暗部の一夏君   作:猫林13世

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こっちも少しずつ親展させないと


ISと箒の関係

 箒と対面し、その変わりように一夏は言葉を失いかけていた。護衛として一夏と共にやってきた碧もまた、想像以上の変化に面食らっている。

 

「あの、私の顔に何かついているのでしょうか?」

 

「いや、そういうわけじゃないから安心してくれ」

 

「えぇ。ちょっと別の理由で貴女の顔を見てるだけですから」

 

「そうですか……ちょっと安心しました」

 

「安心?」

 

 

 箒が何に安心したのかが分からなかった一夏は、つい尋ねてしまった。

 

「えっとですね……前の私の所為で一夏さんにはトラウマがあると聞いていましたので、会ってくれないのではないか、会えたとしてもまともに相手してくれないのではないかと思っていました。ですが、一夏さんは私の問いかけにもしっかりと答えてくれましたし、私を怖がっている様子はなかったものでしたので」

 

「まぁ、今の篠ノ之さんなら、怖がる要素は無さそうですが、近づくのはまだちょっと無理そうですけどね」

 

「仕方ありませんよ。前の私はそれだけの事をしたのでしょうから」

 

「凄い変わりようですね……前の篠ノ之さんなら、激昂して逆恨みで殴り掛かって来てたでしょうに」

 

「前の私はそんなことをしていたのですか……本当に申し訳ありませんでした」

 

「今の貴女に謝ってもらっても仕方ないのですけどね」

 

 

 碧の呟きに、箒は少し肩を落としたが、すぐに疑問を抱いたように首を傾げてみせる。

 

「あの……貴女は?」

 

「私はIS学園教師兼一夏さんの護衛としてここにやって来ました、小鳥遊碧と申します」

 

「小鳥遊……第一回モンド・グロッソのソロ世界一の小鳥遊碧さんですか?」

 

「そうよ。名前は知ってても顔は知らなかったみたいね」

 

 

 ニッコリとほほ笑む碧に、箒は感動を覚えている様子だった。

 

「映像では顔はしっかりと見えませんでしたし、会えるなど思っていなかったものでして」

 

「学園に復帰出来れば、織斑姉妹や更識刀奈さん、簪さん姉妹に四月一日美紀さんなど、引退した人や現役の代表や候補生の人たちに会えるわよ」

 

「凄いところなんですね、IS学園って」

 

「まぁ、残り一ヶ月で、貴女がどこまで成長出来るかにもよりますけどね」

 

 

 現状の報告では、剣道は問題なく出来ており、料理の方も特に問題なく作ることが出来ているそうだが、ISの操縦も問題なく出来るのかは微妙なところなのだ。いくら生まれ変わったからといって、今までの言動などが無かったことになるわけではなく、ISには不信感を抱かれている箒を学園に復帰させることが出来るのかどうかと教師陣が話し合っているくらいなのだ。

 

「今日は篠ノ之さんに、これを持ってきました」

 

「これは?」

 

「VTSのポータブル版です。本当なら本物のISを持ってきて操縦させるべきなのかもしれませんが、念の為にこれで……俺はまだ、貴女が本当に生まれ変わったのか疑ってますので」

 

「それが当然だと思います……ISを使って残虐非道の数々を行ってきた私を、簡単に信じられるはずがありませんものね」

 

 

 一夏からポータブル版のVTSを受け取り、箒は過去の自分がしてきたことが許されないことであると告げる。反省の色は見られるようだと、一夏は内心ホッとしたのだった。

 

「えっと……これはどうやって使うのでしょうか?」

 

「碧さん、説明をお願いします。俺は柳韻さんと今後の話し合いをしますので」

 

「かしこまりました、一夏さん」

 

 

 箒に近づくことが出来ないので、ポータブル版の説明を碧に任せ、一夏は柳韻と共に部屋の隅へと移動した。

 

「貴女程の方が、何故一夏さんの護衛などしているのですか? IS学園の教師の収入だけで十分だと思うのですが」

 

「私はIS操縦者である前に更識家の人間なので、ご当主様である一夏さんを守るのは当然の事なのよ。まぁ、大人の難しい世界の話は、今の貴女には早いかもしれないけどね」

 

「つまり……更識家の人間であり、元日本代表で現在はIS学園の教師ですけど、一夏さんの護衛が本業であるって認識でよろしいですかね?」

 

「本業はあくまでも諜報員なんだけどね……まぁ、その認識で問題ないわよ」

 

 

 説明するのが面倒なので、細かい事は省略して碧は話を元に戻すことにした。

 

「ポータブル版VTSの使い方だけども、まずここが電源ボタン」

 

「わっ! 何か映りましたよ」

 

「……テレビと一緒で、電源を入れれば映像が映るんですよ」

 

「なるほど」

 

 

 若干呆れながらも、碧は根気よくVTSの使い方を箒に教えていく。説明を受ける箒の目は、説明が進むにつれて輝きだしてきていた。

 

「――つまり、ヴァーチャルだけどこれを使えばISの訓練が出来るわけ。分かった?」

 

「はい、わかりました。ですが、前の私はすべてのISから嫌われていたのですよね? ヴァーチャル世界とはいえ動かせるのでしょうか?」

 

「その辺りは一夏さんがしっかりと考慮してくれてるから大丈夫よ。まぁ、あくまでも仮想世界だからって感じでしたけどね」

 

「現実問題として、ISに信用されるところからスタートでしょうしね……」

 

 

 過去の自分の所業を受け入れ、箒はISに信用されるにはどうすればいいのかを考えながら、ポータブル版VTSで細かい動きなどを確認しながら戦闘訓練を開始したのだった。




何だかもう……ほんとやりにくいです、この箒……

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