VTSでの特訓を終えた静寐と香澄は、この後どうするか決めてなかった事に気付き、どうしようかと互いに顔を見合わせる。大会前日という事もあり、アリーナは使用出来ないし、VTSもこの後使用するグループが既に来てしまったので、延長する事も出来ない。
「どうしようか」
「そうですね……とりあえず朝ご飯を食べながら考えましょうか」
「もうそんな時間? って、そりゃそうか。次の人たちが来てるんだから」
「その後は、トーナメント後にある定期試験の勉強でもします? 静寐さんは兎も角、私は低空飛行組ですから」
思い出したくないものを思い出したという顔で告げる香澄に、静寐は苦笑いを浮かべる。
「そう言えばそんなものもあったわね……私だって楽勝ってわけじゃないんだけど」
「ですが、私や美紀さん、本音ちゃんより楽勝ですよね?」
「そう言えば、美紀も成績不振者だったわね……普段の言動と立場から忘れがちだけど」
「また一夏さんに頼るのも忍ばれますし、自力で何とかしなければ……」
専用機を手に入れるのも一夏が何とかしてくれたからであって、本来なら補習ギリギリの自分が専用機など持てるはずがないと香澄は自覚している。その為、専用機を手に入れてからは授業にも必死になって参加し、少しでも成績を上げようと努力したのだが、座学の方はさっぱりなのだ。
「そんな事一夏君は気にしないと思うけど。どうせ本音や美紀、マドカの勉強を見るんだろうし、香澄が増えても問題ないと思うわよ。てか、エイミィだって低空飛行だし、そっちも手伝うんじゃないかしら」
「そうなのでしょうか……後で聞いてみましょうか」
「それが良いわね。私も、手伝えることがあるなら手伝うから」
「あれ~? シズシズにカスミンだ~。こんなところで何してるの~?」
「本音こそ、こんな時間に起きてるなんて珍しいわね」
平日ならまだ若干の余裕がある時間に本音が起きているなど、静寐でも数えるくらいしかない事を知っているのだが、今日は既に目が覚めている様子だった。
「起きたらかんちゃんがいなくてさ~。どこ行ったか知らない?」
「一夏君の部屋じゃないの? 重要な話し合いとか、そんなのの為に」
「私は何も聞いてないけどな~?」
何でだろうと視線で問いかけて来る本音に、静寐も香澄も苦笑いを浮かべた。その理由は大方いつも通りなのだろうが、本音は理解していない様子なのだ。
「本音っていつも呼ばれてないんじゃない?」
「そんな事ないよ~。五回に一回くらいは呼ばれてるんだから~!」
「それ、威張って言える回数じゃないですよ」
「とりあえずいっちーの部屋に行ってみるね~。あっ、それからカスミン」
「な、なんですか?」
急に名前を呼ばれ、香澄は身構えてしまった。本音も裏表がない言葉で話してくれるので、香澄としては付き合いやすい部類なのだが、こうしていきなり話しかけられると未だに緊張してしまうのだ。
「トーナメント戦が終わったら、いっちーが勉強会を開いてくれるらしいから、カスミンも参加するよね?」
「参加して良いのでしたら、ぜひ参加したいです」
「じゃあ、いっちーに伝えておくね~。私の他にも、マドマドや美紀ちゃん、カルカルにマナマナも参加するんだってさ~」
「マドカさんは兎も角、マナカさんは成績良いんじゃないでしょうか?」
あれだけのシステムを組み上げるのだから、当然マナカは頭がいいと思っていた香澄は、マナカが勉強会に参加すると聞かされ首を傾げた。
「ISに関してはいっちーにも負けない頭脳を持っているんだけど、一般教科は全然ダメなんだってさ~。まぁ、義務教育すら通ってなかったから仕方ないんだけどっていっちーが言ってた」
「それじゃあ、教師役は足りるの? さすがに一夏君一人じゃ厳しい人数だと思うけど」
「かんちゃんもいるし、刀奈様やおね~ちゃんも手伝ってくれるみたいだし、大丈夫だと思うよ~? なんだったら、シズシズも手伝ってよ」
「手伝うのは別にいいけど、勝手に決めて良いわけ? 一応一夏君にも聞かないと」
「じゃあ聞いておくね~。それじゃあ、後でメールするね」
そう言い残して本音は急ぎ足で一夏の部屋を目指し進んでいった。だが、彼女の中での急ぎ足なので、二人にはあまり急いでるようには見えないのだった。
「とりあえず、香澄も参加出来そうだし良かったわね」
「一夏さんに頼りっぱなしで、卒業したらどうしようかと悩みますけどね」
「更識への就職が約束されてるわけじゃないけど、問題ないんじゃない? 更識製の専用機を持ってるんだし、傘下の企業なら問題なく就職出来ると思うけど」
「就職まで手伝ってもらったなんて、お父さんに怒られちゃうかも」
「コネというのは、使ってなんぼなんだから、そんなこと気にする事ないと思うんだけどな」
「でも……」
「それに、普通の企業じゃ香澄もやりにくいんじゃない? 一夏君ならその辺りを考えて香澄の就職先を見つけてくれると思うんだけど」
「否定出来ないです……この特殊能力の所為で、普通の企業じゃ一週間耐えられるかどうか……」
自分の未来を想像して、物凄く情けない気分になった香澄は、その場にしゃがみ込んでしまった。そんな香澄を励ましつつ、静寐は食堂まで移動しただけで疲れ果ててしまったのだった。
使えるものは何でも使った方が良いですけどね