暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏にアピール出来れば、どこかに所属出来そうですしね


事前説明

 専用機持ちたちには敵わなくとも、非専用機持ちの中ならと思っている女子は少なくない。ましてや全学年合同なら三年生がそう思うのも無理はないだろう。だが、一年の中にも結構上位に行けるのではないかと企んでる生徒は少なからず存在する。

 

「あれ? ティナも参加してたんだ」

 

「まぁ、アメリカの現状を考えて、何処か拾ってくれるところがないかと思ってね。アピールしておこうと思って」

 

「でも、別に中継されてるわけじゃないんだし、ここで活躍してもあまり意味はないと思うんだけど」

 

「そんなことないわよ? ほら、あそこ」

 

 

 ティナが指差した方を見ると、解説席に一夏がいる事に気付いた生徒が騒ぎ出す。

 

「えっ、何で更識君が?」

 

「てっきり専用機持ちの方を解説するんだと思ってた」

 

「あっちは更識先輩と布仏先輩が解説するらしいわよ」

 

「それだったら、アピールに成功したら更識君と……」

 

「それは無いと思うけど」

 

 

 良からぬ事を妄想しそうな同級生を軽く宥めて、ティナは気合を入れる。あのような問題が起こる前、アメリカの代表に選ばれるかもしれないという話はあったのだが、今のアメリカは代表になっても何のメリットもない国だと割り切り、自由国籍を使って移籍出来ないかと考えているのだ。

 

「その為にはまず、実力があることを更識君に見てもらって、彼の口添えでどこかの国が拾ってくれれば一番なのよね」

 

「ティナは国家代表を目指すの? それとも更識所属を目指すの?」

 

「私はそこまで更識君と縁が深くないし、口添えしてくれるだけで十分だと思ってるわ。だから、国家代表になれるように頑張るの」

 

「ティナがここまでやる気だと、私たちは厳しいかな」

 

「優勝賞品の学食のフリーパス一ヶ月分」

 

「それくらいお金払いなさいよ」

 

「ティナは候補生としての収入があるかもしれないけど、一般の女子高生にとっては一回の食事代だってバカに出来ないんだからね」

 

「……間食を止めれば、それなりに大丈夫そうに思えるんだけど?」

 

「簡単に止められるなら苦労しないわよ!」

 

 

 何やら理不尽に怒られた気がしたが、ティナはとりあえず頭を下げた。

 

「ところで、あっちに燃えてる三年生たちがいるけど、ティナは何でか分かる?」

 

「え? 就職先が決まってない人たちじゃないの? ここで動けることをアピールして、内申点を稼ごうとしてるとかじゃない?」

 

「IS学園卒なら、何処の企業からでも引く手数多だと思ってたけど、そうでもないんだね」

 

「引く手は数多だと思うけど、上位企業ともなれば話は別でしょ。優秀な人材が欲しいんだろうし、IS学園卒だからって優秀とは限らないでしょうしね」

 

 

 ティナの声が聞こえたわけではなさそうだが、三年生たちの数人がティナを睨んでいるように見える。他の女子たちはその理由が分からなかったが、ティナははっきりと視線に込められた気持ちを受け取っていた。

 

「どうやらライバル認定されちゃったみたいね」

 

「ライバル?」

 

「優勝する為には私が邪魔だって思われてるみたい」

 

「そりゃ代表候補生だもんね」

 

「専用機を持たない、がつくけどね」

 

 

 自虐ネタで苦笑いを浮かべるティナだったが、ここで活躍すればどこかの国に移籍し華々しい世界で活躍出来るかもと思いさらに気合いを入れた。

 

『そろそろ対戦表がモニターに表示されるでしょうから、各選手はモニター前へ移動してください』

 

『なお、思ってたより参加者が多かったので、五人まとめて戦ってもらいます』

 

「つまり、五人で戦って勝ち抜けるのは一人。誰を潰すかを話し合って徒党を組んでも善し、という事ね」

 

「それってティナがだいぶ不利なんじゃない?」

 

「くじ運にもよるかもね」

 

 

 そんな話をしていると、モニターに対戦相手が表示された。専用機持ちの方も同じモニターに表示されるので、自分の名前を探すのは結構苦労したが、ティナは運よく三年生が一人もいないブロックに組み込まれたのだった。

 

「でも、狙われるのは間違いなさそうね……一、二年生も商品は欲しいでしょうし」

 

「優勝候補だもんね。潰せるときに潰しておかないと」

 

『なお、訓練機の数にも限りがあるので、あまり派手に撃ち落とす事はしないように気を付けてください』

 

『メンテナンスの時間は考慮してあるとはいえ、面倒な事はしたくないので』

 

『……マナカ、本音が漏れてるぞ』

 

『だってお兄ちゃん。嫉妬からISを雑に扱う人間なんて、どうせ大した企業に就職なんて出来ないと思うんだけど』

 

『とにかく、皆さん怪我の無いように気を付けてください』

 

 

 一夏が慌てて説明を終わらせた感じが凄かったが、誰もその事に関してツッコミは入れなかった。というか、入れる事が出来なかったのである。

 こちら側の声はマナカにも聞こえるので、下手に侮辱すれば通信を介して織斑姉妹の耳にも入る恐れがある。そうなればあの二人は間違いなくこちら側に、文字通り飛んでくるだろう。そうなってしまえば、もう大会どころではなくなってしまい、せっかくのアピールの場を失くしてしまうからである。

 

『それでは、第一回戦に組み込まれた生徒は、各自訓練機を受け取りピットへと向かってください。それ以外の人はモニター前で待機していてください』

 

『なお、モニター前の映像はこちら側で確認出来ますので、不正が発覚したら即失格となりますのでお気を付けください。間違っても、お金を渡して勝ちを譲ってもらおうなど考え無いように』

 

 

 心当たりのある生徒たちは、心臓を鷲掴みされた感覚に陥ったが、発覚する前で良かったと胸をなでおろし、仕方ないので正々堂々戦おうと心に決めたのだった。




就職にも明るい更識関係者とのコネ……

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