暗部の一夏君   作:猫林13世

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意外な弱点……?


見えないもの

 ISの精神世界から現実に復帰した一夏は、頼まれていたデータ消去を行う為にまずはバックアップを取ることにした。

 

「あれ、いっくん。データは残しとくんじゃなかったの?」

 

「サイレント・ゼフィルスに頼まれましてね。人を殺した瞬間をデータとして残しておくと、気分が悪いみたいでしたので」

 

「まぁ、やった箒ちゃんが覚えてないのに、サイレント・ゼフィルスだけ覚えてるってのも可哀想だしね」

 

 

 そう言って束も、バックアップを取るのを手伝ってくれたのだが、実際一夏一人でも変わらない時間で終わったような気もしていた。

 

「後は初期化して武装のチェックをすれば完了ですね」

 

「さすがいっくん、仕事が早いね~」

 

「束さんだってこれくらいで終わらせられますよね」

 

「さすがの束さんでも、ISの声は聞こえないから」

 

「そう言えば、俺だけでしたね、全てのISの声を聞けるのは」

 

「それだけいっくんがISに好かれてるって事だし、いっくんもまたISの事を考えているって事だね」

 

 

 珍しくまともな事を言った束の事を、一夏は数秒見つめてしまった。その視線の意味は理解していなかったが、一夏に見つめられたことで束の気分はハイテンションになっていったのだった。

 

「さぁさぁいっくん。後はこの束さんに任せて、少しお休みするといいよ。まだ若干ふらついてるっぽいしね」

 

「精神世界から復帰したばかりですからね……それじゃあ後は束さんに任せますが、何するか分からないのでここで休みます」

 

「さっきも聞いたけど、信用されてないんだね、束さんは……」

 

 

 先ほどまでのハイテンションがウソのように、束は見るからに落ち込んだ。だがそれも一夏にとっては見慣れた物なので、特に気にすることなく束の作業を見学するために腰を下ろす。

 

「束さん本人は信用してませんが、整備の腕は信用してますよ」

 

「何だか複雑だよ~」

 

「信用されている部分があるだけマシじゃないですかね? 織斑姉妹なんて、何も信用出来ませんから」

 

「ちーちゃんとなっちゃんだって、やる時はやると思うけどね」

 

「そのやる時が滅多にないから信用出来ないんですよ……何度給料を減らそうと考えた事か」

 

「あはは~、いっくんがちーちゃんたちにお給料払ってるわけじゃないのにね~」

 

 

 自分が織斑姉妹よりは信用されているという事が分かり、束は落ち込みから回復し、物凄い速度で作業を終わらせる。その速度は一夏と同等か、それ以上ではないかと思えるものであった。

 

「さすが束さん、ISの第一人者ですね」

 

「世間ではいっくんの方がそう思われてるんじゃない?」

 

「どうでしょうね。頑なに俺の事を認めない女性もいるでしょうから」

 

「自分はIS動かせない癖に偉そうなババアが増えたよね。いっくん、そういう奴らを箒ちゃんに排除させればよかったのに」

 

「勘違いで殺されたら堪ったものじゃないでしょ。未練を残されると化けて出てきそうですし」

 

「そん時はゴーストバスター束さんの出番だね!」

 

「……束さん、霊感ないじゃないですか」

 

「この特殊ゴーグルを使えば、見えないものも見えるようになるのさ!」

 

 

 自信満々に取り出したゴーグルを装着すると、束はすぐにそれを外し床にたたきつける。何事かと思い一夏も束が見ていた方を集中して見ると、うっすらと何かが見えたような気がしたのだった。

 

「いたんですね?」

 

「……束さん、非科学的なものは信じないもん」

 

「怖いなら作らなきゃよかったのに……」

 

 

 闇鴉に除霊を任せ、一夏はバックアップデータの管理を厳重にするために、更識の機密データと同じぐらいのロックを掛け、パスワードも複雑なものにしておいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 整備室の前で待機していた碧だったが、作業を終えて出てきた一夏と束が妙に暗い印象で何事かと首を傾げ問いかける。

 

「何かあったのですか?」

 

「……あれは非科学的物……束さんは何も見てない」

 

「ちょっと地縛霊的なものを見てしまったようでしてね」

 

「私が話を付けて成仏してもらいました」

 

「……万能ですね、闇鴉は」

 

 

 どう反応した物かと悩んだ結果、碧は闇鴉を賞賛する事で誤魔化したのだった。

 

「ところで、出てきたという事は整備は終わったのですね?」

 

「一応は大丈夫だと思います。後は篠ノ之がどこまでまともになっているか判断して、ISを持たせても大丈夫だと分かれば使ってもらいましょう」

 

「その辺は大丈夫だと思うよ。いっくんがビックリするほどまともな箒ちゃんになって帰ってくると思うから」

 

「一夏さんは篠ノ之さんにトラウマを抱えていますので、その判断は我々従者が行います」

 

「お、襲ってこなければ大丈夫ですから」

 

「一夏さん、足が震えてますよ」

 

 

 箒の名前を聞いただけで、若干の恐怖を覚えた一夏の強がりは、すぐ傍で見ていた闇鴉によってバラされた。自分でも強がっている事を自覚していた一夏は、素直に碧たちに判断を任せる事にしたが、その時の表情はとても申し訳なさそうに思えるものだった。

 

「気にしないでください、一夏さん。貴方の為に働くのが私たちの喜びなんですから」

 

「いい加減トラウマも克服しなければいけないんでしょうが、篠ノ之の方は兎も角として、女性恐怖症は何とかしないと」

 

「跡継ぎも作れないもんね~」

 

 

 束に冷やかしに、碧は顔を真っ赤に染め上げ、一夏に不審がられるのだった。




科学者だから、非科学的なものは弱いんでしょうね……

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