暗部の一夏君   作:猫林13世

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一番甘えてる気もしなくはない……


甘えっ子

 いつもならぐっすり寝ている時間帯だが、簪は昼間ずっと寝ていたので目が覚めてしまった。

 

「二度寝する気分じゃないしな……」

 

 

 隣では本音がだらしない恰好で寝ているが、さすがに起こして相手をさせるのは可哀想だと感じ、とりあえずいつもかけている眼鏡をと思い手を伸ばしたが、何時もの場所に置いてなく簪は首を傾げた。

 

「えっと……あぁ、一夏の部屋に忘れてきちゃったんだ」

 

 

 体調不良で一夏の部屋で生活していたので、その時に外してそのままになってしまったのだろうと簪は理解した。別になくても生活は出来るし、元々伊達なので問題はないのだが、かけていないと妙に落ち着かないのだ。

 

「仕方ない、取りに行こう。一夏や美紀なら起きてても不思議じゃない時間だし、織斑姉妹には事情を話せば大丈夫だろうし」

 

 

 こんな時間に寮内をうろついていたら、寮長である二人に怒られるかもしれないが、事情が事情なので大丈夫だろうと考え、簪は一夏の部屋を目指し廊下に出た。

 

「寒っ、もう冬もすぐそこまで来てるんだね」

 

 

 日中はそうでもないが、朝晩は冷え込んできたなと感じながら、簪は廊下を歩き進める。途中外に人影を見たような気がしたが、早朝から身体を動かしている人はいるので特に気にしなかった。

 

「一夏や碧さんなら、気配で誰か分かるんだろうけどな」

 

 

 簪も人の気配を掴むことは出来るのだが、それが誰の気配かを識別するまでには至っていない。そもそも識別出来るのがおかしいのであって、簪でもかなり高レベルなはずなのだが、簪はもっと精進しようと心に決めたのだった。

 

「さてと、到着したけど……起きてるのかな?」

 

 

 いざ部屋の前まで来て、そんなことを考えた簪ではあったが、例え寝ていたとしても、中の二人なら扉の前に立った時点で気づいてるだろうと思い直し、ゆっくりと扉を開けて中に入った。

 

「えっと……眼鏡は」

 

「あれ? 簪ちゃん。どうかしたの?」

 

「おはよう、美紀。えっとね、眼鏡を忘れたみたいで」

 

「それならそこの上に置いてあるけど」

 

「良かった……? 美紀、ベッドの中に誰かいるの?」

 

 

 美紀のベッドに、不自然なふくらみを見つけ、簪は鋭い目つきで美紀に詰め寄る。

 

「一夏さんですよ。昨日篠ノ之さんに会ったから、少しトラウマが発動してたみたいで、夜にこっちに入ってきたんです」

 

「美紀は同じ部屋だからいいよね。そうやって頼られるんだし」

 

「簪ちゃん? 何だかオーラが刀奈お姉ちゃんに似てきたんじゃない?」

 

「姉妹だもん、似てても仕方ないよ」

 

 

 引き攣った笑みで簪を躱そうとした美紀ではあったが、そのタイミングで一夏が目を覚ましベッドから出てきた。

 

「ん……? 何で簪がここにいるんだ?」

 

「眼鏡を忘れたそうです」

 

「眼鏡? あぁ、寝てる簪を部屋まで運んだから、その時に忘れたんだろう……だが、何で怒ってるんだ?」

 

「私ばかり一夏さんと一緒に寝てるからですって」

 

「そんなこと言われてもな……簪はクラスが違うし、本音ではいざという時に頼りないし、刀奈さんと虚さんは学年が違うからという理由で美紀が同部屋になったんだ。今更そんなこと言われても……」

 

「たまには私たちにも甘えてほしいの!」

 

 

 まだ早い時間という事を忘れ大声で詰め寄ってくる簪に、一夏と美紀は顔を引き攣らせる。

 

「簪には整備やらなんやらで相当甘えてるつもりなんだが」

 

「そう言うのじゃなくて、碧さんや美紀にしてるように甘えてほしいの」

 

「やっぱり刀奈お姉ちゃんみたいだよ」

 

「とにかく、今から一夏は私と一緒にベッドに入って!」

 

「それは別にいいんだが……俺のベッドに簪が入るのか?」

 

「えっと……」

 

 

 一緒に入ることに躊躇いは無かった簪だったが、いざ一夏のベッドに入るという事になり、少なからず躊躇いを覚えた。

 

「一夏が良いなら、そっちのベッドが良いけど……」

 

「俺は別にどっちでも……」

 

「じゃ、じゃあ一夏のベッドで……」

 

 

 滅多にない機会だからと自分に言い聞かせ、簪は一夏が普段使っているベッドに入る決心をした。

 

「では、私はベッドから出ておきますね」

 

「何でお前がそこで寝てるんだ……」

 

「だって、外にいたら寒いじゃないですか」

 

「待機状態になってればいいだろうに……」

 

 

 一夏のベッドで丸くなっていた闇鴉を追い出し、一夏と簪はベッドに潜り込む。

 

「今から寝たとしても、そんな時間あるわけじゃないんだが」

 

「いいの! それに、今日は土曜日で授業は無いし、明日のトーナメントに向けて体調を万全にしておかないと。来週は代表昇格に向けてのテストもあるし、今日はゆっくりするの」

 

「はぁ……まぁいいが」

 

 

 普段は我慢する事に慣れているのではないかと思わせるくらい我が儘を言わない簪がここまで言うのなら、それは相当なのだろうと一夏は考え、簪の身体を優しく抱きしめた。

 

「これじゃあ私が一夏に甘えてるようだね」

 

「どっちでもいいだろ。簪は嫌か?」

 

「ううん、一夏の身体、あったかい」

 

 

 すぐに寝息をたて始めた簪の顔から眼鏡を外し、一夏は美紀と顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

 

「やっぱり簪ちゃんも一夏さんに甘えたかったんですね」

 

「まぁ、刀奈さんばかり目立ってるが、簪も結構甘えっ子だからな」

 

「本音も、ですけどね」

 

「あれは甘えすぎなような気もするが……」

 

 

 とりあえずは自分も身体を休めておこうと、簪の頭を撫でながら一夏もゆっくりする事にしたのだった。




刀奈と本音は、甘えてるというより世話を掛けている感じですし……

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