暗部の一夏君   作:猫林13世

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こっちの姉妹もなかなか……


姉妹の語らい

 刀奈の姿が見えないことが気になりながらも、かといって探し回るのもおかしいと思って大人しくしていた虚だったが、もしかしたらと思い一夏たちの部屋を訪ねてみたら案の定刀奈もいた事に頭を押さえた。

 

「お嬢様……姿が見当たらないと思っていましたら、こんなところでサボっていたのですか」

 

「サボってないわよ!? 一夏君の代わりに溜まってる仕事をここでしてただけだもん」

 

「一夏さんの代わりと仰りましたが、元々はお嬢様が片づけるべき仕事ですので」

 

「分かってるけど、それだけじゃないもん! 普段私が見た事無いような物もちゃんとやってるんだから」

 

 

 そう言って刀奈は、自分が片づけた仕事の中から、普段でも一夏がやっている仕事を引っ張り出して虚に見せつける。

 

「これが出来るのでしたら、普段からしっかりとしてもらいたいものですが」

 

「うっ……一夏君に聞きながらやったから、一人でやれと言われても出来ないわよ……」

 

「まぁそんな事だろうとは思ってましたが、何故いきなりしっかりしようと思ったのです?」

 

「それは…その……」

 

 

 言いにくそうにしている事が引っ掛かり、刀奈が何を隠しているのかを虚は問いただした。

 

「また何かを壊したりしたのですか?」

 

「壊してないわよ! てか、またってなに!?」

 

「いえ、この前部屋の窓を割ったからという理由で仕事をしていたので、また何か壊したのかと思っただけです」

 

「あれは私じゃなく薫子ちゃんが……って、そんな話はどうでも良いわよ。今回は一夏君が倒れたからお姉ちゃんとしてしっかりしなきゃと思っただけよ」

 

 

 理由としては納得出来るが、刀奈の態度や目が泳いでる事が気にかかり、虚は無言のプレッシャーを刀奈にかけ続ける。

 

「うぅ……本当は一夏君に意識してもらいたいから頑張ってました」

 

「お姉ちゃん、あの会話聞いてたの?」

 

「さっき言ったでしょ? この学校には一夏君専門のストーカーがいるって」

 

「マナカは後でお説教だな」

 

「理由はともあれ、仕事をしっかりとすることは良い事ですね。ではお嬢様、生徒会室にある仕事も片付けてください」

 

「えっ、そっちは私の仕事じゃ……」

 

「お嬢様の仕事ですよ? 普段私や一夏さんが肩代わりしていただけで、生徒会に来る仕事の大半はお嬢様が処理すべきものですので」

 

「聞いてないよ、そんなの~……」

 

 

 虚に引き摺られながら部屋を出て行った刀奈を見送り、一夏と簪は同時に噴き出したのだった。

 

「実にお姉ちゃんらしいね」

 

「まったくだ」

 

 

 ひとしきり笑った後、二人は大人しく寝る事にしたのだった。何時までも心配かけるのが忍びないと思ったのと、いい加減にしないと他の人間も突撃してくる可能性があると理解したからなのかは定かではないが、少しでも早く治そうという気持ちだけははっきりとしていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪と仲良さげに話してる一夏を覗き見ていたマナカは、どうやれば自分も一夏と楽しくお喋り出来るかを考え、一人では結論が出せないという事でマドカの部屋を訪れた。

 

「――てなわけなんだけど、アンタならどうする?」

 

「いきなり部屋を訪ねてきて何なんですか……兄さまは前から簪や刀奈さんとは仲良く話していますし、私や貴女とだって普通に話してるじゃないですか」

 

「私はお兄ちゃんともっと仲良くなりたいの!」

 

 

 マナカの本音に、マドカは「さすがは姉さまと同じ血が流れてるだけありますね」と思ったが、それを声にすることはしなかった。

 

「刀奈だってお兄ちゃんにくっつき過ぎてるのに、簪までお兄ちゃんにべったりじゃ私たちの立場が」

 

「立場?」

 

「妹のポジションが取られるってことよ!」

 

「そんなことを気にしてるんですか? 兄さまの妹は、私と貴女の二人だけです。確かに簪は義妹ですが、簪自身は義妹として扱ってほしくは無さそうですし、刀奈さんは年上ですから」

 

「妹っぽいのは他にもいるじゃん! お兄ちゃんが私たち以外を妹扱いしてるのが気に入らない」

 

 

 はっきりと言い切ったマナカに、マドカは頭痛を感じ始めた。

 

「とにかく、兄さまと仲良くなりたいのでしたら、盗撮や盗聴、周りを排除しようという考えを止める事ですね」

 

「それは出来ない! お兄ちゃんの観察はもはや日課だから」

 

「そんなこと言っていると、姉さまや束様のような扱いを受けるかもしれませんよ?」

 

「それは……」

 

 

 千冬たちが一夏からどう思われているかを知っているマナカは、あんなふうに扱われたらいやだという考えが信念を揺るがせた。

 

「で、でも……お兄ちゃんの成長を眺めるのが唯一の楽しみなんだから、それを止めるのは人生に終止符を打つのと同じ事……」

 

「いえ、そこまでの物ではないと思うのですが……私たちはもう、兄さまの側を離れる事はないのですし」

 

「確かにそうだけど、一時もお兄ちゃんの事を見てないなんて事が無いようにしたいの」

 

「それは妹というよりストーカー思考ですね……いい加減にしないと本当に嫌われてしまいますよ?」

 

「それだけは絶対にイヤ! 分かった、止める努力をしてみる」

 

 

 双子の妹の変態的思考に悩まされながらも、何とか更生出来るかもしれない可能性が見えて、マドカはホッと息を吐き心の中で一夏に話しかけたのだった。

 

「(兄さまの悩みの種、一つ除去出来るかもしれません)」

 

 

 一夏が何に頭を悩ませているかを知っているマドカは、少しでも役に立てたかもしれないという事に喜びを感じながら、マナカが去った部屋で小さくガッツポーズを見せたのだった。




マドカだけが一夏の救いになりつつある……

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