暗部の一夏君   作:猫林13世

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本音のお姉さんみたいだ……


土竜の心配

 アリーナに出た途端、本音はやけにピリピリした空気を感じた。普段はそんなことに敏くない本音ではあるが、今回だけははっきりと感じることが出来たのであった。

 

「何だか見られてる気がするんだけど、何があったのかな?」

 

『あれだけ挑発しておいてそんな認識なんですか? 明らかに四人が徒党を組んで貴女を最初に撃ち落とす作戦に出るのでしょう』

 

「挑発した覚えはないんだけどな……まぁ、いっちーの顔に泥を塗るわけにはいかないし、少しは本気で頑張ろうかな」

 

『少しではなくたまには全力で戦ったらどうなんですか、貴女は……VTSでも相手をいたぶるような戦い方しかしないのですから、たまには全力で、完膚なきまでに叩き潰すような戦い方をしてみてもいいのではないのですか? 更識所属の実力を知らしめる意味でも、その方が良いと思いますが』

 

「でも~シズシズもカスミンもカルカルもリンリンもみんなお友達だし、リンリンに関しては代表候補生だから、完膚なきまでに叩き潰して自信喪失されたら大変だし」

 

 

 何も考えていないようで、意外と考えている本音に土竜は小さく息を吐いた――ように本音には感じ取れた。

 

「どうかしたの、土竜?」

 

『いえ、普段からそのような事を考えて戦っているのですか?』

 

「ん~? 普段は面倒だから難しい事はいっちーやおね~ちゃん、かんちゃんにお任せしてるよ」

 

『ですよね……貴女が普段からそんなことを考えているわけないですよね』

 

「良く分からないけど、今日は多少なりとも本気で行かないとすぐ負けちゃうってのは分かるから、最初は四人の中で一番弱いリンリンから堕として行かないとね」

 

『代表候補生を一番弱いと言えるとは……相手の実力もしっかり把握出来ているのですね』

 

「他の三人はいっちーが造った専用機なんだし、どう考えてもリンリンのISが性能的にも一番弱いでしょ。中近距離主体のリンリンは、結構VTSでも相手したから大丈夫だと思うよ」

 

『貴女がそのタイプとの訓練を積んでいた時は、私ではなく他のISで遊んでた時だったと思いますが、大丈夫なのですか?』

 

「平気平気~。最近では土竜との相性も良くなってきてるんだし、多少無茶しても問題ないでしょ~?」

 

『後で一夏さんに怒られても知りませんからね……』

 

 

 本音が無茶をすると、後で整備する一夏の負担が倍増するのだ。土竜はその事を心配しているのだが、当の本音は何も考えていないように首を傾げた。

 

「何でいっちーに怒られるの?」

 

『忘れたのですか? 一夏さんが無茶をすれば皆さんが心配し、怒るように、一夏さんだって貴女たちが無茶をすれば心配し、お説教をするのですよ』

 

「別にいっちーは優しいし、模擬戦で無茶をしたからって怒るような心の狭い人じゃないよ」

 

『まぁそう思ってるならそれでいいですけど……本当に知りませんからね』

 

 

 自分は釘を刺した、と土竜は後で一夏に言い訳が出来るように行動し、その通りに本音は行動するようだと感じ取った土竜は、盛大にため息を吐きたい衝動に駆られたが、彼女は擬人化する事も出来ず、当然のように呼吸もしていない。なのでため息は吐けずに、雰囲気だけ本音に伝える事にしたのだが、本音には土竜の感情の機微を感じ取るだけの感性は無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇鴉から土竜の感情を受け取った一夏は、マドカとマナカが隣にいるのも忘れ盛大にため息を吐いた。そんな一夏を見た妹二人は、自分たちが何かしてしまったのかと慌てた様子で一夏の顔を覗き込んだ。

 

「兄さま、私たちが何かしましたか?」

 

「無意識にお兄ちゃんに心配されるようなことしちゃった?」

 

「ん? あっ、いや……お前たちは何もしてないさ」

 

 

 泣きそうな顔をしている妹二人の頭を優しく撫でながら、一夏は闇鴉から伝えられた本音の状況を説明する。

 

「つまり、四対一の状況になるというのに、本音は全く慌てていないという事ですか」

 

「あの人、普段からのほほんってしてるけど、実力はあるんだよね?」

 

「まぁ、普通に戦えば俺は勝てないだろうな。簪や美紀とさほど変わらない実力はあるんだが、どうにもその実力を無駄にしてるように思えてならないんだ」

 

「兄さまがそこまで評価してくださっているというのに、本音はどうしてやる気を出さないのですか?」

 

「基本的にのんびりしたいという考えの持ち主だからな。面倒な事は人に任せて、自分はのんびりゆっくりしていたいと考えてるんだろ、たぶん」

 

「でもお兄ちゃん、やる時はやるって自分で言ってたから、出来るって事は自分でも分かってるんだよね?」

 

「たぶんな。確かにやる時は本当にやっていたし」

 

 

 前に箒が襲撃してきた時も、本音が冷静なツッコミを入れて箒を激昂させ動きを鈍らせた実績がある。その事を知っている一夏は、今回はどう動くか気にはなっていたが、心配はしていなかった。

 

「兄さまは本音を信頼しているのですね」

 

「まぁ、静寐か香澄辺りが本音を負かしてくれれば、アイツも少しは訓練を真面目にやるかもしれないから、負けてくれると面白いんだがな」

 

「じゃあお兄ちゃん、その二人の機体に今から私が作り出したIS強化薬を打ち込めば――」

 

「そう言うのは駄目なんだからな」

 

 

 怪しい薬を取り出したマナカに、軽くチョップを入れて、一夏は開始間近の非専用機持ちの部第三試合の顔ぶれを眺めてたのだった。




姉双子とは違い、妹双子は素直に育ってる……のか?

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