暗部の一夏君   作:猫林13世

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何時までも空席ではマズいですしね


代表に向けて

 霊的なものを見てしまった束は、一刻も早く帰りたいといオーラを醸し出していたので、一夏はそれを認め束をラボに帰した。

 

「良かったんですか? 積年の恨みを返すチャンスでしたのに」

 

「そこまで恨んでませんし、根暗でもありませんので」

 

「まぁ、一夏さんならどんな手でも仕返し出来そうですしね」

 

「するだけ無駄なのでやりませんが」

 

 

 サイレント・ゼフィルスのデータを眺めながら答える一夏に、碧はちょっとした悪戯を思いついた。

 

「一夏さん、実は私霊的なものが見えるんですよ」

 

「そうですか、大変ですね」

 

「あ、あれ? それでおしまいですか?」

 

「なんでしたら木霊にも除霊能力を追加しますよ」

 

「……冗談なので結構です」

 

 

 せっかく驚かせると思った碧だったが、思いのほか食いつきが悪かったので早々に嘘であることを伝える。

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

「分かってたんですか?」

 

「碧さんが何かを思いついたって顔をしてたので、たぶんそうなんだろうなって思っただけです」

 

「表情に出ないようにしてたんですが、ダメでしたか」

 

「普通の人には分からない程度でしたので、必要以上に気にすることは無いと思いますがね」

 

「一夏さんを騙せないと意味がないじゃないですか」

 

 

 碧の抗議に、一夏は軽く目を見開いたが、それ以上の反応は見せなかった。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ、俺を騙してどうするのかなと思っただけです。まさか敵対企業に移籍するつもりではないですよね」

 

「当然ですよ。私は一夏さんの護衛で、その……お嫁さん候補なんですから」

 

「照れるなら言わなければいいじゃないですか、顔真っ赤ですよ」

 

 

 一夏の方も無反応ではいられなく、若干早口になっていたが、それ以上の反応は見られなかった。

 

「とりあえず、私が更識を裏切ることはありませんので、ご安心ください」

 

「碧さんが裏切ったら、対応が大変ですからね。内部事情もバッチリ知られてますし、美紀や虚さんでも碧さんの気配を掴むのは難しいですから」

 

「一夏さんなら簡単に掴めるじゃないですか」

 

「簡単ではないですけどね。まぁ、木霊の気配を探ればすぐ見つけられるかもしれませんが」

 

『私がいる限り、一夏さんを裏切ることは無いですけどね』

 

「まぁね。木霊を調整出来るのは一夏さんだけだし、私だって更識に不満は無いものね」

 

 

 もしもの話でも成立しない可能性を話してても意味はないので、一夏は少しふらつきながらも自室へと足を進める。途中倒れそうになったのを碧に支えられ、情けなさそうに頭を掻きながら、素直に碧に支えられて部屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の部屋で作業していた刀奈は、碧に支えられながら部屋に戻ってきた一夏を見て驚き、すぐに一夏の側に駆け寄って声を掛ける。

 

「一夏君!? 何があったの!? 誰にやられたの!?」

 

「誰かにやられたわけじゃないですが……ちょっとISの精神世界へ行っていたので、体力の消耗が激しかっただけです」

 

「ISの? ひょっとしてサイレント・ゼフィルスの調整と何か関係あるの?」

 

「ちょっと呼ばれましてね。思いの外身体にダメージが残ってたみたいで、少しふらつく程度に疲れてしまいました」

 

 

 少し気恥しそうに頬を掻きながら、碧に支えられて漸く自分のベッドに腰を下ろした。

 

「ところで、何故刀奈さんがこの部屋に? 簪の世話は美紀に頼んだはずなのですが」

 

「美紀ちゃんなら紫陽花さんに呼ばれて職員室に行ってる。何でも代表候補生に連絡したいって言われたんだけど、簪ちゃんは動けないからって美紀ちゃんが対応にいったのよ」

 

「候補生に? こちらには何も情報は入ってませんが」

 

「織斑姉妹が引退して、ずっとペアの代表が空席になってるでしょ? だからそろそろ正式に代表を決めたいって感じじゃないかな」

 

「確かに、そろそろ第三回モンド・グロッソを開催したいって動きは見られてますし、候補生から代表に昇格させるなら確かに簪と美紀でしょうしね。ただ、まだ問題が片付いていないので、開催するにしてももう少しかかると思うんですがね」

 

 

 後一年は開催出来ないだろうと考えている一夏だが、運営本部はいい加減開催したいのだろうと考え、そうなると代表の座を空位のままにしていくのは確かにマズい。他に目ぼしい候補生もいないことだし、簪と美紀の代表昇格は納得出来るものであった。

 

「それはそれとして、何故刀奈さんがここに? 生徒会の仕事は大丈夫なんですか?」

 

「そっちはもう終わらせたわ。今は美紀ちゃんの代わりに簪ちゃんの看病と、一夏君宛に届いた更識の書類に目を通してたのよ」

 

「俺宛だって分かってるなら見ないでくださいよ」

 

「別に親展じゃないし、私だって更識の人間だから見ても問題ないでしょ? それとも、見られたら困るものでも送ってもらってるの?」

 

「別にそんなものありませんが……見られては困るものって何ですか?」

 

「それは、その……男の子なら一冊くらい持っててもおかしくないものよ」

 

「そのような類のものには興味ありませんし、欲しいなら自分で買いに行きますよ、それくらい」

 

 

 刀奈から受け取った書類に目を通しながら、一夏はめんどくさそうにそう答えたのだった。




トレジャーは弾が持ってますね……一夏は原作でも持って無さそうですし

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