暗部の一夏君   作:猫林13世

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ある意味で信頼はされていますが……


本音への信頼

 第二回戦を目前に控え、参加する専用機持ちたちの纏う空気が変わった。特に更識所属四人と戦わなければならない鈴は、物凄くピリピリした空気を醸し出していた。

 

「リンリン、そんなにピリピリしてどうしたの~?」

 

「アンタたちを相手にしなければいけないんだから、これくらいピリピリするのは仕方ないと思うけど?」

 

「まぁ、確かにシズシズもカスミンも、カルカルも強いからね~」

 

「一番の強敵はどう考えてもアンタでしょうが!」

 

「ほえっ!?」

 

 

 鈴に吠えられて本音は驚いたように身体をびくつかせたが、表情は一切変わっていない。これでも更識所属の実力者なので、この程度の勢いでは驚かすまでにはいかないのだ。

 

「とりあえず、特に報酬が豪華ってわけでもないんだし、気楽に行こうよ~」

 

「食い意地の張った本音が、食堂のデザートのタダ券に惹かれないなんて、何かあるんじゃないの?」

 

「何にもないよ~? 単純に食べ飽きてきたから、特にほしくないだけだよ~」

 

「アンタ、どれだけ食べてるのよ……」

 

 

 普段から生徒会の仕事もせずに遊び倒していたはずなのに、何処からそんな金が出ていたのかも気になったが、それ以上に食べ飽きるくらい食べていた事に鈴は驚いたのだった。

 

「いっちーがデザートを作ってくれるんなら、やる気も出るんだけどね~」

 

「アンタなら、頼めば作ってもらえるんじゃないの」

 

「最近のいっちーは忙しいからね~。前みたいにお願いしても作ってくれないのだ~」

 

「アンタが仕事しないからじゃないの?」

 

「それだけじゃないよ~。だいたい、私が仕事しないのは今に始まった事じゃないもん!」

 

「それは胸を張って言える事じゃないわよ」

 

「確かに鈴の言う通りね」

 

「あっ、シズシズ。もう緊張は収まったの~?」

 

「本音のボケボケな会話を聞いてたら、緊張してるのもバカらしく感じてきたわよ」

 

 

 静寐の背後では、香澄とエイミィも頷いて同意している。図らずとも本音は、ライバルたちの緊張を解いてしまったのだった。

 

「本音には悪いけど、もう少し真面目になった方が良いと思うわよ」

 

「そうですね。一夏さんも忙しそうにしていますし、その護衛の美紀さんだって忙しそうなのに、本音さんだけのんびりしてるのは他の方に失礼だと思います」

 

「でも~、私が働いても、いっちーたちの仕事を増やすだけだと思うんだよね~。前におね~ちゃんから『貴女は働かなくていいので、大人しくしていなさい』って言われたし~」

 

「それを真に受けて、今まで遊びほうけていたと?」

 

「いっちーたちの仕事を減らす為に、私は一生懸命遊んでいるのだよ!」

 

 

 この時、本音以外の四人は同じ気持ちを抱いていた。これはなんとしても本音を最初に脱落させ、もっと努力する事を覚えさせようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 整備を終え解説席に戻ってきた一夏を出迎えたのは、一回戦の時に一緒に解説をしたマナカと、惜しくも一回戦敗退が決まったマドカの妹二人だった。

 

「マドカまでどうしたんだ?」

 

「負けてしまいましたし、兄さまの護衛として解説に加わるよう刀奈さんに言われました」

 

「せっかくお兄ちゃんと二人きりだったのに……まぁ、アンタなら別にいいけど」

 

「という事ですので、よろしくお願いしますね、兄さま」

 

「ああ。ところで、こっちの二回戦は誰が勝ち抜いたんだ?」

 

「予想通り、ダリル・ケイシーが勝ち抜きました。専用機が無いとはいえ、元代表候補生の実力者ですからね。勝手が違ったとはいえ問題なく勝ち上がりました」

 

「一回戦は相川さんが勝ち抜いたから、決勝はもう少し満足出来る試合が出来るんじゃないか」

 

「次は夜竹さんが出場しますし、四回戦はティナさんがいますからね。こちらの部も盛り上がりを見せてくれるでしょう」

 

 

 マイクの電源を入れる前から、マドカは妙に実況めいた喋り方をしているなと、一夏は微笑ましさを感じていた。あまり人前に出て何かをしたがるタイプの子ではないのだが、自分とマナカと一緒ならという事で盛り上がっているのだろうと、微妙に父親めいた事を考えていたのだった。

 

「それでお兄ちゃん、向こうの二回戦の感じは? やっぱり本音が有利なのかな?」

 

「さっき碧さんから報告があったんだが、どうも他の四人が打倒本音で団結したらしく、本音でも厳しいかもしれないと」

 

「どうせまた、本音が天然かまして四人に怒られたとかじゃないの?」

 

「ありえそうですね……本音さんはどうも抜けている感じがしますし」

 

 

 双子の評価を聞いて、一夏は苦笑いを浮かべる。同学年とはいえ年下の二人にまでこのように思われているのに、本人はいたって動じていない事が一夏には分かってしまったからだ。

 

「とりあえず、本音が本気を出す程度には厳しい戦いになるんじゃないかと報告を受けたから、見てみたい気もするが仕方ない。俺たちはこっちの解説を真剣にするとしよう」

 

「お兄ちゃんにそこまで言わせるなんて、本音ってただののんびりしてるダメっ子じゃないの?」

 

「マナカ……いくら本人がいないからって、その言い方は酷くないか?」

 

 

 あれでも国家代表レベルの実力はあるのにと、一夏は心の中で呟いたが声には出さなかった。そんなことはマナカもマドカも重々承知しているはずだし、言ったところで意味をなさないので呑み込んだのだった。

 

「とにかく、向こうの結果が届けられたら、恐らく二人の本音の評価も代わるんじゃないか」

 

 

 スサノオ、鶺鴒、久延毘古と更識所属の専用機持ちを三人も相手にしなければならない状況だが、一夏は本音の勝利を疑っていない。その信頼が何処から来ているのか、マドカとマナカには分からないのだった。




実力はあるんですけどね……

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