは私が悪いから。そこはごめんなさい」

 

「俺も気にし過ぎたな、悪かった」

 

「一夏、あったかい……」

 

「ん?」

 

 

 安心しきったのか、簪から力が抜け寝息が聞こえてきた。

 

「忙しかったからな。四人の専用機を調整して、その前には美紀と激闘を繰り広げてたんだから」

 

「そんなこと言うなら、一夏さんだって調整と解説、そして妹の相手と忙しいじゃないですか」

 

「お前はまた……」

 

 

 不意に人の姿になり話しかけてきた闇鴉に、一夏は小言でも言おうかと思ったが無意味だと思い直しため息を吐くだけにとどめた。

 

「簪さんは私が部屋までお送りしておきますので、一夏さんは最終調整をしちゃってください」

 

「別に仮眠ならそこで出来るだろ。布団だってあるんだし」

 

「一夏さんが使ってる布団に簪さんを寝かせるのは私が面白くないので」

 

「ISも嫉妬するのか」

 

「当然ですよ! 一夏さんがお造りになった専用機にはそれぞれ自我がありますし、感情だって人並みにあるんですから」

 

「まぁ知ってるが、嫉妬の感情は初めて見たかもしれん」

 

「普段は思ってるだけで表に出しませんから。てか、一夏さんが気にしてないだけで、結構嫉妬してるんですが」

 

「そうなのか」

 

「だって一夏さん、美紀さんにばっかり甘えるですもの!」

 

 

 幼児退行を起こしたり、体調がすぐれない時にそばにいる事が多いだけだが、他の相手からしてみれば美紀の事は羨ましいのだろうと一夏は思ったのだった。

 

「たまには他の人に甘えたりするのもいいと思いますよ? 例えば私とか」

 

「お前は人じゃないだろ?」

 

「そこらへんは気にしたら駄目です」

 

 

 簪を背負い整備室から出て行った闇鴉を見て、一夏は確かに人っぽいと思ったのだった。

 

「さてと、本音も美紀相手に何処まで出来るか楽しみだな」

 

『一夏さん的にはどっちに勝ってほしいのですか?』

 

「まぁ、実力的に考えて美紀が勝つだろうが、本音も実力者に勝てればやる気になってくれるかもしれないし」

 

『本音は誰に勝ってもやる気にはならないと思いますけどね』

 

「君がそう言うなら、きっとそうなんだろうけどな……」

 

 

 闇鴉がいなくなったことで、土竜が話しかけてきたが、一夏は普通に受け答えをして、苦笑いを浮かべながら調整を再開したのだった。




またしても簪が役得に

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