暗部の一夏君   作:猫林13世

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妄想族が多い世界だ……


真夜中の妄想

 早めに寝たお陰か、妙な時間に目が覚めた簪は、ちょっとした出来心でベッドを移動しようと立ち上がった。

 

「(美紀だって篠ノ之さんがいた時は結構一夏と一緒に寝てたらしいし、これくらいは別にいいよね?)」

 

 

 誰に問いかけるでもなくそう心の中で自問自答し、いざ一夏のベッドへと思ったところで立ちくらみを起こしてその場にへたり込んでしまった。

 

「あ、あれ……まだ治ってなかったのかな……」

 

 

 一夏が手厚い看病をしてくれていたとはいえ、まだ万全ではなかった体調で一夏と一緒に寝る妄想をしてしまった所為で再び熱が上がってしまったようだ。

 

「と、とりあえずベッドに戻らないと……」

 

 

 はいつくばってでもベッドに戻ろうと思ったが、動いただけで気持ち悪さが込みあがてきて、どうにも身動きが取れなくなってしまった。大声を出せば一夏は起きるかもしれないが、一夏も体調が万全ではない上に、自分の妄想が原因で熱が上がったなど、恥ずかしくて一夏に言えるわけがない。

 

「ど、どうしよう……」

 

「なにしてるんだ?」

 

「えっ? 一夏……起きてたの?」

 

「早く寝た所為か妙な時間に目が覚めてな。柳韻さんからの報告メールが昨日の夜来てたらしくて、今それに返信してたところだ。それで、簪は何をしてるんだ?」

 

「えっと……トイレに行こうかと思ったけど、立ち上がったところで立ちくらみを起こしてどうにもこうにも……」

 

「トイレか……連れて行ってやることは出来るが、動けないんじゃ一人で出来ないよな……碧さん、起きてるか聞いてみるか」

 

「だ、大丈夫! もう引っ込んだから」

 

「……我慢は身体によくないと思うが、こればっかりは俺が追及すると変態みたいだしな。とりあえずベッドに戻った方が良いぞ」

 

「動けないんだってば……」

 

 

 情けない声を出す簪にため息を禁じ得なかった一夏だったが、とりあえずは抱き上げてベッドに簪を戻した。

 

「明日からは俺じゃなく美紀にこの部屋にいてもらおうか?」

 

「大丈夫、こんなことはもうないだろうし……(い、言えない……一夏と一緒に寝る妄想をして体調を悪化させたなんて……お姉ちゃんじゃないんだから……)」

 

 

 心の中で自分の行動を反省しながら、簪は再び眠りに就いたのだった。それを見守った一夏は、柳韻から送られてきた現状報告メールを呼び出し、右手で頭を掻いた。

 

「束さんの開発した薬とはいえ、完全に記憶を消してしまうとはな……だが、身体が覚えてるようで剣道の腕はすぐに回復してるみたいだ……これから考えるに、ISも簡単に動かせるのだろうな」

 

 

 箒の専用機という事になっているサイレント・ゼフィルスも解体する必要は無さそうだと考えながらも、万が一の為にセーフティーロックを掛けておいた方が良いのではないかと思考を巡らせる。

 

「こちらの戦力は本音主導で底上げが出来ているが、最初から暴走されるのを前提で物事を考えるのは虚しい気もするが……今までの言動がアレだったから、仕方ないのかもしれないがな」

 

「一夏さん、サイレント・ゼフィルスの心を開くことに成功しました」

 

「いきなり人の姿になるなと言ってるだろ……まぁいい。漸く外部アクセスに成功したのか」

 

「私が何度も呼びかけ、無理矢理意識を覚醒させた訳ですけどね」

 

「……まぁいい。夜が明けたらサイレント・ゼフィルスに会いに行くか」

 

 

 現状は一夏が良く使う整備室の最奥に保管されているのだが、さすがにこの時間から作業をすれば誰かに怒られる可能性が高い。それは一夏も弁えているので、今すぐにとは言わなかったのだ。

 

「簪さんの看病を誰かに引き継いでもらわなければなりませんし、一夏さんだってまだ立ちくらみする可能性がありますしね」

 

「整備の手伝いは簪が一番適任なんだが……仕方ないか」

 

 

 美紀のベッドで安心しきった顔で寝ている簪を見て、一夏は頭を振って他の候補者を探す。

 

「虚さんも整備は出来るが、手伝ってもらうと生徒会の仕事が終わらないだろうし、美紀には簪を任せたいしな」

 

「本音さんは如何でしょうか? 彼女は一応整備の腕がありますし、一夏さんの為になら喜んで動いてくれると思いますよ」

 

「だが、本音には今戦力の底上げを頼んでるし、腕は在ってもやる気は無さそうだしな……アイツも身体を動かしてる方が楽しいだろうし」

 

「そうなるといよいよ人が……あっ、マナカさんは如何です? 天才的な頭脳と神のような整備技術を併せ持っていますよ」

 

「マナカの状態は俺より酷いんだ。フォローするのがどっちになるんだという話にならないか?」

 

「そうでしたね……マナカさんは日常生活にこそ支障はありませんが、整備や戦闘はまだ全然ダメだったんでしたね……」

 

 

 いよいよ八方ふさがりかと思いかけたタイミングで、一夏の携帯が鳴った。

 

『いっくん、誰かを忘れてないかな~?』

 

「部外者を簡単に学園へ入れるわけにはいきませんので」

 

『部外者じゃないよ~! ISの生みの親にして、いっくんが現状頭を悩ませている箒ちゃんのお姉ちゃん、そしていっくんの未来の――』

 

「では、夜が明けたら学園に来てください」

 

『えっ!? ちょっといっく――』

 

 

 まだ何か言いたげだったが、一夏はこれ以上話す事がないので電話を切った。その鮮やかな手口に、闇鴉は賞賛の拍手を一夏に送ったのだった。




簪の妄想は可愛いものですがね

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