暗部の一夏君   作:猫林13世

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本音自体は出ませんがね……


本音の今後

 刀奈たちの解説は整備室にもしっかり聞こえるようになっており、下手な事を言えば怒られると分かっているのか当たり障りのない解説をしている。その様子を聞いて、簪と美紀は苦笑いを浮かべていた。

 

「何だか刀奈お姉ちゃんらしくない解説だね」

 

「隣に虚さんもいるし、一夏に聞かれてるって分かってるんだろうね」

 

「それでもおふざけするのが刀奈お姉ちゃんの良いところだったのに」

 

「そこは褒める箇所じゃないと思うんだが」

 

 

 整備の手を止めずに会話に入ってきた一夏に、美紀は笑顔を浮かべて切り返す。

 

「でも、そこが刀奈お姉ちゃんの可愛らしいところだと思いますけど、一夏さんはそうは思わないんですか?」

 

「あの人は普通に可愛いから、特にどこがとは思ったことは無い」

 

「……そうなんですか。ちょっと羨ましいです」

 

「一夏、私は?」

 

 

 刀奈が褒められた事に嫉妬した簪が、整備の邪魔にならないくらいの距離まで身を乗り出してきたのを受けて、一夏は少し驚きながらも平静に答えた。

 

「簪だって可愛いと思ってるから安心しろ。もちろん、美紀の事も」

 

「ありがとうございます。一夏さんはちゃんと私たちの事を想ってくれていると分かってはいるのですが、こうして言葉にして褒めていただけるとやはり嬉しいものですね」

 

「ありがとう、一夏」

 

「別にお礼を言われる事ではないと思うんだが」

 

 

 一夏としては、もう少しかまってあげた方が良いのではないかと常日頃から思ってはいるのだが、更識や生徒会の仕事で多忙を極め、最近までは亡国機業対策や箒の事で文字通り東奔西走していたわけなので、こうして彼女たちにかまってあげられる時間が取れなかったのだ。

 

「お姉ちゃんや本音は、忙しそうにしている一夏にも遠慮なく甘えてたけどね」

 

「そうか? あの人たちはあれが普通だと思ってるから、甘えてるという感じではないと思うんだが」

 

「一夏さんはあの二人に甘すぎですよ。特に本音には、毎朝モーニングコールしてるらしいじゃないですか」

 

「毎朝ではないが、起きてこない時にたまにな」

 

「それは私がお願いした事だよ。私じゃ本音を起こす事は出来ないし、放っておいて遅刻になって織斑姉妹に怒られても反省しないのは目に見えてるから」

 

「まぁ、本音が起きないのは今に始まった事じゃないし、無駄な労力を使わせるのも一応悪いしな」

 

 

 織斑姉妹に対しては大して悪いと思っていない様子の一夏ではあったが、その理由に美紀は納得してしまったのだった。

 

「確かに本音は織斑姉妹に怒られるよりも一夏さんに怒られた方が効き目があるでしょうしね」

 

「昔注意した事はあるんだが、本能には勝てないようだな。それ以降睡眠について怒ったりすることは無駄だと分かって放置したんだが……まさか高校生になっても治らないとは思ってなかった」

 

「寮暮らしだから余計になんだろうけどね。実家からだったら、もう少し早く起きなきゃという気持ちが働くと思うから」

 

「どうだろうな。中学の時だって、遅刻ギリギリまで寝てた記憶しかないんだが」

 

「あの時も一夏さんが叩き起こしてましたね。はじめの頃は異性を起こすのに手間取っていた一夏さんも、数ヶ月経ったら普通に起こせるようになってましたし」

 

「加減してたら起きないと知らしめられたからな」

 

 

 本音の事でひとしきり盛り上がった会話だったが、次第に一夏の表情が暗くなっていってるのに気づき、簪と美紀は首を傾げる。

 

「一夏、何かあったの?」

 

「いや、何時まで本音の面倒を見なきゃいけないのかと思ったらちょっとな……少しぐらい自立してもらいたい」

 

「社会に出れば少しはマシになるのかもしれませんが、本音は更識の外には出ないでしょうし、簪ちゃんの専属メイドとして永遠にだらだらしそうです」

 

「私の所為なの?」

 

「そんなことは言ってないけど、虚さんのように刀奈お姉ちゃんの世話をしながら他の事もすれば、本音も多少は改善されるんじゃないかなって思っただけ」

 

「一応俺の護衛なんだがな、アイツは」

 

 

 一夏が零したセリフに、美紀は固まってしまった。確かに本音は一夏の護衛として専用機を持つ事を許されたのだが、現状は美紀と碧がローテーションを組んで一夏の護衛を務めており、本音はたまにしかその仕事をしていない。実力は申し分ないのに、何故かだらける事に全力を注いでしまっているのだ。

 

「いっそのこと解任したらどう? そうすれば少しは焦るかもしれないし」

 

「どうだろうな……大っぴらにだらだら出来るとか思いそうだし、解任したら専用機も持てなくなるからな。戦力ダウンは避けたい」

 

「今の更識に口を挿める団体など無いと思いますがね」

 

「面倒事はなるべく避けたいんだよ……政府相手に説明するのも大変なんだぞ?」

 

「知ってますよ。毎日のように疲れ果てて部屋に戻って来てましたし」

 

 

 同部屋であるがゆえに知っている美紀ではあるが、簪もその事はだいたい知っていた。普通であれば政府との交渉は学校がするべきなのだが、その仕事を生徒会に――というか一夏に丸投げしていると刀奈から聞かされたからである。

 

「とにかく、本音の事はもう少し長い目で見る事にして、護衛の解任とかはその時に考える事にしよう」

 

「そうだね。私も、もう少し本音に厳しくしてみる」

 

「あまり効果はありそうじゃないけどね」

 

 

 三人で苦笑いを浮かべたタイミングで、第二試合が終わったのだと気づいた。整備の方はとっくに終わっていたので、三人はそれぞれいるべき場所へと戻る事にしたのだった。




結局みんな本音に甘い……

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