暗部の一夏君   作:猫林13世

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まさかの相手に諭されて……


逃げ出すように

 自分の護衛に選ばれた本音の為に、一夏は研究所に篭りISの製造に勤しんでいた。周りの人間からは休むようにと言われているが、一夏は一心不乱にISの製造に取り組んでいる。まるで、何かから逃げるように。何かを考えないようにと……

 

『一夏さん、頑張りすぎですよ』

 

「そうだね……確かに俺は頑張り過ぎてる。だが、少しでも早く君を完成させなければならないからな」

 

 

 本音の為に製造しているIS『土竜(どりゅう)』に話しかけられ、一夏は苦笑いを浮かべながらもその手を止めようとはしなかった。

 

『まぁ、私としては早く一夏さんの役に立てるのなら嬉しいですが、その所為で一夏さんが倒れたりされたら大変です』

 

「大丈夫。俺はそんなにやわじゃない」

 

『ですが……』

 

「君が何を心配してるのか、俺には何となく分かる。だが、それは今考えても仕方ない事だからな」

 

 

 土竜の言葉を遮り、一夏は武装データを呼び出した。本音の希望は遠距離からエネルギーを削り、ある程度削れたら一撃で残りを持っていける武装を持ったIS――面倒くさがりな本音らしい希望だった。

 

『そのデータは?』

 

「モンド・グロッソで織斑姉妹が使ってた『暮桜』と『明椛』のデータ。日本政府から拝借した」

 

『……ハッキングですか?』

 

「いや、正式に貰いうけたデータだから気にするな」

 

 

 訓練機向上の為、とそれらしい理由をでっち上げてもらったデータなのだが、一夏の言うように正式に日本政府から更識家が貰いうけたデータなので問題は無い。もちろん、訓練機にこのデータが役立てられる事は無いのだが……

 

「零落白夜か……これは単一仕様能力だしな……」

 

『まさか、組み込むつもりですか?』

 

「さすがに単一仕様能力を常時使える様には……まぁ可能性はゼロじゃないが」

 

『いえいえ、さすがにそれはやり過ぎですよ』

 

 

 土竜にツッコミを入れられ、一夏は思考を一旦中断して再びデータを呼び起こす。

 

「じゃあこっちの椛落としは使えるか?」

 

『これも単一仕様ですか?』

 

「いや、これは織斑千夏さんが独自に考えた技だろう。ハンドガンのようだが、マシンガン以上の速さで連射してるからな……本音には無理か」

 

『普通にマシンガンを使えば良いのでは?』

 

「それだと連射を警戒されるからじゃないのか? まぁ、一度使えば覚えられるだろうから、結局は警戒されるんだろうが」

 

 

 そもそも織斑千夏以外にこの技を使えそうな人間に、一夏は心当たりが無かった。瞬間加速しながらハンドガンを連射するなど、余程Gに対する抵抗が無ければ一瞬でブラックアウトだ、それは織斑千冬の戦い方にも言えることだが。

 

『ライフルの精度を上げるとかではダメなんですか?』

 

「ある程度距離を保ち、ある程度射撃の腕があればそれで削れるんだが……本音はどっちも中途半端だからな」

 

 

 本来であれば、一夏の護衛には本音では無く美紀が選ばれるはずだった。だが、表向きには当主となっている尊の娘を、一夏の護衛に付けたら探られたくない腹を探られる恐れがあると一夏自身が尊に伝えたのだ。今更美紀に変更する事は出来ない。

 

『とにかく、一夏さんは根を詰め過ぎです。少し休めばアイディアが浮かぶかもしれませんよ』

 

「……そうだな。じゃあ別の事でもするか」

 

『はい……別の事?』

 

 

 休んでくれるのかと思った一夏だったが、土竜の開発を一時中断しただけで別の作業を始めた。

 

『あの……今度は何を?』

 

「木霊のバージョンアップの為の作業と、その他諸々のデータ整理をと思って……」

 

『休みなさい! これは全てのISを代表しての言葉ですから、その木霊の意思でもあるんですからね!』

 

「別に三日寝て無いくらい……」

 

『それでけじゃないでしょ! ご当主様がお亡くなりになってから、一夏さんは泣いてませんよね?』

 

「………」

 

 

 本当は三徹するつもりは一夏にも無かった。事情が事情なので誰も一夏を注意する事もしなかった――出来なかったが、一夏は頭脳は人並み外れたものを持っているが、体力は平均より若干上というだけで、二徹目で相当辛いはずなのだ。それでも一夏が開発に没頭したのは、楯無の死を受け入れる事から逃げ出しているように土竜には感じていたのだった。

 

「何故、その事をお前が知っている?」

 

『一夏さんは、「コアネットワーク」というものを知っていますか?』

 

「ISのコア同士は、そのネットワークを介して情報を共有しているというあれか……つまり、木霊や蛟、丙から聞いたという事か」

 

『ISもですが、その所有者である三人……いえ、それ以外の人も貴方の事を心配してるのです。誰かに甘え、そして吐きだしてからでも遅くは無いですよ』

 

「……まさかISに諭されるとはな」

 

 

 一夏は素直に研究所から外に出て、こんな時に一番頼れそうな相手の部屋を訪れた。

 

「はい? ……一夏さん、大丈夫なんですか?」

 

「スミマセン、虚さん。こんな時間に」

 

「いえ、まだ起きてましたから……それより、どうしたんですか」

 

「いや、ちょっと甘えさせてもらおうと……」

 

「はい?」

 

 

 一夏が何を言ったのか理解出来なかった虚だったが、次の瞬間、自分の胸に顔を押し付けた一夏の行動で、何をしたいのか理解したのだった。

 

「ゴメンなさい……今だけは……」

 

「分かりました。お嬢様や私だけ泣かせてもらっておいて、一夏さんはまだ泣いて無かったんですものね……」

 

 

 少なからず想っている相手が自分の胸に顔を埋めているのだが、虚には邪な気持ちは一切芽生えなかったし、一夏にもそんなつもりは無かった。大人びているとはいえ小六に進級したばかりの男の子を、ただただ抱きしめていたのだった。




本音の専用機という事でしっかり者の設定にしたので、一夏も素直に聞き入れました。

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