それぞれが前日を万全の状態で過ごしたおかげで、トーナメント戦は開始前から物凄い盛り上がりを見せている。特に注目されているのは、更識所属の専用機持ちに、更識以外の専用機持ちがどれだけ善戦出来るのかだった。
「それにしても、セシリアちゃんもラウラちゃんも鈴ちゃんも入学当時と比べると大分成長してるわね」
「まぁ、指導力なら誰にも負けないだろうと言える織斑姉妹の指導を受けてますし、セシリアやラウラ、鈴は簪たちと訓練してますし自然に成長したのでしょう」
「入学時から考えるのでしたら、静寐さんや香澄さん、エイミィさんもかなりの成長を遂げてますね。それから、ギリシャ代表に収まったサラさんも、二年次進学から見れば、かなり成長しています」
「やっぱりお兄ちゃんに関わると大分成長するのかな?」
「俺だけが原因じゃないと思うが」
更識所属となり、専用機を手に入れたことももちろん大きく関係するだろうが、それぞれが成長したのはそれぞれが弛まぬ努力を続けた結果だと一夏は考えている。
「相川さんや夜竹さんたちだって成長してるんだから、必ずしも俺が関係してるとは言い切れないと思うんだが」
「でも、一夏君のクラスメイトばっかよね、高い成長を記録してるのって」
「こうしてみると、本音があまり成長してないように見えますね」
「あの子は元々野生の勘で戦う節がありますからね……」
「でも、入学当初から高レベルだったていうのもあると思うわよ。あれでも一夏君の護衛として、簪ちゃんや美紀ちゃんの訓練相手として十分の腕を持っているんだから」
「後はマドカもゆっくりとではありますが成長してますね」
「屑親に捨てられるくらいだから、大したこと無いんだろうと思ってたけど、こうしてみると結構強いんだね、マドカも」
「闘い方が雑だっただけで、マドカは最初から高い能力を秘めていたと思うが……亡国機業がマドカの才能を生かしきれなかったと言う事だろう」
参加者は既にアリーナで待機しているのに、参加しない一夏たちはのんびりとデータを眺めてられるのも、真耶が頑張って説明を引き受けてくれたからだ。モニターに表示されているアリーナの様子を眺めながら、そろそろ移動するべきだろうと一夏が腰を上げた。
「虚さんと刀奈さんは専用機持ちの方の解説を、俺とマナカは非専用機持ちの解説をするんで、ここで別れましょう」
「一夏君、くれぐれも体調に変化を感じたら無理をしないこと。そっちの審判は真耶さんと紫陽花さんだから大丈夫だと思うけど、流れ弾には気を付けてね」
「大丈夫、お兄ちゃんは私が守るから」
「そちらこそ、織斑姉妹が暴走しないように気を付けてください。万が一暴走したら、全専用機持ちに織斑姉妹を止めるよう指示してください。まぁ、碧さんとナターシャさんも控えていますので、大丈夫だとは思いますが」
「おぅ、俺たちも忘れてるんじゃねぇぞ」
「……別に忘れてないですけど、いきなり現れるのは勘弁してほしいですね。気配察知が得意じゃない刀奈さんが驚いてるじゃないですか」
「得意じゃねぇとか言ってるが、そいつも十分な気配察知能力を持ってると思うんだがな……テメェら基準で考えると、確かに得意じゃねぇのかもしれねぇが」
「一夏とマナカは置いておくとしても、そちらの布仏姉もかなりの警戒心だものね」
背後から声を掛けてきたスコールとオータムだが、今の彼女たちには敵意は感じない。なので一夏もある程度の接近なら耐えることが出来る。
「それにしても、俺たちが乱入して中止になったイベントを今やるのかよ」
「篠ノ之の問題とか、その他いろいろあったからな……」
「ゴメンなさい……」
その他いろいろには、マナカの問題も当然含まれているので、当事者であるマナカはシュンとした表情で頭を下げた。
「いや、マナカより問題だったのは織斑姉妹だから……何度カミナリを落とせば反省するのか分かったもんじゃない……」
「あの二人、いっそのことクビにしたらどうなの?」
「生活態度や考え方は兎も角、指導力は随一ですから、他所へ流失するのは避けたいんだよ。間違ってもアメリカや危険思想の持ち主に共感する事は無いにしても、あの戦闘力と指導力が敵側に回るのは御免だ。胃が痛い思いをし続けるのも大変なんだよ、これでも」
「一夏にそれだけ言わせるという事は、やはり織斑姉妹は侮れないという事かしら?」
「何だ、まだ敵に回るつもりなのか?」
「そうじゃないわよ。純粋に、織斑姉妹の実力がどんなものか気になるの。まともに戦ったら勝てないってことくらいしか分かってなかったし、実際に対峙した時もまともに戦わなかったし」
「あの人たちが本気を出したら、全更識所属の専用機持ちで挑んでも厳しいだろうな……まぁ、マドカやマナカを使って精神的に攻めれば簡単に大人しくなるだろうが」
その二人より、一夏が精神的に攻めればあっという間に陥落するのだが、そもそも怒られると分かっているのに暴走するのは、ひょっとしたら怒られたいからなのではないかと束から言われ、そうなった時はマナカとマドカに任せようと一夏は心に決めていたのだった。
「とりあえず、織斑姉妹が暴走しないように気を付けてください」
「了解よ。一夏君も、頑張ってね」
それぞれの持ち場に移動する為、刀奈たちと別れた一夏とマナカは、第二アリーナに向けて仲良く歩き出したのだった。
信頼されない織斑姉妹……