暗部の一夏君   作:猫林13世

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400話以上やって、モブをここまで多様したのは初めてかもしれません……


モブの嫉妬

 専用機持ちの部決勝は美紀VS本音に決まり、非専用機持ちの部は既にティナ、ダリル、清香の三人が勝ち抜け、残る一枠を争う第四回戦が行われている。そしてこの第四回戦で注目されているのは、一年一組の夜竹さゆかである。

 彼女は目立った特徴はない代わりに、欠点もないという一夏から専用機に近いと称される人物である。

 

「頑張ってね、さゆか」

 

「清香は勝ち抜いたからとりあえず気が楽でしょうけど、私はこれからだもん……緊張してくるよ」

 

「更識君が見てないだけマシでしょ。私なんてバッチリ見られてたんだから」

 

 

 現在一夏は、専用機の調整を行っているため解説席にはいない。一夏の代わりに刀奈と虚が座っており、元からいた織斑姉妹(妹双子)もしっかりと座っている。

 

「いっそのこと更識君に見られてた方が、てんぱり過ぎて落ち着けたかもしれないわよ」

 

「言ってる事が微妙に良く分からないけど、とりあえず頑張ってね。決勝で待ってるわ」

 

 

 清香に背中を押され、さゆかは覚悟を決め――ようとして自分を見てる周りの視線に気づき萎縮してしまった。幸か不幸か、対戦相手に目立った強者はいなかったが、自分以外全員三年生というなんともやりにくいグループになってしまったのだ。

 

「あの子確か、更識君と同じクラスの子よね」

 

「いいわね、労せず更識君とお近づきになれるんだから」

 

「ただクラスメイトってだけでコネを持てるなんて羨ましいわ」

 

 

 どうやら対戦相手の内三人はまだ内定をもらっていないようで、一夏と付き合いがあるさゆかを妬んでいる様子だった。残るもう一人は、自分の世界に入り込み試合まで集中力を高めているようで、こちらの様子には気づいていなかった。

 

「(私だって好きで更識君と同じクラスになったわけじゃないのに……そもそも内定を貰えないのは、貴女たちに問題があるからじゃないの)」

 

 

 心の中でそう思っても、さゆかはそれを口にすることはしない。ここで騒ぎを起こせば審判の真耶と紫陽花が飛んできて、すぐに没収試合にされてしまうだろう。そうするとさゆか自身にも被害が及ぶので、文句を言いたい気持ちを抑え込み、僻みをってくる三年生を無視し続ける。

 

「聞こえてるんでしょ、このブス」

 

「アンタなんか更識君になんとも思われてないわよ」

 

「就職先に困っても助けてくれないわよ」

 

「………」

 

 

 嫉妬もここまでくると醜いものだと思ったが、その嫉妬の矛先が自分で無ければ気にしなかっただろう。だが罵詈雑言を向けられているのは紛れもなく自分で、聞くに堪えない言葉をずっと聞かされて大人しくしていられるほど、さゆかは強くなかった。

 

「あの――!」

 

「貴女たち、失格」

 

「なっ、小鳥遊先生!?」

 

「一夏さんの想像通りでしたね……そんな風だから、貴女たちは大企業に内定をもらえないのよ。心を入れ替えるか、中小企業に狙いを変えて活動するのね。更識の傘下で良いなら紹介出来るかもしれないけど、どうする?」

 

「「「………」」」

 

「とにかく貴女たち三人は今から職員室で反省文を書いてもらいます。監視には織斑姉妹をつけて良いと一夏さんから許可ももらっていますので、そのつもりで」

 

 

 嫉妬に狂った所為で大変な目に遭ったと、三人は後悔し改心して就活を頑張ったのだが、それはまた別の話。さゆかはタイミングよく現れた碧に驚きながらも、助けてもらったお礼を言うのだった。

 

「あ、ありがとうございました」

 

「お礼は一夏さんに言ってください。組み合わせ表を見て、もしかしたらあり得るかもと気にしていたのは一夏さんですから」

 

「更識君って、IS無しでも未来視が出来るんですか?」

 

「一夏さんのは未来視というより様々な可能性を考え、最悪を避けれるように行動してるだけですから」

 

「最悪を避ける……つまり、小鳥遊先生がここにいるのも、最悪の状況を回避する為だったのですか?」

 

「そうね。一夏さんが考えた最悪は、貴女とあの三人が喧嘩を起こして没収試合になること。そのせいで巻き込まれた彼女の内定が取り消されることね」

 

「あの先輩は何もしていないのに、ですか?」

 

「止めなかったという事で同罪に見られる可能性もあるからね……どこの企業も、更識に対抗しようと優秀な人材を求めてるの。何もしなかったとはいえ没収試合に関わっていた人物を手元に置きたいかどうかは、少し考えればわかるでしょうしね」

 

 

 碧の言葉に、さゆかは少し疑問を抱きながらもだいたいは理解出来た。だがその結果次の試合は彼女との一騎打ちになり、学年の差が大きく立ちふさがる展開になってしまったと漸く気づいたのだった。

 

「一対一で勝てるでしょうか……」

 

「大丈夫じゃない? 夜竹さんは更識所属相手に訓練を積んでいるし、織斑姉妹のしごきにも耐えてきたんだから」

 

「あれは更識君がカリキュラムの一部を変更してくれたからですよ……あのまんまでしたら、きっと途中で倒れていました」

 

「あれね、一夏さんのが本来の内容で、織斑姉妹のカリキュラムの方が異常なのよ。だから一夏さんの方のカリキュラムをクリア出来たのなら、平均以上って事だから自信持ちなさい」

 

 

 碧にそう言われ、さゆかは少しだが自信を持つ事が出来た。例え負けたとしても、自分はまだ一年、三年生に負けて当然だという気持ちに切り替える事が出来たのだった。

 

「ありがとうございました」

 

「お礼は勝ってからでいいわよ」

 

 

 もう一度背中を押され、さゆかは貪欲に勝ちを求める事にしたのだった。




まぁ、何処の世界にも嫉妬はありますが……醜いですね

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